ビッグブラウンのステロイド使用を気にかけないスリーチムニーズ牧場(アメリカ)[その他]
リチャード・ドゥトロー(Richard Dutrow Jr.)調教師はビッグブラウン(Big Brown)に月1回ステロイドを投与していることを認めたが、これは三冠候補馬である同馬が競走引退後繋養されることになっているスリーチムニーズ牧場(Three Chimneys Farm)にとって大きな問題ではない。
ドゥトロー調教師が、プリークネスS(G1)競走前に、現在全勝でケンタッキーダービー(G1)優勝馬であるビッグブラウンを含む自身の管理馬すべてに月1回ウィンストロール(Winstrol 筋肉増強剤で一般的な名称はスタノゾロール)を投与していると認めたことで波紋が広がっている。ドゥトロー厩舎で行われているようなステロイド使用は決して珍しくはない。専門家は、ステロイドを許可している州において、ステロイドは60%の競走馬に投与されていると見ている。
ステロイド使用は繁殖能力に影響する可能性があるとされているが、これまでの研究では牡馬へのステロイド使用と繁殖能力との間に明確な関連性は見つかっていない。ハギャード馬診療センター(Hagyard Equine Medical Institute)のスチュアート・ブラウン(Stuart Brown, D.V.M.)獣医学博士は、「ステロイドを投与して出走する牡馬は一般的に睾丸収縮を経験するが、ステロイド投与をやめたときには睾丸は標準サイズにもどる」と述べた。同博士は、「長期間にわたる影響に関してさらに多くの研究が必要であるが、ステロイドが繁殖能力に与える作用を研究するには、多くの因子が関係しうるので困難です」と語った。
ブラウン博士は、「ステロイドが繁殖能力に影響を及ぼしているかもしれませんが、ジグソーパズルの1ピースにすぎません」と述べた。
ロバート・クレー(Robert Clay)氏とブライス・クレー(Blythe Clay)夫人が所有するスリーチムニーズ牧場がビッグブラウンの繋養について契約する前に、同馬に対して標準的な検査が実施された。同牧場のケース・クレイ(Case Clay)会長は、ビッグブラウンへの検査では懸念材料は何も見つからなかったと述べ、「当牧場では全ての種牡馬の睾丸を測定します。保険加入上の必要性からだけでなく、安心感を得るためにも、馬を入念に検査します。ビッグブラウンも問題ありませんでした。当牧場は同馬を種牡馬として繋養することに満足し、同馬が到着することを待ちのぞんでいます」と語った。
三冠レースを施行する3州(ケンタッキー州、メリーランド州、ニューヨーク州)でステロイドが許容されるのは今年が最後であるので、ビッグブラウンはベルモントステークスに勝てば、ステロイドを投与された最後の三冠馬になる。現在調教中のステロイド投与を禁止している州が10州あるが、2009年までに上記の3州がこれに加わるだろう。
ケンタッキー州競馬統括機関(Kentucky Horse Racing Authority)に薬物規制について助言しているケンタッキー馬薬物審議会(Kentucky Equine Drug Council)は、ステロイドに関する方針を見直すために分科会を設けた。
メリーランド州は、現在行われているピムリコ競馬場での開催開始時から調教中におけるステロイド投与を禁止することを計画していたが、実施はホースマンからの圧力があったため2009年1月に延期された。メリーランド州競馬委員会(Maryland Racing Commission: MRC)のジョン・フランゾーン(John Franzone)委員長は、4名からなるMRCの調査特別委員会が年末までに調教中におけるステロイド規制を実施することを目標に、引き続き問題と規制内容を研究すると発表した。
ニューヨーク州競馬賭事委員会(New York State Racing and Wagering Board)は現在、ステロイド使用についての情報を収集中である。
ドゥトロー調教師は、ウィンストロールがビッグブラウンに競走上何らかの有利性を与えたとは考えていない。
同調教師は、「もしステロイドが禁止になっても、特に影響はありません。馬の被毛にあまり光沢がない場合、ウィンストロールが役に立つようです。ウィンストロールの投与は馬の食欲を少し増進させ、馬を元気にさせるのに役立つように思います」と語った。
ステロイド投与について、ドゥトロー調教師の考え方は典型的である。薬物規制標準委員会(Racing Medication and Testing Consortium)の理事会の書記であり、カリフォルニア競馬委員会(California Horse Racing Board)の馬医療担当理事であるリック・アーサー(Rick Authur D.V.M.)獣医学博士は、「調教師たちは一般的に同業者との競争に取り残されたくないという考えのもとでステロイドを使用しています。ステロイドが許容されている州では、出走馬の約60%にステロイドが投与されているという調査結果があります」と語った。
アーサー博士は、「全ての薬物と同様に、ステロイドも、有利になろうとしてではなく、不利な立場でレースに出走したくないために使用されています」と付言した。
By Frank Angst
[Thoroughbred Times 2008年5月31日「Three Chimneys unconcerned with Big Brown’s steroid use」]