英国で日曜開催が主流でないのはなぜか?(イギリス)【開催・運営】
「日曜開催はサクセスストーリーです。それは大きな利益を競馬にもたらし、新しい観客と賭事客を惹きつけており、私たちはこれまでの実績を踏まえて事を進めていきたいと思います」。
当時のBHB(英国競馬公社:BHAの前身)のクリス・レイノルズ(Chris Reynolds)常務理事が2001年にこのような明るい見通しの評価を下した時、競馬の日曜開催は6周年を迎えようとしていた。当時日曜開催は競馬場に、年々増加する観客数と収益をもたらしていた。賞金額、出走頭数そして場外馬券売上げもまた上昇傾向にあった。
日曜開催は当初の5年間においては150万人の競馬場入場者を惹きつけ、1週間の中で最も人の集まる開催であった。そして、日曜開催を連続して施行するために競馬番組の更なる拡大が承認された。
サクセスストーリーが続いたことで2004年までに日曜開催日数は倍増したが、その後何かがどこかでうまく行かなくなり始め、日曜開催日数は減少し始めた。
競馬開催日数が飽和状態に達したことから、入場者数は頭打ちとなり、当初の人気は低下した。そして2008年には、レイノルズ氏の前向きな見解は、開催日数削減を勧告する厳しい評価に代わった。
デロイト社(Deloitte)がBHA(英国競馬統轄機構)のために実施した競馬開催日程の戦略的見直しにおいて、日曜は最も機能していない競馬開催日と宣告された。1日平均の利益と1レース平均の賭事売上げは、日曜日はほかの曜日よりも低く、1日平均の賞金額も平均を下回っていると評価された。
2011年夏までにおいて、日曜開催をどう扱うべきかの議論には進展がない。
ニューマーケット競馬場のジュライカップ(G1)の開催日をすでに他の3場で人気開催のあった土曜日に移動させたことは、競馬が土曜日に集中しすぎているという不満をもたらし、今度は過密を和らげるためにいくつかの一流競走を日曜に移す提案をもたらした。
BHAは、質の高い日曜競馬開催を組み込めば観客は集まるだろうと確信しているが、地上波のテレビ放映がされなければ、この変更にほとんど食指が動かないのが商業的現実である。そして放送局は日曜日の競馬放映には冷ややかである。
チャンネル4の競馬への支援がなければ、英国で2つだけの質の高い日曜開催、すなわち英1000ギニーとチェルトナムオープニングミーティングの最終日は実現不可能かもしれないというのが現実である。
競馬変革プロジェクト(Racing For Change)を実施するレーシングエンタープライズ社(Racing Enterprises Ltd.: REL)のCEOロッド・ストリート(Rod Street)氏は、「誰もが過密状態を認めたジュライカップの週末についてはいろいろな批判があったと認識していますが、大局的に考えれば、年間52日ある土曜開催のバランスを取ることと、土曜開催を可能な限り強化し競馬産業にとって確実に実入りのある日にすることにポイントがあります」と語った。
そして次のように続けた。「このことは2010年1月に検討され日曜開催も次善の策とは認められましたが、私たちは与えられているカードでプレーしなければなりません。賦課金収入が減少している上にテレビ中継を行う放送局を確保するという手腕を問われる環境の下で、私たちはそれに取り組んでいます」。
ストリート氏は、日曜開催を発展させるに当たっての重大な障害はテレビ局側の意欲の不足であったと確信しており、次のように語った。
「非常にわずかな日曜開催しかテレビで見ることができず、このことが障害となっています。テレビ局の態度に変化があるならば、日曜開催がもっとやり易くなるでしょう」。
ストリート氏によれば、その他の問題への取組みは比較的簡単である。「私は入場者数に大きな問題はないと考えており、土曜開催と同様ではないとしても賭事の観点からすれば比較的順調にいくと思います。接客サービスが充実するかという点では日曜日の競馬が健闘するのは難しいでしょう。しかし、ゴルフ、サッカーおよび自動車レースでは、日曜でも接客サービスの事業が運営されています」。
もしストリート氏が“競馬の日曜開催は健闘できる陣営”を代表しているのであれば、競馬場からのメッセージはいくぶん異なったものになる。
14場の競馬場を運営しているジョッキークラブ競馬場社(Jockey Club Racecourses: JCR)のポール・フィッシャー(Paul Fisher)社長は、「私たちがかつて都市部の競馬場で日曜開催を試みた時、その成功は限られたものでした」と語った。
JCRの競馬場は5つのクラシック競走のうちの4競走、チェルトナムフェスティバルおよびグランドナショナルを施行しているが、それらの至宝の競走のうちどれかを日曜日に移すことは受け入れがたい事柄のようだ。
フィッシャー社長は次のように続けた。「日曜日のレジャー市場は家族を対象としており、非常に競争の激しい市場です。日曜日の競馬開催時には接客サービスの事業がほとんど運営されておらず、ギニー競走の週末開催の土曜と日曜の売上げには本当に大きな差があります(訳注:英2000ギニーは土曜日に、英1000ギニーは日曜日に開催されている)」。
「私たちはまた、メディアとテレビにおける商業的側面を見なければなりません。私たちは土曜日と同じようなメディアの放映を日曜日には得られないでしょう。まったく起こり得ないとは言いませんが、確立するには長い時間が必要です。私は、ダービーとグランドナショナルを日曜に施行する賭けに出てメディアでの放映を失いたくありません」。
同社長は、「一流競走を日曜に開催するための資金がなければ、日曜開催を価値あるものにするための商業上の成果の数字は決して得られないでしょう」と付言した。
日曜開催のパイオニアであったアスコット競馬場は1995年に、フィリーズマイル(G1)を現在ではもはや行われていない9月の日曜日に移動させたが、一流レースでも予想したほどの金銭的利益を必ずしも創出しなかったことを実感した。
アスコット競馬場のCEOチャールズ・バーネット(Charles Barnett)氏は、「質の高いレースは賞金額が高く、その賞金額を賄うためにはスポンサーが必要となりますが、日曜開催のスポンサーを見つけることは容易ではありません」と語った。
そして次のように続けた。「日曜日は会社が接待を行う日ではありません。土曜日あるいは週の中ごろに比べて日曜開催の数字は劣ります。人々は日曜日に少しでも仕事に関わるようなイベントに参加することを好みません」。
「私たちは、家族を対象とする日程で成功を収めました。大レースでテレビ中継もある香港スプリントの日でさえも、私たちは家族向けのイベントを沢山用意しました。地上波で最高のレースを観たくても、日曜にはあまり競馬中継はされていません。土曜日で成功を収めているのにどうしてグランドナショナルを日曜に移そうと思うでしょうか」。
チャンネル4の 英1000ギニー(G1)の視聴率はその24時間前の土曜日に施行された英2000ギニー(G1)の視聴率に比べて健闘しているものの、土曜開催はテレビ局にとっては、まだ王様である。
チャンネル4のスポーツ中継の編集者であるジェイミー・エイチソン(Jamie Aitchison)氏は、「ジュライカップを土曜にしたことで視聴率がやや上昇しました。このことは同レースを土曜に開催するのにかなりの説得力となっています。非常に多くのレースを同一日に行うことは理想的ではありませんが、テレビで2時間余り中継するには良い結果をもたらします」と語った。
なぜ質の高い競馬中継を日曜日にもっと行わないのかという問いは、チャンネル4にとっては思いもよらないことのようである。
エイチソン氏は次のように付言した。「テレビ局として私たちに付託された権限は、視聴者に幅広いコンテンツを提供することであり、私たちはすでに非常に多くの競馬中継を流しています。全部で延べ80日の競馬開催を土曜に中継しており、競馬にかなり大きく関与しています」。
「私たちはただのスポーツチャンネルではありません。競馬中継を拡大し日曜開催を定期的に中継することは、現在のところ推進すべき策では全くありません」。
英国における日曜開催に関する歴史
1995年
1999年
2000年
2001年
2008年
2010年
2011年 |
By Jon Lees
[Racing Post 2011年7月19日「Why They Don’t Like Sundays」]