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2013年02月20日  - No.2 - 4

アガ・カーン殿下の世界的な生産事業(フランス)【生産】


 1957年7月に亡くなったアガ・カーン3世殿下(Aga Khan III )は遺言で、1,000万人以上の信者からなるイスマイル派の精神的指導者として、孫のカリム(Karim)を後継指名していた。これは、まだ20歳7か月の若者にとっては重すぎる責務であった。

 しかしアガ・カーン4世にとってのその責務には、祖父が創設し、父のアリ・カーン(Aly Khan)王子が共同経営者となっていた競馬・生産事業は少なくとも含まれていなかった。したがってアリ・カーン王子が生きていれば、同王子が引き続き一族の競馬界とのかかわりを持ち、サラブレッド産業に知識も興味もないと公言していた息子のアガ・カーン4世は精神的指導者としての責務に専念していただろう。

 アリ・カーン王子が1960年5月にパリで交通事故死するまでは、すべてが順調だった。しかしカリムは、父の死により当時まだ23歳で世界有数のサラブレッド事業のオーナーとなり、将来の決定を迫られた。すなわち約40年にわたって築き上げてきた事業体を存続させるべきか、所有馬をすべてを手放し一族が長きにわたって成功を収めてきた競馬への関与を終わらせるべきか。

 その決断を下させたのは所有馬の存在かもしれない。現役馬が彼の名前で出走し始めて3ヵ月経たないうちに、シャルロットヴィル(Charlottesville)が仏ダービーとパリ大賞典に、シェシューン(Sheshoon)がゴールドカップとサンクルー大賞に、プティテトワール(Petite Etoile)がコロネーションカップに、そしてヴェンチア(Venture)がセントジェームズパレスSとサセックスSに優勝した。アガ・カーン4世殿下は、1960年の競馬シーズン開幕時には所有馬がなかったが、閉幕時にはフランスのリーディングオーナーとなっていた。

 現アガ・カーン殿下は、明らかに繁栄している事業を受け継いだのであり、それを継続させるべきであるということは道理であった。しかしそのために、勝手の分からない新しい環境について即座に学ばなければならなかった。そして最初の重要な決断として、父と祖父のために尽力したアレック・ヘッド(Alec Head)調教師および1964年からはフランソワ・マテ(François Mathet)調教師と組んで、所有馬をフランスだけで管理することを決めた。

 英国の厩舎に興味を持ち始めたのは1970年代後半になってからであり、最初ほとんど熱意を持たずサラブレッド事業を開始したアガ・カーン殿下は、その頃までに世界を舞台とする競馬界の重要人物になっていた。同殿下は積極事業論者で、非常に負けず嫌いであり、父親や祖父と同様に取引においてやり手であった。

 アガ・カーン殿下の生産馬の中でまさに注目すべき最初の馬は、シルバーシャーク(Silver Shark)で、1965年に2歳でアベイドロンシャン賞を制した。その後の10年間で同殿下のオーナーブリーダーとしての経歴はますます充実し、特にゼダーン(Zeddaan)とその産駒カラムーン(Kalamoun)で注目を集めた。この両馬とも仏2000ギニー(G1)などに優勝している。

 1970年代のアガ・カーン殿下を象徴する最良馬は不思議にも同殿下の生産馬ではないが、同殿下が生産し売却した牝馬の仔であった。それはブラシッンググルーム(Blushing Groom)で、当歳時に1万6,000ギニー(約235万円)で購買されたあと調教により素晴らしい2歳馬となり、1977年に仏2000ギニーに優勝し、英ダービーは一番人気であったものの3着に敗れた。種牡馬となってからはケンタッキーを拠点とし、米国と欧州の両方で産駒勝馬数におけるリーディングサイアーとなった。

 アガ・カーン殿下の生産事業が大幅に拡大されたのはほぼその頃であった。大きく宣伝されていたデュプレ夫人所有のウイイ牧場(Haras d’Ouilly)の産駒セールは、アガ・カーン殿下が個人契約によって買い占めたことで直前に中止となった。また、同殿下は破産したマルセル・ブサック(Marcel Boussac)氏の生産事業全体も買い取ったため、1977年に75頭であった繁殖牝馬は、1980年には164頭にまで膨れ上がった。

 ブサック氏は、1950年半ばまでの30年間フランスのリーディングブリーダーであり、その後同氏の牧場は低迷したものの、依然として多くの優れた牝系が輩出していた。またデュプレ一族の生産事業も長い成功の歴史があり、その当時アガ・カーン殿下が述べたように、父と祖父が発展させたサラブレッドにこれらを加えることにより、数世代にわたってトップレベルで激しく競ってきた生産者たちの知恵の積み重ねを事実上手に入れたことを意味していた。

 繁殖牝馬頭数の拡大により、アガ・カーン殿下は、毎年一流の出走馬を生産できるはずであると確信した。どの所有牝馬がそれをもたらすかは知る由もなかったが、質の良い牝馬を多く有することで、単なる希望と言うよりも期待が持てた。記録によれば、パターン競走勝馬を1頭も生産できなかったのは1974年が最後である。

 デュプレ一族とブサック氏からの馬の購買は間もなく成功をもたらした。デュプレ一族が所有していた1歳馬のうちの1頭であるトップヴィル(Top Ville)は、アガ・カーン殿下に最初の仏ダービー勝利をもたらした。また繁殖牝馬の1頭は後のチャンピオンS勝馬ヴァイラン(Vayrann)を宿していた。ブサック氏の繁殖牝馬の中には、後にアガ・カーン殿下に初めての凱旋門賞勝利をもたらすアキーダ(Akiyda)を宿していたリカタ(Licata)と、ダルシャーンを産むこととなるデルシー(Delsy)がいた。ダルシャーンは仏ダービーを制し、後に種牡馬およびブラッドメアサイアーとして名声を馳せることになる。

 一方同殿下が引き継いだ牝系からトップクラスの馬が輩出し続けた。中でも祖父の最も重要視した基礎牝馬マムタズマハル(Mumtaz Mahal)から7代目で、英・愛ダービーとキングジョージに優勝したシャーガー(Shergar)ほど有名な馬はいないだろう。

 その後、シャーラスタニ(Shahrastani)、カヤージ(Kahyasi)およびシンダー(Sinndar)も英・愛ダービーを制したが、不運の名馬シャーガーは、アガ・カーン殿下の生産馬の中で最も傑出した馬として語り継がれている。シャーラスタニとカヤージは、アガ・カーン一族の古くからの牝系に遡り、シンダーはブサック氏の牧場の牝系に遡る。また最も近年のスーパースター馬である無敗の凱旋門賞牝馬ザルカヴァ(Zarkava)は、アガ・カーン殿下が父親から受け継ぎマムタズマハルに遡る偶像的な牝馬プティテトワールの直系の子孫である。

 21世紀に入ってからしばらくして、アガ・カーン殿下は、故ジャン=リュック・ラガルデール(Jean-Luc Lagardere)氏が残した良質のサラブレッドを獲得するため再び大きなまとめ買いを行った。ここで得た牝系からは、間もなくしてトップクラスの馬が輩出したが、最近一流牧場において異彩を放った馬としては、2012年仏オークス優勝後、残念ながら厩舎で致命傷を負ったヴァリラ(Valyra)がいる。

 アガ・カーン殿下個人用の最新スタッドブックには202頭の繁殖牝馬が登載されており、その生産記録には絶えず試行錯誤を行っていくという方針が示されている。生粋のスプリント馬は少ないものの、広範囲の種牡馬が供用されており、多くの牝馬は同じ種牡馬と2度交配することは決してない。これは長年にわたる殿下の鉄則であり、別掲の“アガ・カーン殿下生産のクラシック勝馬”の表で成果が証明されている。

 このように大規模な牧場を維持するには莫大な費用を要するだろうと思うのももっともだが、その牧場経営は単なる遊び道具では断じてない。収支の合うことが見込まれており、それは定期的な売却によって成り立っている。すなわち産駒の一貫した売上げがあり、それはしばしば実入りが良い。なぜなら、世界で最も成功している民間生産事業で作り上げられた優秀な牝系を利用したいと思わない人がいるだろうか?英・愛ダービーを制しBCターフを2勝したハイシャパラル(High Chaparral)も、アガ・カーン・スタッドが売却した繁殖牝馬から生産された傑出馬なのだ。

 

アガ・カーン殿下生産のクラシック勝馬

ゼダーン(Zeddaan)
1965年生 芦毛
父:グレーソブリン(Grey Sovereign)
母:ヴァレタ(Vareta)
母父:ヴィルモリン(Vilmorin)
主な勝鞍:仏2000ギニー、イスパーン賞
カラムーン(Kalamoun)
1970年生 芦毛
父:ゼダーン
母:カイルニサ(Khairunissa)
母父:プランスビオ(Prince Bio)
主な勝鞍:仏2000ギニー、リュパン賞、ジャックルマロワ賞
ニシャプール(Nishapour)
1975年生 芦毛
父:ゼダーン
母:アラマ(Alama)
母父:オリオール(Aureole)
主な勝鞍:仏2000ギニー
シャーガー(Shergar)
1978年生 鹿毛
父:グレートネフュー(Great Nephew)
母:シャーミーン(Sharmeen)
母父:ヴァルドロワール(Val De Loir)
主な勝鞍:英ダービー、愛ダービー、キングジョージ
ダルシャーン(Darshaan)
1981年生 黒鹿毛
父:シャーリーハイツ(Shirley Heights)
母:デルシー(Delsy)
母父:アブドス(Abdos)
主な勝鞍:仏ダービー
マサリカ(Masarika)
1981年生 鹿毛
父:サッチ(Thatch)
母:ミスメロディ(Miss Melody)
母父:チューダーメロディ(Tudor Melody)
主な勝鞍:ロベールパパン賞、仏1000ギニー
ムクタール(Mouktar)
1982年生 芦毛
父:ニシャプール
母:モリトヴァ(Molitva)
母父:トンピオン(Tompion)
主な勝鞍:仏ダービー
シャーラスタニ(Shahrastani)
1983年生 栗毛
父:ニジンスキー
母:シャデマー(Shademah)
母父:サッチ
主な勝鞍:英ダービー、愛ダービー
ナトルーン(Natroun)
1984年生 鹿毛
父:アカラッド(Akarad)
母:ニースディヴァイン(Niece Divine)
母父:グレートネフュー
主な勝鞍:仏ダービー
ドユーン(Doyoun)
1985年生 鹿毛
父:ミルリーフ(Mill Reef)
母:ダムカ(Dumka)
母父:カシミール(Kashmir)
主な勝鞍:英2000ギニー
カヤージ(Kahyasi)
1985年生 鹿毛
父:イルドブルボン(Ile De Bourbon)
母:カディシャ(Kaddissya)
母父:ブラッシンググルーム(Blushing Groom)
主な勝鞍:英ダービー、愛ダービー
フーマユーン(Houmayoun)
1987年生 鹿毛
父:シェルナザール(Shernazar)
母:ハルワー(Halwah)
母父:ザミンストレル(The Minstrel)
主な勝鞍:伊ダービー
シェマカ(Shemaka)
1990年生 鹿毛
父:ニシャプール
母:シャスナ(Shashna)
母父:ブレイクニー(Blakeney)
主な勝鞍:仏オークス
アシュカラニ(Ashkalani)
1993年生 栗毛
父:ソヴィエトスター(Soviet Star)
母:アシュタルカ(Ashtarka)
母父:ダルサーン(Dalsaan)
主な勝鞍:仏2000ギニー、ムーランドロンシャン賞
デイラミ(Daylami)
1994年生 芦毛
父:ドユーン
母:ダルタワ(Daltawa)
母父:ミスワキ(Miswaki)
主な勝鞍:仏2000ギニー、エクリプスS、マンノウォーS、コロネーションC、キングジョージ、愛チャンピオンS、BCターフ
エバディーラ(Ebadiyla)
1994年生 鹿毛
父:サドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)
母:エバジア(Ebaziya)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:愛オークス、ロワイヤルオーク賞
ティラーツ(Tiraaz)
1994年生 鹿毛
父:リアファン(Lear Fan)
母:タリクハナ(Tarikhana)
母父:ムクタール
主な勝鞍:ロワイヤルオーク賞
ヴェレヴァ(Vereva)
1994年生 黒鹿毛
父:カヤージ
母:ヴェアリア(Vearia)
母父:ミルリーフ
主な勝鞍:仏オークス
ザインタ(Zainta)
1995年生 鹿毛
父:カヤージ
母:ザイラ(Zaila)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:サンタラリー賞、仏オークス
ザライーカ(Zalaiyka)
1995年生 鹿毛
父:ロイヤルアカデミー(Royal Academy)
母:ザナディーカ(Zanadiyka)
母父:アカラッド
主な勝鞍:仏1000ギニー
センダワール(Sendawar)
1996年生 鹿毛
父:プリオロ(Priolo)
母:センダナ(Sendana)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:仏2000ギニー、セントジェームズパレスS、ムーランドロンシャン賞、イスパーン賞
シンダー(Sinndar)
1997年生 鹿毛
父:グランドロッジ(Grand Lodge)
母:シンタラ(Sinntara)
母父:ラシュカリ(Lashkari)
主な勝鞍:ナショナルS、英ダービー、愛ダービー、凱旋門賞
アラムシャー(Alamshar)
2000年生 鹿毛
父:キーオブラック(Key Of Luck)
母:アライーダ(Alaiyda)
母父:シャーラスタニ
主な勝鞍:愛ダービー、キングジョージ 
ダラカニ(Dalakhani)
2000年生 芦毛
父:ダルシャーン
母:ダルタワ
母父:ミスワキ
主な勝鞍:クリテリウムアンテルナショナル、リュパン賞、仏ダービー、凱旋門賞
シャワンダ(Shawanda)
2002年生 鹿毛
父:シンダー
母:シャマウナ(Shamawna)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:愛オークス、ヴェルメイユ賞
ダルシ(Darsi)
2003年生 鹿毛
父:ポリッシュプレセデント(Polish Precedent)
母:ダラシャンデ(Darashandeh)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:仏ダービー
ダルジナ(Darjina)
2004年生 鹿毛
父:ザミンダー(Zamindar)
母:ダリンスカ(Darinska)
母父:ジルザル(Zilzal)
主な勝鞍:仏1000ギニー、アスタルテ賞(現ロトシルト賞)、ムーランドロンシャン賞
アランディ(Alandi)
2005年生 鹿毛
父:ガリレオ(Galileo)
母:アリヤ(Aliya)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:愛セントレジャー、カドラン賞
ザルカヴァ(Zarkava)
2005年生 鹿毛
父:ザミンダー
母:ザルカシャ(Zarkasha)
母父:カヤージ
主な勝鞍:マルセルブサック賞、仏1000ギニー、仏オークス、ヴェルメイユ賞、凱旋門賞
サラフィナ(Sarafina)
2007年生 鹿毛
父:リフューズトゥベンド(Refuse To Bend)
母:サナリア(Sanariya)
母父:ダルシャーン
主な勝鞍:サンタラリー賞、仏オークス、サンクルー大賞
ヴァリラ(Valyra)
2009年生 鹿毛
父:アザムール(Azamour)
母:ヴァリマ(Valima)
母父:リナミックス(Linamix)
主な勝鞍:仏オークス 

   

By Tony Morris
(1ポンド=約140円)

(関連記事)海外競馬ニュース 2009年No.42「アガ・カーン殿下の歴史的偉業(フランス)」

[Racing Post 2013年1月1日「World’s dominant private operation」] 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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