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海外競馬情報
2014年09月20日  - No.9 - 4

競走当日の薬物使用問題について形勢が変わりつつある(アメリカ)【獣医・診療】


 競馬における薬物使用というテーマが意見を二分させることはそれほどないが、8月初めにこの議論においてどちらか一方の側につく稀な機会があった。複数の一流米国人調教師が競走当日の薬物使用を撤廃する計画を提案し、その後すぐに複数の有名なホースメングループがこの計画に反対したのだ。

 現在ラシックスはサラブレッドの肺出血の発症を減少させているのと同時に、米国の競馬サークルに分裂を招いている。さらに注目すべきことは、調教師は競走当日の薬物使用を撤廃したいが、競馬統轄機関はむしろそれを維持せざるをえないと考えていることである。取材許可証をもらっているのに皮肉をお許しいただきたい。立場が反対になれば誰も驚くことなど少しもないだろう。米国の調教師がラシックスの競走当日使用の段階的撤廃を望んでいるというニュースは大歓迎だし、世界中の競馬コミュニティーにより心から支持されるはずだ。

 ラシックスは、フロセミドの化合物の商標名である。フロセミドは利尿薬であり、血液を薄め、競走馬が激しい運動中に出血する可能性をずっと低くするようである。そして、もっと強力な禁止薬物の使用を隠ぺいすることもできる。

 ラシックスは競走能力向上薬であり、そうでないと言う者は自分自身をだまし、そして他の者もだまそうとしているのである。その一人がフィル・コンベスト(Phil Combest)氏であり、今回の調教師の姿勢に対する手厳しい批判者である。フロリダ・ホースメン共済協会(Florida Horsemen’s Benevolent and Protective Association)の会長を務める同氏は、ラシックスを“競走能力発揮補助薬”と呼び、弁解の余地のないことを弁護するために自ら言語的迷宮に陥っているきらいがある。

 米国ジョッキークラブのオグデン・ミルズ・フィップス(Ogden Mills Phipps)会長もトーストオブニューヨーク(Toast Of New York)を管理するジェイミー・オズボーン(Jamie Osborne)調教師もラシックスは競走能力向上薬であると言い、名声高いジョン・ゴスデン(John Gosden)調教師も競走能力を高めると言う。このまま解釈するのが妥当だろう。

 オズボーン調教師もゴスデン調教師も管理馬を米国で出走させる際にはラシックスを使用する。しかし、この“郷に入れば作戦”は、自身の管理馬が対抗馬ほど薬物を投与されていないのであれば不利となることを意味する。がっかりさせられることだが、理解できることである。大金と名誉が危機にさらされるのだから。しかし、フランス人のアンドレ・ファーブル(Andre Fabre)調教師は管理馬が米国で出走する際にはラシックスを使用しないと主張しており、また、米国人のウェスリー・ウォード(Wesley Ward)調教師はロイヤルアスコット開催に出走した管理馬にラシックスを使用しなかったが大健闘した。

 米国競馬におけるラシックスの広範にわたる使用は1970年代に遡る。陰謀説を唱える人々は、ラシックス使用が広まってから三冠馬が出ていないという事実を大騒ぎで指摘し、心配したがるのかもしれないが、その使用はずっと続いている。馬Aは必ずしも慢性的に出血を発症するわけではなく、馬Bがラシックスを与えられているからという理由でラシックスを与えられている。

 米国におけるラシックス使用は取締り不可能となったので、規制がたやすく取り払われてしまい、とりわけラシックスが血中カルシウム濃度を激減させ骨を弱くする結果をもたらすので、ラシックスは馬の健康問題というよりも馬の能力を発揮させる方策として使用されているという意見が多数ある。米国のサラブレッドは以前ほど逞しい動物ではなくなったが、おそらくそれはラシックスの使用の拡大も一因となっていると言える。

 今回提案を行った調教師たちは今や、競走当日の薬物使用をどのような形であれ禁止することによって時計の針を戻そうとしており、来年から段階的な禁止に踏み切り、米国を他の競馬国と同じ水準にすることを望んでいる。これが好意的に迎えられない理由は理解しがたいが、ニューヨーク州サラブレッドホースメン協会(New York Thoroughbred Horsemen’s Association)のリック・ヴァイオレット(Rick Violette)会長は、これが馬、馬主そして賭事客に破滅的な影響を与え、小規模な事業を営む調教師の生活を脅かすと考えている。

 賭事客にとってラシックスを少量加えられた馬が出走するレースと、全く薬物が使用されずに馬が出走するレースの間には何の違いもないのだから、ヴァイオレット会長が賭事客に言及するのは、競馬産業の大部分に対する必死のご機嫌取りに他ならない。ルールはどのようなものであっても全員に適用されるのであれば、何よりも公平でなければならない。

 ラシックスは短期的には一部の馬に効果を与えるかもしれないが、競走能力発揮のためにそれを真に必要とする馬にとってはキャリアを縮めるものである。(長期的には血統は繁栄するのだろうが。)そして競走当日に薬物を使用する手腕が、弱小調教師を競馬界で長く活動させ続ける唯一の方法であるとするならば、おそらくそのような調教師がいない方が競馬のためになるに違いない。

 私たちは以前ここまでたどり着いていたことがあった。ブリーダーズカップ協会(Breeders’ Cup Ltd.)は2012年にブリーダーズカップの2歳馬限定競走でラシックス使用を禁止し、2013年にはすべてのレースでラシックスのない大会を開催することを目指していたが、臆病にもその誓約を撤回した。しかし今は姿勢が変わりつつあるという兆候がある。

 ルール変更が可能になる前には、姿勢が変わらなければならない。D・ウェイン・ルーカス(D. Wayne Lukas)調教師、グラハム・モーション(Graham Motion)調教師およびトッド・プレッチャー(Todd Pletcher)調教師などのベテラン調教師が競走当日薬物使用の撤廃に賛成の立場を表明したことは、形勢が変わってきていることを示している。そして、ラシックスが競走当日に使用できなくなれば、それを使用することに意味はなくなるだろう。薬物を排除してしまえば、立ち直りが始まるかもしれない。

By Steve Dennis

[Racing Post 2014年8月7日「Tide is beginning to turn in US drugs battle」]


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