刑事裁判中の馬主資格問題(アメリカ)[その他]
年度代表馬として有望なカーリン(Curlin)は、今年数々紙面を飾ったが、それは競走成績だけではない。同馬の共同所有者である2人の弁護士が、“フェンフェン(ダイエット薬)薬害事件”の依頼人に渡すべき解決金を横領していたかどで逮捕・拘留されたことも新聞紙上をにぎわせた。
カーリンの所有権の20%はミッドナイトクライステーブル(Midnight Cry Stable)が有しており、このステーブルのオーナーが、この2人の弁護士、ウィリアム・ガリオン(William Gallion)氏とシャーリー・カニンガム(Shirley Cunningham)氏である。
2人の弁護士を取り巻く裁判はすぐには終りそうになく、このことにより米国には犯罪で起訴されたり、有罪判決を受けた者に競走馬所有を禁じるルールがあるのかどうかという疑問の声が上がった。
競馬産業の規則の大部分は、州によって異なる。
競馬の公正確保を守り支えることを目的とする、北中米競馬委員協会(Association of Racing Commissioners of International: RCI)のエド・マーティン(Ed Martin)会長は、「誰かが犯罪で起訴されると、各州の競馬委員会は苦しい立場に陥ります。それが重大犯罪の場合、競馬にとって大きな打撃となります。迅速に対処できない場合には、競馬のイメージを守るために一定期間馬主資格を返上してもらうことが賢明なやり方です」と述べた。
誰かに初めて馬主資格を授与する場合、通常ガイドラインは一貫している。ほとんどの州では、馬主資格申請者は、申請手続きの一環として、指紋を採取され犯罪経歴のチェックを受けなければならない。もし重大犯罪により有罪判決を受けたことが分かった場合は、各州の競馬統括機関は馬主免許の発行を拒否できる。
ガリオン氏とカニンガム氏の事案のように、馬主免許を有している者が犯罪で起訴された場合、事態はもっと複雑になる。それが重大犯罪であれば、州の競馬委員会は、裁判が続いている間に、その馬主に自発的に馬主免許を返上するよう要請できる。もし馬主がそれに応じなければ、競馬委員会はその事案について議論するために聴聞会を開くことができる。
マーティン会長は、推定無罪の原則があるので、競馬委員会における手続きは複雑になりがちだと述べた。
RCIは、各州の競馬委員会を支援しているだけだと明言する同会長は、「すべてはケースバイケースで対応されています。しかし各競馬委員会は、競馬界に既決重罪犯がいることを望みません。もし誰かが有罪判決を受けたことが判明すれば、競馬委員会は馬主免許を取消す手続きを始めるでしょう」と述べた。
カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board: CHRB)は、馬主免許を持つ者が重大犯罪で起訴されたがまだ有罪と決まっていない状況に対して、以下のような規則を定めている。
CHRB規則1902 項[競馬への有害な影響をもたらす行為]には、競馬委員会は、馬主が犯罪により“逮捕あるいは起訴された”場合において、それが競馬の利益を害するときは、馬主免許を一時停止あるいは取消すことができると規定している。CHRBのイングリッド・ファーミン(Ingrid Fermin)常務理事は、「ただし、その者は聴聞を受ける権利があります。起訴されたからといって必ずしも有罪になるとは限らないのです」と述べた。
カリフォルニア州の規則は、ケンタッキー州競馬統括機関(Kentucky Horse Racing Authority: KHRA)の規則とわずかに異なっている。ケンタッキーの規則は、“犯罪の有罪判決”が馬主免許の“拒否、一時停止、取消し”の理由となるとしている。
KHRAの常務理事リサ・アンダーウッド(Lisa Underwood)氏は、KHRAとしてはその人物が有罪判決を受けないかぎり、馬主免許を取消さないと述べた。この理由により、ケンタッキー州で馬主免許を得ているガリオン氏とカニンガム氏は、逮捕されたことだけの理由で馬主免許を取消されることはない。
アンダーウッド常務理事は、「もし彼らが有罪判決を受ければ、KHRAは彼らの馬主免許を当然見直します」と述べた。
また同常務理事は、指紋採取制度(1994年に規定を廃止)を再制定し、来年の最初の申請者から適用する予定だと述べた。
By Jason Shandler
[The Blood-Horse 2007年12月1日「Owner licensing rules addressed on case-by-case basis」]