海外からの遠征馬にもアナボリック・ステロイド規制を徹底(イギリス)[獣医・診療]
テイクオーバーターゲット(Takeover Target)は、英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)が7月20日に運動能力向上薬物についての規制方針を徹底したため、イギリス競馬に参戦できなくなる恐れがある。
2009年1月1日からBHAの規制により、海外の調教師は自身の管理馬が“治療目的ではない薬物”を投与して調教されていないことを宣言しなければならず、それをしない場合にはイギリスの競走への出走が禁止されることとなる。
この動きは、マーク・ジョンストン(Mark Johnston)調教師の率直な批判すなわち、外国馬が過去にアナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)などの禁止薬物を投与されていたにもかかわらずイギリスの競走へ出走が奨励されている現状についての批判に対する反応であると見られている。
ジョンストン調教師は6月、オーストラリア人のピーター・ムーディー(Peter Moody)調教師とジョー・ジャニアック(Joe Janiak)調教師を相手に口論した。ジャニアック氏はアスコットでの本命馬テイクオーバーターゲットの調教師である。同馬はキングススタンドSに優勝した後、2006年末に香港の薬物検査で陽性反応を示し出走が認められなかった。8歳である同馬は、6月のロイヤルアスコット開催で痛めた靭帯が回復途上にあり、ジャニアック調教師は2009年6月の同開催で同馬に4回目の出走をさせる可能性を否定していない。
しかし新たな規制の下では、ジャニアック調教師は香港におけるテイクオーバーターゲットの薬物陽性反応を巡る状況について説明しなければならなくなる。ジャニアック調教師はアナボリック・ステロイド投与は空輸される同馬のために獣医師が勧めたものであると述べたものの、これが“治療目的の使用”と解釈されるかどうかについてはグレイゾーンである。
BHAの馬科学・福祉担当理事であるティム・モリス(Tim Morris)氏は次のように説明した。「もしテイクオーバーターゲットが来年イギリスのレースに出走するのであれば、調教師は宣言書への署名を求められます。私たちは過去に何がなされたか理解することを望みますし、疑問がある場合は調査を続けます」。
「噂されているように獣医師の処方箋なしで日常的な使用があった場合、アナボリック・ステロイドは常識的にも獣医師の処方箋外の薬物とは認められないでしょう」。
イギリスにおいては運動能力向上薬物の使用は禁止されている。この運動能力向上薬物には、アナボリック・ステロイドも含まれている。また、筋肉を増やし脂肪を減らす“副次的な効果”を期待して気管支拡張剤を使用することも禁止されている。しかし、調教下にない馬へのアナボリック・ステロイドの獣医学的使用は獣医師の処方があれば容認される。
このような調教中の薬物使用禁止姿勢は、ヨーロッパ全域で一致しており、多くの競馬国において類似しているが、世界で統一されているわけではない。米国は、ヨーロッパ基準からは隔たっているが、アナボリック・ステロイド規制強化に向かっているものの、依然際立った例外である。
モリス氏は次のように付け足した。「私たちはイギリス競馬が公正かつ安全であることを絶対的に明確にする必要があります。すべての調教師および馬主にとって公平な競争の場であることが必要であり、同時に馬の健康は守られるべきです」。
「競走馬は治療に必要な時に限り薬物が投与されるべきであり、競走当日には体内に薬物がない状態にあることが必要です」。
「私たちはヨーロッパ圏外の馬の調教師に対して、治療目的ではない薬物、特にアナボリック・ステロイドと気管支拡張剤を投与した状態で調教しておらず、かつ調教したことがないという宣言を求めます」。
「海外からの遠征馬はすでに競走の前に薬物検査を受けていますし、私たちは他の競馬統括機関と協力して出発前の薬物検査も検討します。その他のチェックも全ての輸入馬と海外からの出走馬に実施します」。
「私たちは国際競走を心から支持しますし、米国がアナボリック・ステロイド規制におけるモデルルールを一致して採択することを歓迎します。このような統一した取組みこそ競馬のためになるのです」。
ジョンストン調教師は、「私たちが模索しているのは公平な競争の場であり、BHAの今回の措置は正しい方向への大きなステップです」とコメントした。
By Graham Green
[Racing Post 2008年7月21日「New steroid ruling could bar overseas stars from Britain」]