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海外競馬ニュース
2010年05月27日  - No.21 - 2

オックス調教師の賭事業者への憤慨、競馬資金の将来問題を提起(アイルランド)[開催・運営]


 4月初めのアイルランド議会の合同委員会は、最後にかなりの波紋を残して終了した。さまざまな競馬関係者に、将来の競馬への財政支援に関する見解について上院および下院の議員とやりとりする機会を与えたこの合同委員会は、セッション終了間際まではいつも通りの流れであった。

 パディパワー社(Paddy Power)のCEOパトリック・ケネディー(Patrick Kennedy)氏が、「現在アイルランドで提供されている競馬システムとアイルランドの生産者と調教師が提供している馬との質の間には差がある」と仄めかす言葉をふと口にしたのは、まさにセッション終了間際で同氏が政治家から投げかけられた具体的な質問に対して応答するやりとりの中であった。

 やや不器用かつ直截な表現ということであればある意味ではそのとおりであろうが、誤解を招く可能性もある言い方であった。ケネディー氏は事前になされていた一連の質問に答えるのに十分な時間を与えられていたので、ぶっつけ本番ではなかった。そのとき同氏は自分が感情的な語調を強めていることに気づかなかったはずはない。その語調は、会合の前半に配布した演説原稿の基盤となる正確な情報に基づく姿勢とは対照的であった。

 ケネディー氏の発言は、ホースレーシングアイルランド(Horse Racing Ireland: HRI)のCEOブライアン・カヴァナー(Brian Kavanagh)氏の強い反発を引き起こし、合同委員会が終盤に差し掛かったときに、HRIの代表たちの間には明らかな憤慨の念があった。

 その翌日、HRIの代表団において調教師を代表し議会で短い演説を行ったジョン・オックス(John Oxx)調教師は、アイルランドの競馬の報道関係者に向けて、公開書簡を発表した。その書簡において、同調教師はケネディー氏のコメントが侮辱的で不正確なものであるとし、同氏がアイルランド競馬の評判を台無しにしていると非難し、また同氏がセッションの間じゅう傲慢な態度であったことを引き合いに出し、ケネディー氏を激しく攻撃した。

 これは、オックス調教師が発した非常に強烈なメッセージであり、控え目かつ穏やかで、冷静、慎重な普段のオックス調教師からは到底考えられない意思表明である。オックス調教師は常に競馬界の政治的な外交面で影響力を持ってきた。そして2009年の輝かしいシーズンにおいて、シーザスターズ(Sea The Stars)に関心を向けた広報活動すべてをうまくこなしたことで、知的かつ威厳のあるやり方で考え抜いた意見を述べる同調教師の評判は確かなものになった。

 要するに、オックス調教師は仕事の面でいら立ちを表わすような人物ではけっしてなく、今回の意見表明は、公開書簡で呼びかけている“調教師仲間と競馬界および競走馬生産界の人々”に伝えるために覚悟して活字にした、怒りの表明である。

 ケネディー氏へのオックス調教師の回答には、自身が正しいと信じていることへの根強い情熱が反映されている。そもそも同調教師は、自分自身のためばかりでなく、仕事にとどまれる能力があるかどうかに生活が掛かっているスタッフを代表して意見を述べた。世界最大のオーナーブリーダーの1人であるアガ・カーン(Aga Khan)殿下の支援を得て、オックス調教師の将来は大多数の調教師よりも保証されていると思われる。同時に同調教師は、アイルランド競馬全体が資金調達の潜在的危機に晒されていることを誰よりもよく知っており、調教師仲間を代表して書簡の中で訴えかけているという意味合いもある。

 ケネディー氏としては、株主の利益を向上させることを第一の責務とし、これを委員会で取り上げることは絶対不可欠であるという考え方から、4月7日の会合に出席した。「アイルランド競馬が資金調達のトラブルに陥ったことは全く遺憾であり、私たちはもっと多くの税金を納めることで、喜んであなた方をそのトラブルから救い出すでしょう」というようなことをケネディー氏が述べると誰が本気で思ったでしょうか?

 この委員会に参加した政治家の中には、競馬界の全員の意見一致が得られることを望んでいると表明した者もいた。賞賛に値する発言だが、根本的に的外れである。競馬および競走馬生産業と賭事産業という2つの異なる産業は、その利害がここ数年でいっそう相互排他的になり、賭事パターンは変化し、近年行われていた助成金の形での政府から競馬への資金提供は終わりを迎えている。

 国庫からの競馬への資金提供が現在のところ政治的に支持できないことは全員が一致している一方で、国会議員は基本的にHRIにより説明された状況に対して同情を示した。私の見るところ、合同委員会において最も理路整然と説得力のある演説を行ったのはメアリー・アップトン(Mary Upton)氏である。都市部を拠点とする労働党の下院議員が競馬への財政支援に関する議論においてこのような賞賛を獲得すると誰が考えたであろうか?

 他の数人の下院議員と上院議員は、農村経済における競馬および競走馬生産の重要性を理解する様子を示した。したがって、こうした競馬産業全体が農村経済および農業に占める重要性への責任感から、今後数ヵ月においてこの側面が討論の中心的課題になるチャンスは大いにある。

 競馬および競走馬生産の関係者にとって、力強くこの実情を表明していくことがこれまで以上に重要である一方、それがパディパワー社単独であろうと、さまざまなブックメーカーの団体であろうと、ベットフェア社(Betfair)であろうと、賭事産業は自分たちとは異なった行動計画を持っているという商業の現実を心にとめておく必要がある。

 ケネディー氏は、アイルランド賭事市場で培った自身の会社の経験を詳細に分析して現在の行動計画の方向付けを行っており、問題は今や、ブックメーカーの実情が競馬および賭事産業の代表者としてのHRIの実情よりも説得力のあるものと政府が感じるかどうかということである。

 最終的には、オックス調教師が4月初めに認めたように政治家たちは重要な決定を行うだろう。アイルランド全体の状況といろいろな財政圧力の中で、このことは小さい問題に思われるかもしれないが、何千頭ものサラブレッドの重要性は過小評価されてはならない。

By Alan Sweetman

[Racing Post 2010年4月7日「Oxx's angry response on Kennedy comments underlines just how high feelings run over future funding of sport」]


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