馬主協会のCEO、賞金削減による馬主の英国脱出について警告(イギリス)[開催・運営]
競馬界では現在、英国で進行している“賞金削減の危機”に苛立つ馬主が、PMU(フランス場外馬券発売公社)がより魅力的な賞金を提供しているフランスの方へ関心を移すのではないか、との不安が高まっている。
馬主協会(Racehorse Owners’ Association: ROA)CEOのマイケル・ハリス(Michael Harris)氏は、ドーバー海峡を越えて馬主が大量に脱出する形跡は見られず、英国を離れていく馬主は現在のところかなり少ないが、2011年に見込まれる賞金削減でこの割合が増加することに懸念が高まっていると述べた。
同氏は次のように語った。「フランス競馬は、高額賞金に加えて馬主と生産者に対するボーナスもあり、英国競馬に対して魅力的な選択肢を提示しているのは一目瞭然です。このことは、私たちがなぜ英国競馬界の財源の問題を迅速に解決しなければならないかという議論の1つです」。
「私たちは長年にわたって、英国競馬への財源の不十分さについて議論してきました。しかし現在転換点にきており、何か措置が取られなければひどい悪夢が現実のものとなって競馬界をむしばみ解体してしまうでしょう」。
「私たちが現在2011年に向けて検討している数字は、雇用と農村経済を含む競馬界全体に想像を絶するほどの悪影響を及ぼすでしょう。誰が何と言おうと、賞金額は競馬界の経済循環において決定的な役割を担っています」。
ハリス氏は次のように付言した。「私たちは英国競馬が世界一であると考えたいですが、馬が上々に仕上がったときに商業的観点から最も魅力的な選択肢は海外に売りわたすことであるというような状況の中で、いつまで英国が世界一と正当化できるでしょうか?」。
ティパラリー州を拠点とするバンシャハウス・ステーブルズ(Bansha House Stables)のコン・マーナン(Con Marnane)氏は、毎年40〜50頭の1歳馬を購入し世界中のブリーズアップセールで転売している。同氏は、フランスにおいて生じる利益をうまく利用するために、徐々に購買の場をドーヴィルのアルカナ社のセール(Arqana Sales)に移すよう計画している。
マーナン氏は、賞金1万2,000ユーロ(約144万円)の普通の未勝利競走において、フランス産馬へのボーナスとして9,000ユーロ(約108万円)がさらに支給されたことに非常に驚いたと述べた。 そして、「もしレーシングポスト社のブリーズアップボーナスを獲得すれば、さらに6,000ユーロ(約72万円)がプラスされますので、未勝利馬を調教することで合計2万7,000ユーロ(約324万円)が手に入ります」と語った。
マーナン氏は、英国拠点の馬主が、フランスで出走させる目的で2歳のフランス産馬をこれまであまり購入してこなかったことを残念がった。
同氏は次のように語った。「残念なことに現在のところ英国の馬主は持ち馬を英国で出走させることを好んでいますが、彼らにとってはそれが賞金だけの問題ではないからです」。
「レーシングポスト社の1歳馬ボーナス計画は素晴らしい奨励策でした。全体的に、英国の賞金額は冗談のように低いのに、誰もそれに対して何か策を取ろうとはしていません。おそらく自分中心だからなのでしょう」。
「競馬への投資に報いるためには、何らかの金銭的な刺激がなければなりません。少なくともアイルランド政府はこの問題に取り組む姿勢を見せていますが、英国では何の動きもありません」。
フランスと英国の賞金レベルの比較
パリ地域の標準的な2歳馬レースは、賞金総額が2万4,000ユーロ(約288万円)に設定されており、優勝馬は1万2,000ユーロ(約144万円)を獲得できる。
優勝馬がフランス産馬であればボーナスが追加され、そのボーナスは、2歳馬の場合は獲得賞金の75%、3歳馬の場合は獲得賞金の63%、古馬の場合は48%である。
したがって2歳未勝利競走の優勝馬は、ボーナスの9,000ユーロ(約108万円)を加えると、獲得賞金は全部で2万1,000ユーロ(約252万円)となる。
これと比較して、英国では今年、アスコット、ニューマーケットおよびニューベリの競馬場で2歳未勝利競走が57レース施行されるが、その平均賞金額は8,320ポンド(約116万4,800円)である。
By Rodney Masters
(1ユーロ=約120円、1ポンド=約140円)
(関連記事)海外競馬情報 2009年No.16「生産者、1歳馬ボーナス賞金を拠出(イギリス・アイルランド)」
[Racing Post 2010年6月3日「ROA chief warns of exodus over prize-money cuts」]