騎手協会の医療アドバイザー、硬い馬場が騎手の負傷を増加させる 可能性を示唆(イギリス)[その他]
騎手協会(Professional Jockeys’ Association)のメディカルアドバイザーであるアンナ・ルイーズ・マッキノン(Anna-Louise Mackinnon)博士は、高温で乾燥した気候が長く続いているため、騎手の負傷による休業がこれまでの平均を上回っていると言及した。
職業騎手保険機構(Professional Riders’ Insurance Scheme)がレーシングポスト紙に提供した数字によれば、2010年5月1日から7月20日までの期間に70名の騎手が負傷により休業を余儀なくされており、この数字を上回った年は過去7年において1度しかない。
2010年7月は、23日のサウスウェル競馬場での開催をはじめ障害競走の開催があと7日残っているために、70名という数字はさらに増加するかもしれず、マッキノン博士は、この夏は自身が常勤職員として従事し始めた2008年冬以降で最も困難な時期であると認めた。
同博士は、「私がこの職に就いていた18ヵ月間で、現在が最も多くの負傷騎手の出ている最悪な時期です」と述べた。
「ご存じのとおり、冬場は馬場がある程度柔らかくなりますが、夏場は騎手への衝撃を和らげるようなものがあまりありません。現在のところ、毎日の馬場は“良”かそれ以上硬い馬場です」。
「冬場ならば軟組織損傷や打撲で済む負傷でも、夏場は冬場のように馬場が湿って滑りやすい状態にはなっていないので骨折になる可能性が高く深刻です。騎手たちは馬場の上に落ちて滑るのではなく、まさに地面に叩きつけられるのです」。
このほか、主として夏場の障害競走に出走する馬の能力や、障害がミスや落馬を誘発しやすい形になっているかどうかも要因となって、騎手の負傷の発生率を高めることにつながる。
一方、BHA(英国競馬統轄機構)の上席メディカルアドバイザーであるマイケル・ターナー(Michael Turner)博士は、ロバート・ソーントン(Robert Thornton)騎手が7月にニュートンアボット競馬場で負った、全治1年にもおよぶ深刻な膝靱帯の損傷は、馬場状態には関係なく1年のうちいつでも発生する可能性があると指摘した。
同博士はまた、アイルランドのルビー・ウォルシュ(Ruby Walsh)騎手やデヴィー・ラッセル(Davy Russell)騎手は言うまでもなく、ソーントン騎手、ティミー・マーフィー(Timmy Murphy)騎手そしてパディ・ブレナン(Paddy Brennan)騎手のような一流騎手が負傷したことは、おそらく人々にやや誤った認識を与えただろうと示唆した。
同博士は次のように語った。「私は夏と冬とで大きな違いがあるということには確信がもてません。それに多くの騎手がもうすぐ競走に復帰します」。
「私は多くの負傷を馬場のせいにするのは非常に難しいと思います。また、獣医師が多少なりとも馬場が硬すぎることと結び付けて故障馬の増加を懸念していると聞いたこともありません」。
負傷騎手基金(Injured Jockey’s Fund: IJF)の理事会の会長であるブロウ・スコット(Brough Scott)氏は、「現在のところこれは慈善ではなく保険の問題です。IJFは、負傷が長期に及ぶような場合にはあとで介入するでしょう」と語った。
「保険制度は、過去3年間に騎手がどれだけの回数の騎乗を行ったかに基づくスライド制です。負傷騎手のための居住リハビリ施設であるオークシーハウス(Oaksey House)が開設されて1年が経ちましたが、マッキノン博士を迎えて保険制度は順調に運営されています」。
そしてスコット氏は次のように付言した。「レーシングポスト紙のソーントン騎手が寄稿したコラムから明らかになった事柄の1つは、負傷により騎乗できないのが自分一人だけの場合は気が滅入るものですが、何人もの騎手が騎乗できないときは仲間意識が生まれるということです」。
負傷で休業した英国の騎手の数 | |||||||
2004年 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
5月 | 14 | 15 | 12 | 21 | 16 | 21 | 21 |
6月 | 24 | 18 | 22 | 30 | 22 | 19 | 24 |
7月 | 19 | 21 | 20 | 28 | 22 | 24 | 25※ |
※7月20日以前のレースにおける数字
1ヵ月間騎乗ができない騎手もいれば3ヵ月間騎乗できない騎手もいる。
By Andrew Scutts
[Racing Post 2010年7月23日「Jockeys’ doctor points to dry conditions as injury numbers rise」]