“ペースメーカー”についてのルールが見直される予定はなし(イギリス・アイルランド)[開催・運営]
英国とアイルランドの競馬で見られる“ペースメーカー”は賛否両論を引き起こし続けているが、BHA(英国競馬統轄機構)もアイリッシュターフクラブ(Irish Turf Club)も、“ペースメーカー”を利用することについてのルールを見直すことは考えていない。
しかもこのことは、BHAが6月のロイヤルアスコット開催での“ペースメーカー”による皮肉な出来事があったことを認めたにも拘わらずである(訳注:プリンスオブウェールズS(G1)で、ソーユーシンク(So You Think)のペースメーカーであるヤンフェルメール(Jan Vermeer)が出遅れ、ソーユーシンクを掠めるように交わしたことで同馬の神経を高ぶらせてしまい、結果的に優勝馬リワイルディング(Rewilding)に有利なレース運びになってしまった)。
現行ルールにおいて“ペースメーカー”は、力どおりに走るという条件で英国とアイルランドにおいて認められているが、BHAの競馬開催運営・規制担当理事ジェイミー・スティア(Jamie Stier)氏が以前働いていたオーストラリアを含む多くの国では認められていない。
スティア氏は次のように語った。「私たちは“ペースメーカー”が英国競馬で果たす役割について注意深く留意してきており、BHAはロイヤルアスコット開催において“ペースメーカー”の騎乗のあり方について言及しましたが、現在のところルールを見直すことまでは考えていません」。
「オーストラリアでは、各馬は自身のためだけに出走するという考え方をします。各馬はレースにおいて他馬から独立して走り、レースに勝つため最善のチャンスが与えられなければなりません」。
アイリッシュターフクラブのCEOデニス・イーガン(Denis Eagan)氏はBHAと同様の立場を取る。同氏は、「“ペースメーカー”はレース序盤でハイペースで逃げ、その後先頭でよく持ちこたえることがある。“ペースメーカー”が勝ったり健闘したりするレースがあります」と述べた。
批判する人は、“ペースメーカー”がスポーツ精神に反するという考えを強く持っているようだが、バリードイル勢やゴドルフィンは、大きなレースでペースを作る手助けとして他に1頭か2頭の馬を出走させることは、厩舎のスター馬が最大限の能力を発揮するのに役立つと確信している。
規則がこれを許容しており、どちらの陣営も戦術的に優位となる可能性のあるものを利用し続けることを期待しているはずである。
1つの懸念は、“ペースメーカー”が、競馬施行規程で違法とされている“チーム戦術”を調教師や馬主が採る可能性に道を開いてしまうということである。
そしてもう1つの懸念は、“ペースメーカー”が、賭事客の信頼に悪影響を及ぼし得るということである。騎手が上手く抑えられなかった“ペースメーカー”が、一流レースを勝ってしまうことが容易にあり得るし、またここ数年において“ペースメーカー”が衝撃的な結果をもたらした例もいくつかある。
例えば、オッズが100倍のオブライエン厩舎(Aidan O’Brien)のアットファーストサイト(At First Sight)は2010年の英ダービー(G1)の“ペースメーカー”だったが、ワークフォース(Workforce)の2着となり、同厩馬の2頭の輝きを失わせてしまった。
イーガン氏はこのダービーの結果を前向きにとらえており、次のように語った。「アットファーストサイトは“ペースメーカー”として見られていたが、競走生活で最高の走りをした。最善の着順を得るため出走している限り、“ペースメーカー”が期待された以上に活躍してしまうことは受け入れられるべきです」。
By Graham Green
[Racing Post 2011年6月29日「Authorities happy with rules despite Royal Ascot problems」]