米国三冠達成の夢、またもや打ち砕かれる(アメリカ)[その他]
冗談好きなニューヨークヤンキースのヨギ・ベラ(Yogi Berra)捕手が、1960年代初めにミッキー・マントル(Mickey Mantle)選手とロジャー・マリス(Roger Maris)選手が常に連続ホームランを放つのを目の当たりにしてよく言ったように、それは「また同じリプレーを見ているよう」な結果となった。
数多くの前例があるように、底辺から這い上がって名声を得た米国のヒーロー馬カリフォルニアクローム(California Chrome)が6月7日のベルモントS(G1)において最後の200mで行き詰まり、ダークホースのトーナリスト(Tonalist)の後塵を拝して“三振”した時、米国三冠達成の夢がまたもや打ち砕かれた。トーナリストはニューヨークを拠点とするフランス人調教師クリストフ・クレマン(Christophe Clement)氏の管理馬で、ジョエル・ロザリオ(Joel Rosario)騎手が騎乗した。
ニューヨークで開催された総賞金150万ドル(約1億5,000万円)のクラシック競走の最高のフィナーレにおいて、オッズ9-1(10倍)のトーナリストは、先行していた穴馬コミッショナー(Commissioner)をとらえて決勝線で頭差をつけて勝ち、その1馬身あとに3着馬メダルカウント(Medal Count)が入着した。人気の集中したカリフォルニアクロームはホームストレッチの入り口で他馬に脅威を与えたものの終盤でもたつき、ウィキッドストロング(Wicked Strong)と同着の4着までとなった。
絶大な人気を誇る“ブルーカラー(blue-collar)”の牡馬カリフォルニアクロームはよく知られた敗退記録にその名を連ね、1978年のアファームド(Affirmed)以来、ケンタッキーダービー(G1)とプリークネスS(G1)を勝ちながら三冠目を取りこぼした13頭目の馬となった。
カリフォルニアクロームがレース中に前肢と後肢をぶつけ馬場を去る時に前肢から出血していたことが、後になって明らかになった。しかしこれが判明する前に、敗戦に失望した共同馬主スティーヴ・コバーン(Steve Coburn)氏がNBCスポーツ(NBC Sports)のレース後のインタビューで感情を爆発させ、品位を落としていた。
コバーン氏は、これまでの三冠競走を1つも走らせずに三冠目だけ参戦するという勝馬関係者の“卑怯な作戦”を批判した。トーナリストとコミッショナーは、5月10日にベルモントSのトライアルレースとされているピーターパンS(G2)で1着と2着になっていた。
見るからに冷静さを失ったコバーン氏は次のように語った。「カリフォルニアクロームが3つのビッグレースに果敢に挑戦したことは周知の事実です。それに比べ他の馬はこれまでの二冠を走らず、ただ三冠達成を阻むことを常に目論んでいます。私は61歳ですが、彼らが採っている方法のせいで私の存命中は二度と三冠馬を見ることができないでしょう」。このぶっきらぼうなコメントはカリフォルニアクロームのおとぎ話に水を差すことになるだろう。
これまで11頭が三冠を達成しており、カリフォルニアクロームは、最初の二冠を達成し三冠目のベルモントSだけを取りこぼした20頭目の馬となる。ペリー・マーティン(Perry Martin)氏とともに同馬を所有しているコバーン氏は、次のように続けた。「これらの馬が一冠目から参加していないのは公平ではありません。もしケンタッキーダービーで十分なポイントを獲得していないのであれば、他の二冠レースに出走することはできないということにすれば良いと考えています。三冠になるか、無冠になるかのいずれかです」。
「なぜなら精魂込めて走ってきた馬や、その馬を信じてきた人々にとって公平ではないからです。このように途中から参戦するのは、私の考えでは卑怯なやり方です。私たちの馬は目標を掲げて戦ったのです」。
カリフォルニアクロームは、先行していたコミッショナーのすぐ後方で道中順調に走っていた。その後ビクター・エスピノーザ(Victor Espinoza)騎手に促されてホームストレッチで外に出された。見込みがあると思われたが最終的にはがっかりさせられるもので、終盤は行き詰まり、2400mは現時点では長すぎることが証明された。オッズ9-1(10倍)のトーナリストは、オッズ28-1(29倍)のコミッショナーを最終段階でとらえた。
ビッグサンディの愛称で知られる競馬場の混雑したスタンドの正面で、タピット(Tapit)産駒のトーナリストは2分28.52秒というタイムを出した。
勝馬の所有者であるロバート・エヴァンス(Robert Evans)氏は、コバーン氏のコメントについて意見を述べるのを控えた。「私たちはカリフォルニアクロームが大好きで、三冠馬になってくれることを望んでいましたが、自分たちの馬も愛しています」と語った。
トーナリストに騎乗したジョエル・ロザリオ(Joel Rosario)騎手はベルモントSで騎乗するのは4回目であるが、「カリフォルニアクロームのことは少し気にしていました」と述べた。
そして「トーナリストは大型馬なので一完歩が長く、とにかく走り続けたので、いい仕事を成し遂げることができたのです」と付言した。
このレースを制したクレマン調教師(48歳)は芝レースでの偉業でその名を知られている。そして、「私はフランス人だが、自分ではニューヨーカーだと思っていますので、その意味でこのレースを勝てて大変嬉しいです。ベルモントSにフレッシュな馬を連れて来て、少しは地の利があると考えていました。進化途上の馬を地元で走らせる時には良く言われることですが、芝であろうとダートであろうと関係ないと考えています」と語った。
そして次のように付け足した。「人々は残念な結果だととらえ、がっかりしています。しかし、本日起きたことに残念なことなど一つもないはずです。カリフォルニアクロームは素晴らしい活気をもたらしましたが、このことは競馬界が必要としていることです。もちろん彼を負かして優勝するために私は最善を尽くしました。人々にとっては残念なことかもしれませんが、私は今夜ぐっすり眠れることでしょう」。
エスピノーザ騎手は後悔していた。そして、「カリフォルニアクロームは少し疲れていました。ゲートを出た瞬間、いつもの彼ではありませんでした」と語った。同騎手は2002年にウォーエンブレム(War Emblem 現在日本で種牡馬として供用されている)がベルモントパーク競馬場で大敗し2002年の三冠達成を逃している。
そして、「カリフォルニアクロームはゲートを出た瞬間に自分の肢を踏んだのではないかと考えています。ゲートを飛び出た時に右前脚から少し血が出ていることに気付きました。おそらくこのことが影響したのでしょう」と付け加えた。
なお、今年の三冠競走すべてに出走したのは、カリフォルニアクローム、ジェネラルエーロッド(General A Rod 7着)、ライドオンカーリン(Ride On Curlin 最下位の11着)の3頭のみである。
By Nicholas Godfrey
(1ドル=約100円)
[Racing Post 2014年6月9日「Triple Crown dreams dashed again as Chrome fails to shine」]