夢のような環境の中、素晴らしい産駒を提供するセレクトセール(日本)[生産]
JRHAセレクトセールを訪れた4日間の北海道滞在では、周りが夢のような環境なので、自分の頬をつねらなければならない場面が多くあった。
200頭の見事な当歳馬と辛抱強そうな母馬が、ノーザンホースパークの松の木に囲まれた屋外パレードリングを歩いているのを見た時は特にそうであった。
その中には、ディストーテッドヒューマー(Distorted Humor)、エクシードアンドエクセル(Exceed And Excel)、シーザスターズ(Sea The Stars)およびアンブライドルドソング(Unbridled Song)のようなトップ種牡馬の牡駒や牝駒がいたが、集まった大勢の人々はたった1頭の桁外れの種牡馬ディープインパクトの産駒にしか興味がないようだった。
20頭のディープインパクトの当歳馬が上場し、その平均価格は驚異的な8,675万円であったが、前日に上場した同馬の1歳馬の平均価格1億687万5,000円を下回った。
ディープインパクト産駒を出来る限り獲得しようとしていたのは、ファハド殿下(Sheikh Fahad)とそのアドバイザーであるデヴィッド・レッドヴァース(David Redvers)氏、ピーター・モロニー(Peter Molony)氏およびハンナ・ウォール(Hannah Wall)氏からなるチームであった。2億6,000万円の最高価格が付いたフィリーズマイル(G1)勝馬リッスン(Listen)の仔を手に入れただけではなく、ディープインパクトの当歳産駒6頭を総額5億1,700万円で購買した。
これらの馬をすべて日本で出走させるのか、それとも数頭を欧州で走らせるのか、ファハド殿下の決断には大いに興味が持たれる。
ディープインパクトが種牡馬別売却成績を支配する一方で、吉田勝己氏のノーザンファームは2日間のセリで、1歳馬の高額上位5頭と当歳馬の高額上位4頭を販売し、販売者成績を支配した。吉田勝己氏とその長男の俊介氏が過去10年にわたり繁殖牝馬に行なってきた投資を考慮すれば、これは驚くようなことではない。欧州の最高級の繁殖牝馬や競走引退牝馬の購買が利益をもたらすという彼らの信念を目の当たりにするのは素晴らしいことである。
吉田親子のセリ来場者へのもてなしは、誰にも引けを取らない。セリ会場の表と裏には、はやきた鈴木牛のステーキから、グリルした蟹の爪、赤飯、ウニまでさまざまな豪華なご馳走を用意する屋台が立ち並ぶ。来場した関係者にとって、これらは飲み物とともにすべて無料であり、お祭りムードを作り出すのに一役買っていた。
JRHAセレクトセールと欧州の同様のセリの間には小さな違いしかないが、それは注目に値するものである。このセリが海外購買者からお墨付きをもらえる側面の1つは、セリの前に上場馬の体重と体高、そしてすべてのリザーブ価格(販売希望価格)を知ることができることである。
もう1つの素晴らしい側面は、幅広い購買者層とその強い購買力である。1歳馬の高額上位10頭は9人によって購買され、全体では197人の購買者がいた。
しかしながら、ファハド殿下の強い支援にもかかわらず、海外からの購買者はごく稀であった。ダーレージャパンがキングズベスト(King's Best)とステイゴールドのそれぞれの当歳牡駒を購買し、マレーシアの実業家キム・サン・ヤップ(Dato Yap Kim San)氏の競馬部門ラッフルズレーシング社(Raffle’s Racing)がダイワメジャーの1歳牡駒とクロフネの1歳牝駒を購買した。クラウンオークス(G1)勝馬モシーン(Mosheen)の馬主フィル・スライ(Phil Sly)氏もセリに参加し、ダノンシャンティの1歳牝駒を購買した。
それにしても野心ある馬主が来年のセレクトセールのために来日し、質の高い馬が上場され極上のもてなしを受けたのに、手ぶらで帰国することになれば、非常に心苦しいに違いない。
By Tom Pritchard-Gordon
[Racing Post 2014年7月17日「Picturesque surroundings and fabulous pedigrees―what more do you need?」]