中国人購買者、張月勝氏のイギリスでの活発な購買活動(イギリス)[生産]
競馬・サラブレッド生産の国際舞台における新興勢力、張月勝氏の玉龍馬業(YuLong Investments)は、タタソールズ社7月セール(Tattersalls July Sale 7月6日~8日)で強烈な印象を残した。豪州人エージェントのシェイマス・ミルズ(Sheamus Mills)氏の協力を得て、牝馬12頭を総額84万ギニー(約1億2,348万円)で購買したのだ。
この1週間は、張氏の所有馬イーロンバオベイ(玉龍寶貝 Yulong Baobei 2歳牝馬)が7月9日のティペラリーS(L)を制して締めくくられた。同馬は、張氏がアイルランドで出走させている2頭のうちの1頭で、マイケル・ハルフォード(Michael Halford)調教師が管理する。
このセリで購買された牝馬12頭は、豪州のヴィクトリア州に張氏が所有する玉龍牧場(YuLong Farm)に輸送される予定。しかし、このうち11頭は年内にインヴィンシブルスピリット(Invincible Spirit)やフランケル(Frankel)などの種牡馬と交配して受胎を確認してから南半球に輸送される。
ミルズ氏はこう語った。「私たちは、北半球のこれらの種牡馬の血統を手に入れたいと考えていました。タタソールズ社のカタログが発行されて、非常に興味を持ったのが始まりで、私たちが欲しいと思っている血統が揃っていました。それに英国のEU(欧州連合)離脱は助けになりました。突然、1ドルにつき10ペンス余分に手に入れることになったからです」。
炭鉱や風力発電所を所有する張月勝氏は、中国で競馬場を運営している。豪州のサラブレッド生産に対する興味が高まり、2015年後半に玉龍牧場(YuLong Farm)を購買した。この牧場は以前、馬専門のカイロプラクターであるマイケル・ブライアント(Michael Bryant)氏がシュヴァルパーク(Cheval Park)として運営し、無敗牝馬のブラックキャビア(Black Caviar)も施術を受けていた。
ミルズ氏はこう説明した。「張月勝氏は2年前から豪州で馬を購買し始めました。中国ではすでにサラブレッド生産を行っており、種牡馬3頭を供用しています。また、競馬場を建設しています」。
「玉龍牧場では、きわめて短期間で多くの取組みが行われました。しかし、まだやるべきことは沢山残っています。スコット・ウィリアムソン(Scott Williamson)氏がマネージャーに就任してから、大きく発展しました」。
「張氏がタタソールズ社のセリで購買した牝馬はすべて、交配してから豪州に輸送されます。豪州にほとんどない牝系・牡系の血統を手に入れるために、これらの牝馬は購買されました。シャマルダル(Shamardal)やドバウィ(Dubawi)の牝馬はあまり豪州に輸入されていません」。
「すべてを支える原動力は、インヴィンシブルスピリットでした。張氏はその産駒アイアムインヴィンシブル(I Am Invincible)の大ファンです。今年は、1歳のインヴィンシブルスピリット産駒を9頭購買しています。おそらく1番好きな種牡馬なのでしょう」。
ミルズ氏と張氏が注目したもう1頭の種牡馬はフランケルである。今回のセリで購買した牝馬のうち少なくとも1頭を、フランケルが供用されるバンステッドマナー牧場(Banstead Manor)に送るつもりである。セヴンヘヴンズ(Seven Heavens)が7月8日にアスコット競馬場で優勝したことで、出走したフランケル産駒6頭全てが勝ち上がるという素晴らしい記録が作られた。
「競走馬が引退する時に、種牡馬としてこれほど成功するとは期待しにくいものです。誇大宣伝された馬には、ほとんどの場合、がっかりさせられます。このようなプレッシャーはフランケルにもありましたが、出走した産駒6頭のうち6頭とも勝ち上がっているのですから、遺伝子が特別なのかもしれません。フランケルは世界中で非常に高く評価されています。この馬に関しては全ての常識を無視すべきなのかもしれません」。
張氏が英国のセリで強い印象を与えたのは、今回の7月セールが初めてではない。ロイヤルアスコット開催前日のゴフス社ロンドンセール(Goffs London Sale)で、カレンダー(Callender 父エクシードアンドエクセル)を12万ポンド(約1,701万円)で購買している。その後、カレンダーはロイヤルアスコット開催のウィンザーキャッスルS(L)に出走し、アーダッド(Ardad)の5着となった。
ミルズ氏は、張氏の英国・アイルランド競馬への参加についてこう語った。「張氏はロイヤルアスコット開催を大いに楽しみましたので、より多くの馬を英国で走らせるつもりでしょう。まったく馬に夢中です。セリ会場にも朝一番に入り、ほぼすべての上場馬を見ます」。
「私がちょうど良い馬を見つけられなかったので、張氏は7月7日、より多くの馬を検討するためにタタソールズ社セールに戻ってきました。張氏には北半球にまで生産事業を拡大する熱意は無いようですが、より多くの1歳馬と良血牝馬を購買するでしょう」。
張氏の生産への興味が薄れないかぎり、北半球での支出は、南半球の玉龍牧場の利益となるかもしれない。
ミルズ氏はこう語った。「張氏は総合的なビジネスを構築し、できるかぎりそれを継続可能なものにしたいようです。30~40頭の質の良い繁殖牝馬を豪州で繋養することを検討しています。そして今後、当歳馬と1歳馬をセリに上場するほか、種牡馬を供用したいとも考えています」。
「張氏は現在2戦2勝の魅力的な牡馬イーロンシェンフイ(玉龍聖輝 Yu Long Sheng Hui 父セブリング)を所有しており、ミック・プライス(Mick Price)調教師は10月のコーフィールドギニーにこの馬を出走させることを熱望しています。すべてが上手く行けば、ゆくゆくは種牡馬となるかもしれません」。
「種牡馬を所有して自身の繁殖牝馬群と交配させ、セリに上場する目的と将来出走させる目的のために1歳馬を生産するところまで漕ぎつければ、理想と言えるでしょう」。
「張氏はエクシードアンドエクセル、メダグリアドロ、アイアムインヴィンシブルをとても気に入っています。彼が評価するこれらの種牡馬は、オーストラリアで供用されているかシャトルされています」。
「しかし、張氏が英国に戻って来る可能性は大いにあると考えます。南半球で手に入れることができない種牡馬の血統がある場合、英国で牝馬を購買してそれらの種牡馬と交配させることがその血統を獲得する一番良い方法です」。
拡大されつつある良血の繁殖牝馬群は、張氏の野心的な生産事業と競馬への情熱を支えている。張氏が運営する玉龍馬業は、これからもずっと活動を続けそうである。
By James Thomas
(1ポンド=約140円)
[Racing Post 2016年7月10日「Asian investor makes mark with July spree」]