中国人投資家の張月勝氏、ゴフス社セールで存在感を示す(アイルランド)[生産]
いま最も注目されている購買者、張月勝氏の投資により、ゴフス社スポーツマンズセール(Goffs Sportsmans' Sale 9月29日・30日)は活気づいた。
玉龍馬業(YuLong Investments)という名で競馬・生産事業を行う中国人ビジネスマンの張氏は、タタソールズ社(Tattersalls)とキーンランド協会(Keeneland)のセリで多くの馬を購買して、この夏強い印象を与えていた。今回のスポーツマンズセールでは、張氏はBBAアイルランド社(BBA Ireland)のミック・ドナフー(Mick Donohoe)氏と組み、約60頭の1歳馬を購買した(うち43頭はブック1)。
張氏は所有馬をミック・ハルフォード(Mick Halford)厩舎、ジョン・ムルタ(John Murtagh)厩舎、エディ・リナム(Eddie Lynam)厩舎に預託している。緑と白の勝負服を背負い、冠名"イーロン(YuLong)"の一連の馬は、アイルランドで少しずつ知られるようになってきた。しかしドナフー氏は、今回購買した1歳馬群にはそれらの馬とは異なる未来が待っていると述べ、次のように続けた。
「今回の購買馬はすべて、30日間の検疫を受けて中国で出走させるために輸出されます。そして、張氏が競馬場を所有し生産事業も営んでいる山西省に輸送される予定です」。
「張氏は頭数よりも質にこだわっています。彼はとても聡明で、世界中の競馬に精通しており、素晴らしい血統と馬格をもつ馬を選んで購買するために多額の投資を行っています。手当たり次第に購買しているわけではありません」。
競走馬の過剰生産への懸念が再び浮上している昨今、張氏のような国際的な購買者の存在は、生産馬の売却に苦労している生産者に新たな販路をもたらした。
玉龍馬業の活動範囲は、拠点とする山西省だけではなく世界中に広がり、張氏は豪州のメルボルン郊外にある種馬場を購買している。7月にタタソールズ社のセリで購買した牝馬のうち数頭は現在、アイリッシュナショナルスタッド(Irish National Stud)に輸送されており、南半球の繁殖シーズンに合わせてインヴィンシブルスピリット(Invincible Spirit)と交配する。
ドナフー氏は、ゴフス社オービー1歳セール(9月27日・28日)でも張氏の代理として、3頭の1歳馬を購買した。これらの馬は中国に輸出しない予定である。
ドナフー氏はこう語った。「私たちはラフアウトラウド(Laugh Out Loud)を母とするガリレオ牡駒を20万ユーロ(約2,300万円)で購買しました。購買する価値があると思いました。張氏はクールモア牧場を高く評価しており、ガリレオは世界一の種牡馬です。1歳のガリレオ産駒を手に入れたいと考えていたところ、たいへん見栄えのする牡駒を手に入れることができました。まずアイルランドで馴致し、その後調教師を決定することになるでしょう」。
このガリレオ牡駒は、BBAアイルランド社が玉龍馬業のために比較的低価格で購買した良血牝駒2頭と一緒に馴致を受ける。
その良血牝駒のうちの1頭は、バリーマコールスタッド(Ballymacoll Stud)の最高級のファミリー(牝系)を継ぐモアザンレディー牝駒(2代母はイスリングトン)である。購買価格はわずか6万2,000ユーロ(約713万円)。
ドナフー氏はもう1頭の牝駒にはさらに価値があるとし、こう説明した。「キルカーンスタッド(Kilcarn Stud)が上場したレイヴンズパス牝駒を、わずか2万5,000ユーロ(約287万5,000円)で購買しました。この牝駒の母であるマイエンヌ(Mayenne 父:凱旋門賞馬デトロワ)は凱旋門賞馬カーネギー(Carnegie)の3/4妹であり、G2勝馬バニンピア(Banimpire)とブラックタイプ勝馬マイスピリット(My Spirit)の母馬マイレネ(My Renee)を送り出しています。セリカタログのこの牝駒のページには、母と2代母しか掲載されていませんが、ブラックタイプ勝馬で溢れています」。
ドナフー氏は9月28日夜に開催されたウィルデンシュタインステーブル(Wildenstein Stables Ltd.)の処分セールにおいても2頭の現役馬を購買した。そのうちの1頭であるジャイアンツコーズウェイ産駒アンドレアマンテーニャ(Andrea Mantegna)は7万2,000ユーロ(約828万円)で購買され、マイケル・ハルフォード厩舎に預託される予定。同馬の母はリステッド勝馬アドベンチャーシーカー(Adventure Seeker)である。
張氏は、山西省に自ら設立した競馬施設で競走馬が必要となっているため、より多くの馬を購買しようとしており、アイルランド産馬への支出はまだ終わってはいない。
ドナフー氏はこう続けた。「張氏は11月のゴフス社現役馬セールに戻って来て、中国に輸出して競走させる馬を20頭~30頭購買する予定です。張氏をはじめとする中国人投資家がアイルランドにやって来て購買活動を行っているのは、アイリッシュサラブレッドマーケティング社(Irish Thoroughbred Marketing)とゴフス社の尽力のおかげです。そして、アイルランドのレッドミルズ(Red Mills)やブカス(Bucas)のような会社が中国への馬の輸出に協力しています。また、クールモア牧場は山西省のレースのスポンサーを務めるなどして張氏にとても好意的です」。
サラブレッド取引が停滞する状況において、張氏の購買力によりスポーツマンズセールに多額の資金が注ぎ込まれ、さらには、生産者が購買者を見つけるための重要な販路がもたらされることになった。
張氏は現在、ゴフス社11月セールに戻って来る意向を示している。今後、アイルランドおよび世界のサラブレッドのセリにおいて、中国人投資家がさらに勢力のあるプレイヤーとなるだろう。
By Aisling Crowe
(1ユーロ=約115円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2016年No.30「中国人購買者、張月勝氏のイギリスでの活発な購買活動(イギリス)」
[Racing Post 2016年10月2日
「Chinese investor Zhang buys in bulk to buoy clearance rates at Goffs」]