マサー、マクトゥーム一族に23年ぶりの英ダービー制覇をもたらす(イギリス)[その他]
きらびやかな栄光の舞台であり世界一重要なレースである英ダービー(G1)は、これまで競馬を変革してきたモハメド殿下にとって見事な結果となった。マサー(Masar 父ニューアプローチ)が貴重な英ダービー(G1)優勝を殿下にもたらし、ゴドルフィンが喫し続けてきたクラシックでの敗北に終止符を打ったのだ。
競馬産業全体が中心的レースと見なす英ダービーを、マクトゥーム一族が制したのは初めてではない。しかし、ラムタラがマクトゥーム殿下のグリーンとホワイトの勝負服を背負ってダービー制覇の栄光を手に入れてから、すでに23年が経っている。ウィリアム・ビュイック騎手は、ゴドルフィンの青い勝負服を着てダービーのゴール板を先頭で駆け抜けた最初の騎手として、新境地を開いた。
近年よく目にするクラシック開催日の午後の光景が繰り返されてから24時間も経っていなかった。前日の英オークス(G1)で1番人気に推されたゴドルフィンのワイルドイリュージョン(Wild Illusion)が、あと少しのところでその使命を果たせず、"またもや"、エイダン・オブライエン調教師がクールモア牧場のために手掛けたライバル馬フォーエバートゥギャザー(Forever Together)に敗れていたのだ。
クールモアが英国のクラシックで勝ち続ける一方、ゴドルフィンは負け続けていた。
オークスでのこの敗北にゴドルフィンは打ちひしがれていたが、ダービーはその状況を大きく覆す舞台となった。マサーがディーエックスビー(Dee Ex Bee モハメド殿下の息子ハムダン殿下が所有)を連れて先頭でゴールしたのだ。英2000ギニーを制したバリードイル(クールモアの調教拠点)のサクソンウォリアー(Saxon Warrior)は、単勝1倍台で支持されていたが4着に終わり、三冠達成の野心はエプソムのターフの上で踏みにじられた。
ゴドルフィンはマサーとディーエックスビーのそれぞれの父、ニューアプローチとファー(Farhh)を所有しているので、その生産部門にとっても今年のダービーは素晴らしい結果となった。
以前は厩務員を務めていたチャーリー・アップルビー(Charlie Appleby)調教師にとって今回がクラシック初制覇となり、意義深い結果となった。今後は、「ゴドルフィンの英国の調教師でクラシックを最後に制したのは、マームード・アル・ザルーニ(Mahmood Al Zarooni)氏だ」とは、誰も言わなくなるだろう(訳注:アル・ザルーニ氏は2013年、管理馬にアナボリック・ステロイドを使用したかどで8年間の調教停止処分を受けている)。
クラシック勝利が途絶えてしまったのは、2012年のエンキー(Encke)の英セントレジャー(G1)優勝にまで遡る。ゴドルフィンはそのレースにおいても、クールモアのキャメロット(Camelot)の三冠達成を阻止している。競馬界の二大勢力の関係は冷ややかなものだったが、この出来事によりますます冷え切った。それ以降氷は溶けつつあるが、相変わらず激しい競争を繰り広げており、今回のダービーでは誰もが渇望する勝利をゴドルフィンが手に入れた。
モハメド殿下は、「ダービーを制するのはたやすいことではありませんが、私たちは勝つことができました。ダービーは世界最高のレースであり、競馬のすべてです。娘がこの場にいること、マサーがドバイから来たことに満足しています」と語った。
殿下はメイダン競馬場のUAEダービー(G2 ダート1900m)で、マサーがメンデルスゾーン(Mendelssohn)の41馬身差の6着に惨敗したのを目の当たりにしていた。マサーはその後、再び舞台を芝に移し、クレイヴンS(G3)で2着に9馬身差の優勝を果たし、英2000ギニーではサクソンウォリアーの3着となるなど、実績を築いてきた。そして英ダービーでは、英2000ギニーでの着順を覆した。
道中順調に走ったマサーは、ゴールまで残り1ハロン(約200m)でフランキー・デットーリ騎手が騎乗していたハザプール(Hazapour)を交わした。そのとき、ライアン・ムーア騎手を背に中団に控えていたサクソンウォリアーはすでに負けたような状態で、動かずじっとしているしかなかった。 単勝17倍のマサーは最後の丘を夢中で駆け上り、2着に1½馬身差で優勝した。ロアリングライオン(Roaring Lion)はディーエックスビーから½馬身差の3着となった。
アップルビー調教師はこう語った。「ゴドルフィンは低迷していたわけではありません。ゴドルフィンで働くようになって20年になりますが、多くの人々の移り変わりを見てきました。5年前に調教師に任命されてから、青い勝負服を背負ったダービー優勝馬を出すことをいつも目標にしてきました。今日その目標の実現に関わることができたことをとても光栄に思います。昨日帰宅して、どうすればクールモア/バリードイルチームよりも先着できるかを考えていました」。
「彼らは本当に素晴らしいチームであり、我々の間には素晴らしいスポーツマン精神があります。彼らよりも先着することは難しい問題でしたが、幸いにもその答えを見つけることができました」。
アップルビー調教師が述べるところの"スポーツマン精神"は、マサーの入線後すぐに、クールモアのケビン・バックリー(Kevin Buckley)氏がターフの上で優勝トレーナーに握手を求めてきたときに見られた。出走した管理馬5頭が沈んでしまったオブライエン調教師も祝福の言葉を送った。
オブライエン調教師はモハメド殿下についてこう語った。「殿下が優勝して嬉しく思います。きっと大喜びされていることでしょう。この栄誉を浴して当然です。チャーリー、ウィリアム、モハメド殿下をはじめ、ゴドルフィンのチーム全員にお祝いの言葉を述べたいと思います。ダービーは競馬というスポーツのすべてです。それゆえ、参加できることは名誉なことです」。
ビュイック騎手は、ゴドルフィンの契約騎手を務める栄誉に浴してきた。ゴドルフィンのためにドバイなどで大きな勝利を収めてきたが、今回の勝利により最有力馬に乗る資格が認められたのである。
ビュイック騎手は、「ダービー制覇はまったく特別なことです。それは、競馬というスポーツで頂点を極めることであり、至高の目標であり、最も重要なことです。つまり、私にとっては絶対的な世界です」と語った。
競馬界は、モハメド殿下をこれまで以上にやる気にさせるであろうこのダービー制覇を、非常にポジティブなものとしてとらえている。
アップルビー調教師はこう付言した。「最後の100ヤード(約90m)はとても長く感じましたが、素晴しいものでした。モハメド殿下が王室の人々と一緒にいるところで、ゴドルフィンはダービー優勝馬オーナーに返り咲いたのです」。
こうして青い勝負服の復活劇は華々しいものとなった。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2018年6月3日「At last! The wait for a winner in blue is over as Masar triumphs for Godolphin」]