ウォーオブウィル、プリークネスS優勝でダービーの雪辱を果たす(アメリカ)[その他]
5月18日に古いピムリコ競馬場で施行されたプリークネスS(G1 ダート約1900m)において、ある馬が決勝線を駆け抜けたとき、"わぁ!"という声が挙がった。競馬界は三冠競走におけるまばゆいばかりの状況の変化にスリルを感じた。それでもこの結果は奇妙なほど理にかなったものだった。
もちろん、優勝したのはウォーオブウィル(War of Will 父ウォーフロント)だ。
ウォーオブウィルは若きタイラー・ガファリオン(Tyler Gaffalione) 騎手(24歳)に勝利をもたらした。つい2週間前、同騎手はケンタッキーダービー(G1)において同馬がマキシマムセキュリティ(Maximum Security)の走行妨害の被害を受けた時に注目を浴びていた。馬主のゲイリー・バーバー(Gary Barber)氏はダービーの騒動後に出した声明において、マキシマムセキュリティの馬主ゲイリー・ウエスト(Gary West)氏の非難からガファリオン騎手とウォーオブウィルを断固として守ったスポーツマンである。ウォーオブウィルは、マーク・カス(Mark Casse)調教師とその結束の固いチームによって十分に仕上げられ、素晴しいレースをした。チームのたゆまぬ努力はこの完璧で輝かしい瞬間により報われた。
ケンタッキーダービーの最終コーナーでは、カーアクションのようなごちゃつきがあった。1位入線馬マキシマムセキュリティは17着に降着となり、カントリーハウス(Country House)が繰上げられて優勝馬となったことで、ウォーオブウィルの順位は8位から7位に引き上げられた。プリークネスSではこのような事件はなく、観客を待たせることもなかった。
ゲートが開くや否や、単勝オッズ21倍のボーディエクスプレス(Bodexpress グスターボ・デルガド厩舎)は立ち上がり後ろ肢を蹴りあげた。ダービーで13着だった同馬はジョン・ベラスケス騎手を投げ出し、早くも競走権利を無くしたが、空馬のままコースの外側を疾走し、他の12頭と一緒に走り続けた。
馬が無事に決勝線に通過したとき、競馬の世界の誰もがホッと胸をなでおろした。ボーディエクスプレスは最後の直線で逆走しているところを誘導馬の騎手に捉えられた。落馬したベラスケス騎手には怪我はなかった。
空馬が十分に外側を走っていたので、ガファリオン騎手がそれに気づくことはなかった。同騎手は、「正直なところ、馬を止めるまでそれに気づきませんでした」と述べた。
若い騎手はレースに完全に没頭していた。ケンタッキーダービーと同じ1番ゲートから発走したガファリオン騎手は、最初のコーナーで経済コースをとりながらも素晴らしくハミをとったウォーオブウィルに冷静に騎乗した。ウォリアーズチャージ(Warrior's Charge)が最初の1ハロンを22秒55、2ハロンを46秒16で走った。その後にマーケットキング(Market King)、アナザーツイストアフェイト(Anothertwistafate)が通過し、その後ろにウォーオブウィルが続いた。
ウォーオブウィルは、ダービーのときは19頭の馬群に揉まれることを避けるために内枠から勢いよく飛び出てクラブハウスコーナーに向かって行ったが、プリークネスSでは終始素晴しく落ち着いていた。
ガファリオン騎手はこう語った。「今日、ウォーオブウィルはいつもより落ち着いていて、それが勝利につながりました。私たちは彼にウォームアップさせてきました。マークは『今日は軽く走らせるだけにしよう』、『歩かせるだけにしよう』、『できるだけ落ち着かせよう』と言いながら調教してきて、それが良い結果となりました」。
ウォリアーズチャージは1馬身リードして3/4マイル(約1200m)を1分10秒56で通過したが、最後の直線の入口で勢いを失っていった。ウォーオブウィルの目の前に道が開き、それはちょうど同馬がピムリコ競馬場の広いダートコースを回りきるところだった。今回はスムーズな競馬ができた。
ガファリオン騎手はこう語った。「道中ずっとウォリアーズチャージについて走っていただけです。彼は最終コーナーを回るときにフェンスから離れました。彼を外側から追い越そうと考えていましたが、彼は後退していきました。それで加速するとそのまま先頭でゴールできました。ウォーオブウィルには迷いがなく、きっちり仕事をしました」。
ウォーオブウィルは先頭に立って1マイルを1分35秒48で通過し、後続馬を徐々に引き離して1¼馬身差の勝利を決めた。良馬場での勝ち時計は1分54秒34。
カルメットファーム(Calumet Farm)の単勝30倍のエヴァーファスト(Everfast デール・ローマンズ厩舎)は11番手を走っていたが、先頭に迫って2着となり、9番手を走っていて同じく追い上げてきたオーウェンデール(Owendale)がその鼻差の3着となった。ウォリアーズチャージは4着を確保した。
ウォーオブウィルがケンタッキーダービーに出走する前、カス調教師はこの馬がルイジアナダービー(G2)から比較的順調に来たことは"小さな奇跡"だと述べていた。ダービーの後、同調教師はこの馬がレース中の混乱で転倒しなかったことに驚いていた。
カス調教師はこう語った。「彼が無事だったことを喜ぶと同時に安堵しました。私たちは競馬史に残る最悪の事態が起こるのを避けることができました。あのような出来事がなければ、興味深いレースだっただろうと思います」。
「毎日競馬に携わっているとこのようなことは起こるものです。私たちはいつも思いがけない展開に遭遇します」。
マキシマムセキュリティはプリークスネスSを回避した。カス調教師はケンタッキーダービーでの不運を埋め合わせるためにウォーオブウィルを出走させたのではなく、ただ、この馬の才能を世界に見せるチャンスを探していただけだと述べた。
「私はただ公平な勝負をしたかっただけです。ウォーオブウィルがどれほど優れた馬であるかを見せるチャンスがほしかったのです。なぜなら、彼は素晴らしい馬だからです。ご存じのとおり、私たちは2週間ぶりの出走でしたが、プリークネスSには新たなライバル馬が多くいました。そのため、今回の結果を非常に誇りに思っています。しかし、多くの人々がこう言います。『これはリベンジですか?』と。違います。私はただ勝ちたかったのです」。
依然としてチャレンジは目の前にある。ウォーオブウィルはキーンランド競馬場に帰って、調教助手のデヴィッドキャロル(David Carroll)氏のケアを受ける。ただすでに、ウエスト氏は挑戦状を叩きつけていた。
プリークネスSの前日、ウエスト氏はケンタッキーダービーでの事件に関係した4頭に対して、再びマキシマムセキュリティと対戦するように挑戦を申し出ており、マキシマムセキュリティを負かした馬にはそれぞれに500万ドル(約5億5,000万円)を出すと述べている。
カス調教師はウォーオブウィルを6月8日のニューヨークのベルモントS(G1)に出走させることをほのめかしたものの、マキシマムセキュリティは次のレースは7月20日のハスケル招待S(G1 モンマスパーク競馬場)にすると考えられている。同調教師はこう続けた。「馬主のバーバー氏はスポーツマン精神の溢れる方です。いつか2頭は対戦するでしょうが、競馬の利益となるのにふさわしい状況でしかそれは叶えられません」。
しかし、三冠競走の結果が現在起きていることを鮮明に思い出させるものとなるだろう。競馬の世界で実際に起こることはいつも予測困難である。今のところは、私たちのあいだで議論するだけである。米国最強の3歳馬はどの馬だろうか?マキシマムセキュリティだろうか、カントリーハウスだろうか?これから輝く遅咲きの馬だろうか?それはウォーオブウィルだろうか?
5月18日にカス調教師はこの質問に対して、「少なくとも今日はウォーオブウィルでした」と答えた。
By Claire Crosby
(1ドル=約110円)
[bloodhorse.com 2019年5月18日「War of Will Punches Back With Preakness Win」]