オブライエン調教師が英ダービー7勝を達成(イギリス)[その他]
エイダン・オブライエン調教師とクールモア牧場はこれまで英ダービー(G1)を何度も制しており、今後も勝利を重ねるのは確かだろう。それでも、彼らにとって世界一有名なこのレースほど重要なものはない。今年はシーミー・ヘファナン(Seamie Heffernan)騎手がアンソニーヴァンダイク(Anthony Van Dyck)に騎乗してついにダービー初優勝を決め、オブライエン調教師は英ダービー7勝目(最多勝タイ)を手に入れた。また、出走させた7頭のうち5頭が上位6着までに入るという快挙も成し遂げた。
ケヴィン・プレンダガスト(Kevin Prendergast)調教師が手掛けるマッドムーン(Madhmoon)が2着に食い込み、アイルランド勢が英国勢の手ごわい防御を完全に打ち破るレースとなった。
オブライエン厩舎の上位4頭、アンソニーヴァンダイク、ジャパン(Japan)、ブルーム(Broome)、サードラゴネット(Sir Dragonet)の着差はわずかなものだった。そのことは、なぜ調教師がまたもや多くの管理馬をダービーに送り込んだのかということを明確に示している。
要するに、オブライエン調教師にとってはどの馬が最高の力量を示すか分からなかったのだ。それは、ライアン・ムーア騎手が騎乗した単勝3.75倍の1番人気馬サードラゴネットでも、息子ドナカ・オブライエン騎手が騎乗したブルームでもなかった。
バリードイルの一員であるヘファナン騎手(46歳)に道が開かれた。同騎手にとって今年は12回目のダービー挑戦であり、これまで2着が2回あった。同騎手はアンソニーヴァンダイクを完璧にエスコートし、圧倒的な末脚で後方から追い込み、その競走生活で最高の瞬間を手に入れた。
いつも無表情なヘファナン騎手はレース後の記者会見において、英ダービー初優勝に長い時間が掛かったのではないかと聞かれ、皮肉を込めて「時間の問題でした」と述べて、周囲は笑いに包まれた。オブライエン調教師は満足そうに、また誇らしく、「シーマスほどのホースマンおよびジョッキーはいません。私たちは言葉にできないほど大変嬉しく思っています」と語った。
10年前のちょうどこの日に、バリードイルの伝説的な名伯楽ヴィンセント・オブライエン調教師が死去した。そして現在、バリードイルを支配しているエイダン・オブライエン調教師は、前任者が果たした「英ダービー6勝」をついに破った。
1793年~1941年の間に次の調教師が英ダービー7勝を達成している。
・ ロバート・ロブソン(Robert Robson)調教師
・ ジョン・ポーター(John Porter)調教師
・ フレッド・ダーリン(Fred Darling)調教師
ただし、これらの調教師はこの最多勝記録を今後長くは保持できないだろう。昼の次に夜が来るのと同じぐらい確実に、オブライエン調教師が間もなく最多勝記録を7勝から8勝に更新するだろう。それを助けるのは、2001年に同調教師にとって最初の英ダービー馬となったガリレオだろう。同馬は種牡馬として、これまで4頭の英ダービー優勝馬を送り出している(2008年ニューアプローチ、2013年ルーラーオブザワールド、2014年オーストラリア、2019年アンソニーヴァンダイク)。
今年の英ダービーでは、ソブリン(Sovereign)が最後の直線までほとんどずっと先頭に立っていたが、ノルウェイ(Norway)に抜かされた。その後、サードラゴネットが先頭に立った。そのときすでに、有力視されていた英国調教馬のテレキャスター(Telecaster)とバンコク(Bangkok)には勝ち目が無くなっていた。
マッドムーンは86歳のプレンダガスト調教師にダービー初優勝をもたらすため果敢に戦い、バリードイルの6頭を退けた。しかし、アンソニーヴァンダイクには太刀打ちできなかった。
ヘファナン騎手はこう語った。「アンソニーヴァンダイクは促せば力を出してくれると思っていました。そこで、内側を通り抜けることを決心しました。少しばかり運が必要でしたが、ずっと順調でした」。
「ダービーでは、1番人気馬で負けたこともあれば[2009年フェイムアンドグローリー(Fame And Glory)]、その翌年に単勝101倍の馬で2着に入ったこともあります。ダービーを制することには大きな意味があります。一度も勝たずに諦めたくはありませんでした」。
オブライエン調教師は騎手も馬も最後まで諦めないことを分かっていた。アーサー・ムーア(Arthur Moore)厩舎からキャリアを開始したヘファナン騎手が、アンソニーヴァンダイクの実力を出せないはずはないと信じていた。そして今年のダービーの結末は、とてつもなくドキドキするようなものとなった。
オブライエン調教師はこう語った。「シーマスは以前からずっと、信じられないほど素晴らしい仲間であり、世界クラスのジョッキーです」。
「私たちは昔からの知合いで、バリードイルで活動する前から協力し合っていました。彼は多くの馬に乗って3着以内に入りましたし、偉大な馬にも騎乗してきました。また、世界中のトップレースを制してきました。彼は毎日全力を尽くし、ホースマンとしてもジョッキーとしても多くの経験を積んできました」。
一方、ヘファナン騎手と馬主たちはバリードイルにとってオブライエン調教師ほど重要な存在はないと心得ている。
18年間で英ダービーを7勝したことについて聞かれて、オブライエン調教師はこう語った。「まったく信じられません。現在のような地位を手に入れるとは夢にも思ったことがありません。毎日体をつねって確認しなければなりません。最高のスタッフと働き、最高の施設で、見事な血統と馬格をもつ優良馬を管理しています。誰もが夢中になって従事しています。特別な地位にいると実感しています」。
エイダン・オブライエン調教師ほど、その特別な地位にふさわしい調教師はいないだろう。彼は今や、英ダービー最多勝トレーナー(タイ)となっている。そしてまもなく、単独首位に立つだろう。
オブライエン調教師の英ダービー7勝
2001年 ガリレオ(単勝3.75倍 1番人気)― マイケル・キネーン騎手
2002年 ハイシャパラル(単勝4.5倍)― ジョン・ムルタ騎手
2012年 キャメロット(単勝1.62倍 1番人気)― ジョセフ・オブライエン騎手
2013年 ルーラーオブザワールド(単勝8倍)― ライアン・ムーア騎手
2014年 オーストラリア(単勝2.38倍 1番人気)― ジョセフ・オブライエン騎手
2017年 ウィングスオブイーグルス(単勝41倍)― パドレイグ・ベジー騎手
2019年 アンソニーヴァンダイク(単勝7.5倍)― シーミー・ヘファナン騎手
By Lee Mottershead
[Racing Post 2019年6月1日「Magnificent seven for Aidan O'Brien as Anthony Van Dyck lands Derby thriller」]