エネイブル、245日ぶりの実戦エクリプスSで鮮やかな勝利(イギリス)[その他]
世界一有名な騎手、世界一有名な競走馬、そして競馬界で最高のコンビ。サンダウン競馬場にいた観客は、エネイブル(牝5歳)とフランキー・デットーリ騎手が完璧な組合せであることを改めて思い知らされた。
晴天に恵まれた夏の日の午後、エネイブルが245日ぶりの実戦であるエクリプスS(G1 7月6日)で優勝し、同競馬場は大いに盛り上がった。
たしかにこの優勝は素晴らしい快挙だが、それ以上に多くのことを約束した。エネイブルが5歳になっても現役を続けているのは、至高の目標である凱旋門賞(G1)3勝を達成するためである。これまでこの偉業を成し遂げた馬はいない。エネイブルは現在、その輝かしい栄光に確実に近づいた。
ライバルのマジカル(Magical)を¾馬身引き離して達成した勝利は、その着差以上に確固たるものである。競馬界で偉大な存在となっている48歳の百戦錬磨の騎手は、16日前にロイヤルアスコット開催で記憶に残る4連勝を果たしたが、この日もエクリプスS以外に3勝を挙げ、勝つたびに大きな歓声で迎えられていた。観客はデットーリ騎手のことが大好きであるが、エネイブルに乗るときはなおさらである。
デットーリ騎手が名牝エネイブルに深い愛情を注いでいることも、明らかである。ゴール板を駆け抜けたデットーリ騎手は宙に拳を突き上げてから、エネイブルの左耳を軽く叩いた。その後、大歓声に酔いしれた同騎手はこう語った。「勝った瞬間、自分が何を言っているかも聞き取れませんでした。素晴らしいことです。彼女はとてつもない馬であり、この勝利には感動しました。彼女をとても愛しています」。
ジョン・ゴスデン調教師もまさに同じように感じているだろう。同調教師は彼女を愛し、知り抜いている。それゆえ、コロネーションカップ(G1 5月31日)やプリンスオブウェールズS(G1 6月19日)を回避して辛抱強く仕上げたことに満足していた。同調教師は毎朝、G1・8勝馬のエネイブルが実力を発揮する状態にあるのかを見守ってきた。
待った甲斐があった。エネイブルの父ナサニエル(Nathaniel)も2012年にシーズン初戦(265日ぶりの実戦)でエクリプスSを制し、今回は娘が同じ快挙を成し遂げた。エネイブルが1¼マイル(約2000m)のレースに出走するのは2回目であり、1回目には競走生活唯一の敗戦を喫している。
エネイブルはエクリプスSでハンティングホーン(Hunting Horn)の2番手に控えていたが、残り2ハロン(約400m)で先頭に立った。そこから決勝線まで、危なげなく勝利に向かって走った。
デットーリ騎手はこう語った。「最後の直線に差し掛かったとき、エネイブルはわずかに疾走し、行きたがりました。私は彼女に"少し待とう。残り2ハロンで仕掛けよう"と言いました。彼女はその後スピードを上げてレースを走り切りました。自信はありましたが、チャレンジを要するレースであることは分かっていました。なんて素晴らしい牝馬なのでしょう!」
「エネイブルには沢山のギアがあり、また勝利に対して信じられないほど強い意欲があります。彼女は馬体のサイズ、素質、ストライドなど、重要なものは何もかも持っています。それに、どのような馬場状態でも、また、どの距離でもこなせます」。
それならば、エネイブルはデットーリ騎手がこれまで騎乗した中で最高の馬なのだろうか?
「"イエス"と言うでしょう。エネイブルはこれまで乗ったどの馬よりも最高の実績を残しています。ゴールデンホーン(Golden Horn)の方が優れていると言う人もいるかもしれませんが、エネイブルの長期にわたる競走生活には驚かされています。これからも期待しましょう」とデットーリ騎手は答えた。
優勝後のフライングディスマウントを続ける衰えを知らないイタリア人ジョッキーにも、同じことが言えるかもしれない。デットーリ騎手は、『セヴン・ネイション・アーミー』の節で"オー、フランキー・デットーリ"と大声で歌う観客に迎えられた。ケリン・マカヴォイ(Kerrin McEvoy)騎手はこの歌声を聞いて、検量室の階段で振り返り、エネイブルとそのジョッキーがしかるべき称賛を受けている様子を見て微笑んだ。
ゴスデン調教師は、エネイブルの仕上がりは90%未満と評価していたが、この数週間に何が起こったかを次のように詳しく説明した。
「エネイブルが復帰したのは素晴らしいことです。彼女は負けず嫌いですが、2週間前まではそのような素振りを見せていませんでした。2週間前になってようやく彼女の切れ味が戻って来ました。それは彼女の振舞い方や行動から明らかでした」。
「彼女はそれまでも、何事も完璧にこなしていました。しかし、勝つ意欲は感じられませんでした。調教を形だけこなしていただけです。集中して取り組んでいませんでしたが、その後、一段と逞しく、素早く、鋭くなり、まるでボクサーのようになりました。そして急に競走できるゾーンに入りました」。
次にエネイブルがその力を見せるのを目にするのは、7月27日(土)のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 アスコット競馬場)となるだろう。同馬は2017年にこのレースを制している。その後、ヨーク競馬場に行くことになるだろう。ゴスデン調教師は英インターナショナルS(G1)よりもヨークシャーオークス(G1)のほうを好んでいる。そして、その次は凱旋門賞である。そこで彼女は4年前にトレヴでさえも達成できなかった栄光にチャレンジする。10月6日(日)にパリロンシャン競馬場でエネイブルがその栄光を手にするならば、観客は同馬に最大音量の歓声を送るだろう。
アブドゥラ殿下(エネイブルの馬主)のレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ氏はエネイブルについてこう語った。「エネイブルは本当に愛らしい馬です。スポーツファンは、コリ・ガウフのような選手(米国アトランタ出身の15歳の女子プロテニス選手)、エネイブルのような馬を好きになると思います。ファンは、土壇場で全力を尽くして期待通りの活躍をするこれらの女の子が大好きです。エネイブルは人々の心に入り込んでいます。このことは彼女のストーリーを素晴らしいものにするでしょう」。
この幸運な日を経て、私たちはとてつもなく素晴らしいストーリーの1つが作られる日にどんどん近づいて行く。
グリムソープ氏はこう付言した。「凱旋門賞はいつも私たちの心の奥にあります。彼女に現役を続けさせるのは歴史を作ろうとしているからです。彼女はそれを実現するのに最初の一歩を踏み出しています」。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2019年7月6日「Love is all around as Dettori and Enable unite for Coral-Eclipse glory」]