海外競馬ニュース 軽種馬登録ニュース 海外競馬情報 統計データベース 海外競馬場・日程 世界の競馬および生産統計 海外競走登録 申請書類
血統書サービス 引退名馬
twitter FB
TOPページ > 海外競馬ニュース > 透明性の欠如は競馬に悪い影響を与える(アメリカ)[開催・運営]
海外競馬ニュース
2021年05月27日  - No.19 - 3

透明性の欠如は競馬に悪い影響を与える(アメリカ)[開催・運営]


 頑固な糸くずのように記憶にこびり付いている瞬間がある。その1つは、何年のことだったかは思い出せないが、サンタアニタパーク競馬場の記者席で競走馬の投薬情報[とりわけビュート(bute)やラシックス(Lasix)]を過去成績や競馬番組に記載することについて、優秀な人々の会話を立ち聞きしたときのことだ。当時、同競馬場の競走役だったルー・アイルケン(Lou Eilken)氏は断固として反対した。彼の主張はどのようなものだったのだろうか?

 「馬券購入者はそれを知ってもどうしていいか分からないだろう」。

 アイルケン氏は議論に敗れた。どちらの薬物も一般的に使用されるようになるにつれて、その着眼点は無意味となった。あらゆる勝馬予想のツールと同様に記載された投薬情報は、ブリンカーやバンデージの装着情報に比べて無意味なものになってしまったのである。ほぼすべての馬が、一定量の鎮痛剤や利尿剤を合法的に投与されて出走している以上、パズルを解くための答えは別のところにあるはずだ。

 一方で、透明性を高めるという大義はとてもささやかに果たされた。競馬界は産業として、"合理的で抑制されたもの"として正当化できる最新の獣医療を競走馬が受けることを認めたのである。ラシックスは運動誘導性肺出血(EIPH)を予防した。ビュートは競走後の回復に役立った。入場者数も発売金も増加した。人生は素晴らしいものだった。

 だがそれは昔の話だ。今では、厳密に規制された状況下であれば何十種類もの競走馬用薬物の使用には十分に合法性があると見なされている。疑惑はまん延し、透明性を求める声は高まっている。透明性が比較的高い競馬管轄州もあるが、いかなる場合でも、透明性には重大な責任が伴う。背景を考慮せずに情報を提供することは誰のためにもならない。規制当局は消費者を啓蒙する義務がある。また公開した情報については責任をもち、漏洩すれば重大な違反行為の抑制を困難にするような情報については非公開にするという決意と、できればそれを裏付ける法律が必要である。

 この泥沼にあのニュースが飛び込んできた。2021年ケンタッキーダービー(G1)優勝馬メディーナスピリットの競走後に採取した検体からクラス3に分類される抗炎症剤の残留物が検出されたというのだ。失格となる可能性もあった。

 痛切に感じたことだが、メディーナスピリットを管理するボブ・バファート調教師がレースの8日後の緊急記者会見でこの牡駒の陽性反応を発表したことは、競馬界にも調教師自身にも良い影響をもたらさなかった。発表当時、競走後にこの牡駒から採取した原サンプルの分割検査の結果はまだ出ていなかった。ニュースを"出し抜くこと"がこのような発表を行った動機だった。つまりクライアントに「物語は自分のものとして語るべき」と言う広報担当者の考案した"もっともらしい懺悔"の現代風アレンジだ。これは透明性ではない。プロパガンダである。

 それでも、このような戦術は規制当局のバランスを崩すことに成功することもある。検査の有効性を疑問視するバファート氏の最初の声明に続いて、ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)からの反応は、大義のために何らかの形での透明性が求められていたにもかかわらず、完全沈黙だった。流出した情報、あるいは他のダービー入着馬への賞金支払いの保留によって、すでに秘密は漏れていたのだ。その時点で、KHRCの関係者がバファート氏に検査でフラグが付けられたと伝えたことを認める声明を出しても、まったく危うい状況にはならなかったはずである。また、分割サンプル検査の手順を説明し、いつ結果が出るのかを提示する機会にもなったはずだ。

 NBCの三冠競走中継の司会者であるマイク・ティリコ氏は、KHRCにあらゆるチャンスを与えた。バファート氏がメディーナスピリットの検査について、"処方された軟膏が陽性反応の原因だった"と自分に都合の良い二回目の発表をした後でも、基本プロセスについての質問に対しては、害を及ぼしたり違反することもなく、依然として答えることができたはずだ。ティリコ氏はプリークネスS(G1)後のテレビ番組の視聴者のためにKHRCに電話・メール・テキストメッセージで連絡を取り、メディーナスピリットの検査問題を一定の展望の下に置き、飛び交う憶測を鎮められたであろう一連の質問を投げかけた。

 その時点では、競馬界は何が起こっているかについてバファート氏の言葉しか聞いていなかった。しかしティリコ氏が得たいくつかの答えは、手続き上の言い逃れか、苦痛を伴うようなものだった。

 ティリコ氏は今週こう語った。「ダービーの後の月曜日から、私は具体的な答えを得るためにKHRCの誰かから話を聞こうとしていました。しかし彼らは誰にも対応させないことを選びました。それでも、検査のフローチャートとよくある質問に対する回答リストを受け取りました。その回答リストの1番目で、最初の検査でメディーナスピリットからベタメタゾン(betamethasone)が検出されたことをKHRCが認めたことを確認しました。それが事実かどうか尋ねたところ、彼らは"はい"と答えました」。

 透明性についての話題になると、法律的には"競合する利益"という言葉が呼び起こされる。つまり、どこまでが"秘密保持の法的義務"で、どこからが"国民の知る権利"なのかというものだ。しかしティリコ氏の質問は、他の競馬ジャーナリストと同様に、最も基本的で偏見のない情報を求めたものだった。

 ティリコ氏は引続き、分割サンプルの一連の管理体制や、この1年間に分割サンプル検査で最初の検査と異なる結果が出たことがあるかどうかについて質問した。それについての回答は、「研究所に情報公開請求を提出してください」というものだった。

 2016年にNBCに入る前に25年間ESPNに勤務したティリコ氏によると、国内に事務所を構える他のメジャースポーツは同様の質問に対して一瞬で具体的な回答を出す。しかし、様々な管轄の利害関係がある競馬はそうではない。その結果、メディーナスピリット論争は沸騰し続け、素朴な疑問が解消されないままとなっている。

 ティリコ氏はこう語る。「大局的に見れば、情報を共有していれば誰もが状況をよりよく理解できるということを学習するための経験になれば良いと思っています」。

 「統括団体の1つに属していると、自分の反応を測られることへの警戒感があるのは理解できます。今回のケースはかなり独特なので、読んだものをすべて鵜呑みにするのではなく、正確な答えを得たいと思いました。事実と推測を切り離すことが重要だと感じました。また競馬はパリミューチュエル賭事を提供しているという性質上、他のスポーツに比べて求められる基準値が違うと思います。馬券購入者は業界が成功するための基盤であり不可欠であるので、透明性が求められます」。

 「だから関係者の皆さんには、競馬の発展のためだけでなく競馬に与えられたダメージを修復しているこの状況下で協力するために、自らの保身やエゴを捨てるようにお願いしたいのです」。

By Jay Hovdey

[bloodhorse.com 2021年5月21日「Lack of Transparency Reflects Poorly on the Game」]


上に戻る