スカレティがイスパーン賞でG1初優勝(フランス)[その他]
刻々とロンシャンの芝を乾かした太陽の光があだとなり、スカレティ(せん6歳 父ケンダルジャン)は坂を下っているときに落鉄してしまった。それでも"優秀な馬は勝つ方法を見つけられる"と言わんばかりに、英国から遠征してきたティルジット(Tilsit)とマイオベロン(My Oberon)を最後の一完歩で退けた。
マルセイユを拠点とするジェローム・レイニエ調教師とその一番の支援者ジャン・クロード・セルール氏にとって、この勝利は素晴らしい午後を締めくくるものとなった。この調教師と馬主のコンビはすでにマリアナフット(Marianafoot)でパレロワイヤル賞(G3)を制しており、その前にはカンテ(5連単・5連複発売レース)のハンデ戦での勝利も手に入れていたのだ。
スカレティはこの数年、フランスの最強のG1未勝利馬の1頭に甘んじていた。道悪を好むこととせん馬であることが出走レースを計画するうえで障害となっていたのだ。
決勝審判委員がスカレティの頭差の勝利を確定したことを受けて安堵したレイニエ調教師はこう語った。
「彼はさまざまなコンディションで、自らが欧州で最強の古馬の1頭であることを示してきました。それに重馬場以外でも実力を発揮しました。彼がG1優勝を果たすことに誰もがこだわってきましたが、それが唯一の優先事項となることは決してありませんでした。この馬と一緒にキャリアを築きたいと思っていたのです。これが彼に残された最後のレースだったので、リスクを取らざるを得ませんでした」。
昨年10月の英チャンピオンS(G1)で、スカレティはアデイブに全力を出し切らせてしまい2着に敗れた。現在ではアスコットに再び遠征することが、レイニエ調教師にとって遂行すべき最大の仕事となっている。
「スカレティの今年最大の目標は、英チャンピオンSでリベンジを果たすことです。そのため、しばらく放牧に出そうと思っています。輸送面で難しすぎたためにカラ競馬場のタタソールズゴールドカップ(G1 5月23日)に出走させられなかったのが、大変悔やまれます」。
この日の最初の4レースは、"馬場が速くて内柵が最内に設置されているときは先行馬をとらえられない"というロンシャンでの経験知どおりになった。
こうした状況において、スカレティを引き留めざるを得なかったことは、おそらく速い馬場状態と同じくらいハンデになったと言えるだろう。
54歳のジェラルド・モッセは、長年一線で活躍しているジョン・ベラスケス、フランキー・デットーリ、イオリッツ・メンディザバルにつづき直近でG1を制したベテラン騎手となった。
モッセ騎手は、「彼が得意とする馬場ではありませんでしたし、理想的なバランスとは言えませんでしたが、それでも彼は最高の状態でした。最初にスピードを上げたとき、彼は数完歩のあいだ少し混乱していましたが、私は自分に"諦めてはいけない"と言い聞かせ、彼とコンタクトを取り続けて最後の200mで最大限の力が発揮できるようにしていました。彼を頼りにしていたのです」と語った。
以前騎手仲間だったドミニク・ブフ氏から、「35歳のレイニエに比べて、いったいどれだけ長い経験を積んでいるんだ?」とからかわれて、モッセ騎手は「私も若いジョッキーですよ。まだここにいるんですからね」と答えた。
モッセ騎手は鞭を8回使ったことで16日間の騎乗禁止処分を言い渡された。これは2回目の違反であったこと、そしてG1では2倍厳重な制裁が科されることを考慮したものである。
ラドブロークス社はクイーンアンS(G1 ロイヤルアスコット開催)のティルジットの単勝オッズを34倍から17倍に引き下げた。今回キャリアで最高の2着を達成したこの馬の次の挑戦として、チャーリー・ヒルズ調教師とジャドモントのチームはクイーンアンSをじっくりと検討することになるだろう。
ヒルズ調教師はこう語った。「素晴らしい走りっぷりでした。少なくともG1勝利に手が届く馬であることを証明しました。勝った馬がとても強かったのです。ティルジットは一生懸命走ったのですから、文句はありません。頭を低く下げていましたね。彼のことをとても誇りに思っています」。
クイーンアンS(6月15日)への挑戦について、ヒルズ氏は「アスコットの硬い馬場のマイル戦は、彼が得意とするものです。直線コースで実力を証明しているので、それもプラスに働きます。速い馬場も好材料なので、2週間後に彼の状態が良ければ、このレースをじっくりと検討するでしょう」と述べた。
ウイリアム・ハガス調教師も、新型コロナウイルスの検疫とブレグジットの困難に耐えてマイオベロンを出走させたことが報われた。ツイファミリーの自家生産馬マイオベロンはロッキンジS(G1 5月15日 ニューベリー)で努力が実らず5着に終わっていた。
ハガス調教師はこう語った。「彼をフランスに連れて来るために悪夢のような経験をしました。ニューベリーの重馬場は彼がまったく得意とするものではありませんでしたが、天気予報でパリは快晴でからっとしていると言っていたので、それに魅了されました。スカレティも直前に回避したザレヴェナントも重馬場を得意としているので、G1競走で彼らを追い詰めてやろうと思ったのです」。
「本当に称賛に値する走りっぷりでしたし、一瞬"勝つのではないか"と思ったほどです。将来のためにもG1に挑戦していくことが必要です。次にどのレースに挑戦するかは分かりませんが、まったく素晴らしい馬です」。
By Scott Burton
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