マルシュロレーヌ、BCディスタフを制して日本に2つ目の栄冠(アメリカ)[その他]
ブリーダーズカップ開催の2日目(11月6日)には、ペースが大きく乱れたことで最大の逆転劇が起こった。日本調教馬マルシュロレーヌがダンバーロードを紙一重の鼻差で抑え、総賞金200万ドル(約2億3,000万円)のBCディスタフ(G1)を制覇したのだ。
これは日本の生産馬・調教馬にとってブリーダーズカップ2勝目となった。ラヴズオンリーユーがBCフィリー&メアターフ(芝G1)を制して日本調教馬として初めてブリーダーズカップ競走を制してからわずか3レース後のことである。どちらの馬も矢作芳人調教師により管理されている。
マルシュロレーヌの単勝の払戻金は、2ドル(約230円)につき101.80ドル(約1万1,700円)となった。これは2000年の優勝馬スペイン(Spain)の113.80ドル(約1万3,100円)に次ぐ、BCディスタフ史上2番目の高額配当となった。
日本は国際的なビッグレースでますます野心と競争力を高めている。ディアドラの2019年ナッソーS(G1 グッドウッド)での驚きの勝利は、日本にとって19年ぶりの英国でのG1優勝となり、ある種、世界に向けたお披露目パーティーとなった。今年のドバイワールドカップカーニバルでは、総賞金500万ドル(約5億7,500万円)のドバイシーマクラシック(G1 3月27日)にラヴズオンリーユーが挑んだが惜しい3着に終わっている。また日本は長年にわたり凱旋門賞(G1)優勝を目標にしており、2006年には三冠馬ディープインパクト、2012年にはマルシュロレーヌの父オルフェーヴルが挑戦して大きなチャンスがあったものの惜しい結果に終わった。
日本馬が2勝を挙げたこの日は日本競馬界にとって最高の日として歴史に残るだろう。世界中から集まった最高級の馬を相手にもぎとった勝利である。マルシュロレーヌに騎乗したのは英国のリーディングジョッキー、オイシン・マーフィー騎手であり、彼はディアドラに騎乗してナッソーSも制していた。また2018年と2019年の冬に日本で短期騎乗し、日本馬の熱心な支持者となっていた。
ブリーダーズカップで初勝利を挙げたマーフィー騎手は、「マルシュロレーヌのことはあまり知りませんでした。日本では矢作先生の馬にたくさん乗っていますし、海外でもかなり乗っています。ドバイや香港でも矢作厩舎の馬に騎乗したことがあります。先生はチャンスがなければ遠征しないのですよ」と語った。
マルシュロレーヌは2021年に3勝していたが、それらはすべて日本国内で挙げられたものだった。8月にブリーダーズゴールドカップ(門別 1着賞金3,100万円)を½馬身差で制したほか、エンプレス杯(川崎 1着賞金3,500万円)とTCK女王盃(大井 1着賞金2,200万円)という2つの高額賞金レースを制した。このような競走成績が米国最高峰の古牝馬のレースにつながるかどうかは誰も推測できず、ほとんどの馬券購入者は間違った予想をした。
マーフィー騎手は、「オッズは無視して、レース中にあらゆるチャンスを与え、しっかり完走できるようにしました。正直に言うと、運に左右されていたのは明らかでした。後方にいたのですが、先行勢は猛スピードで走っていました。そうしてくれることが必要でしたが、それにしてもマルシュロレーヌは見事なパフォーマンスをしました」と語った。
このレースではスピードが圧倒的に出ていたたために、序盤の先行勢にとって厳しい状況になった。プライベートミッションは最初の¼マイル(約400m)を21.84秒で通過し、デルマー競馬場の観客が一斉に息を飲むのが聞き取れるほどだった。そして掲示板に½マイル(約800m)44秒97のタイムが表示されると、さらに大きな驚嘆と、思わず発せられる笑い声へと変わっていった。
今シーズンG1・4勝を果たしていて年度代表馬の候補となっている1番人気のレトルースカはバックストレッチをずっと2番手で走っていたが、プライベートミッションに遅れずについて行くことは良い結果をもたらすことにはならなかった。
イラッド・オルティスJr.騎手は、「周りの馬はスピードを出しすぎていました。レトルースカを先頭に立たせたくなかったのでしょうね。それで追いかけてきました。彼女は行きたがっていて、できるだけペースを落とそうとしたのですが、うまくいきませんでした」と語った。
ファウスト・グティエレス調教師も同じ意見で、「ハロンタイムが21秒、44秒となると、とても厳しいです。このフラクションで走るなんてありえないです」と述べた。
プライベートミッションは¾マイル(約1200m)を1分9秒70で通過した。残り600m付近で先に後退すると、レトルースカが先頭に立ったが、彼女も勝つ望みを失っていたことは明らかだった。この2頭は結局、最下位でゴールした(レトルースカは10着、プライベートミッションは11着)。
最後の直線に入ったところで馬群が広がり、より辛抱強い馬があらゆる方向から迫ってきた。マルシュロレーヌは序盤から意図的にダンバーロードの後ろにつけていた。
マーフィー騎手はこう語った。「ホセ・オルティス騎手のことを尊敬しています。私よりもずっとダートを熟知した騎手なのです。彼が先行しなかったので、おそらく彼について行くのが一番いいだろうと思い、後ろをゆっくりと走っていました。キックバックを少なくするためにできるだけぴったりつくようにしましたが、マルシュロレーヌは道中うまく走ってくれました。仕掛けるのは少し早すぎたかもしれません。ただ早めに動かなければ、ターン(3・4コーナーのあいだ)で大きく回されてしまうと思ったのです。だから大きく回されるか、仕掛けていくかの選択が迫られたのです」。
マルシュロレーヌは残り600mを切ったときに一気に加速して先頭に立ったが、2021年ケンタッキーオークス(G1)優勝馬マラサートが8番手から、コティリオンS(G1)優勝馬クレリエールが最後方から追い上げてきたので、多くの挑戦者たちを抑えなければならなかった。
ダンバーロードは道中厳しい状態に追い込まれていなければ、勝利を手にしていたかもしれない。混沌としたターン(3・4コーナーのあいだ)で進路を見つけようとして後方に下がってしまい、最後の直線に向かって直進してきたマラサートと衝突してしまったのだ。マラサートとダンバーロードはゴールまで同じストライドで競り合った。そして決勝写真のマルシュロレーヌとダンバーロードはライブでもスローモーションのリプレイでも勝敗が判断できないほどの僅差だった。
ダンバーロードを管理するチャド・ブラウン調教師は後にこう語っている。「おそらくこれまでで一番つらい敗戦でした。彼女は2年連続でBCディスタフを制覇すべきだったのに、残念でなりません。前回のレースも道中悪い流れだったのです。そうでなければ誰が何と言っても納得できません。バックストレッチで揉まれてしまい、望んでいない内側に入り込んでしまいました。馬場は外側のほうが良かったのですが、ただそうなってしまったのです。ホセはできるかぎりのことをしてくれたし、彼女も勇敢に頑張ってくれました。本当に彼女を誇りに思います。キャリアがこんな形で終わってしまったのは残念なことです。このレースの勝者にふさわしいと思っていました」。
マラサートは、ケンタッキーオークスとアラバマS(G1)を制してG1・2勝を挙げた今年を良い形で締めくくろうとこのレースに挑んだ。この馬を管理するトッド・プレッチャー調教師は、アラバマSから77日後のBCディスタフに向けて調教することを決定していた。
プレッチャー調教師は写真判定で決まった1~2着馬の½馬身後ろの3着にマラサートが入ったことについてこう語った。「素晴らしいペース配分でした。彼女は道中スムーズに走っていました。しかし直線の入り口で馬のあいだに挟まれてしまい、揉まれながらも前進しなければなりませんでした。彼女は少し怖気づいているように見え、少し頭を上げていました。しかしそれを切り抜けると、ふたたび追い上げて勢いを増していきました。とてつもなく頑張りました。彼女をとても誇りに思います。ただ負けるところは絶対に見たくありません。スーパースターなので、敗北によって何も失いませんが」。
クレリエールは2つのターン(1・2コーナーのあいだ&3・4コーナーのあいだ)で外を回るレースをし、最終コーナーでも内側に7頭を見ながら回った。それは彼女の着順を上げるものではなかった
クレリエールを管理するスティーヴ・アスムッセン調教師は、「望んでいたよりも¾馬身後ろでゴールしてしまいました。前半は思っていたよりも後ろにいましたが、リカルド(サンタナJr.)がこのダートですぐに走り込むことができなかったと言っていたのです。外に持ち出されると彼女は良い走りをしました。ただ、直線では力尽きてしまったようですが」と語った。
レースは最後の¼マイル(約400m)までもつれ込んだが、この日は日本とマルシュロレーヌの400口の出資者のものとなった。
By Jim Mulvihill
(1ドル=約115円)
[bloodhorse.com 2021年11月6日「Marche Lorraine Upsets BC Distaff at Odds of 45-1」]