英語競馬実況の第一人者マレー・ジョンソン氏、競馬を語る(日本)[その他]
2002年以降に日本のビッグレースの英語中継を見たことがあるなら、その中継で聞いた声はまずマレー・ジョンソン氏のものだろう。
東京在住のジョンソン氏はJRAの英語実況をメインで担当する。西オーストラリア州パース出身で1991年から日本に住むジョンソン氏は、11月28日(日)に自身にとって20回目のジャパンカップ(G1)実況を行う。今年のジャパンカップでは、昨年名牝アーモンドアイの2着となった2020年の三冠馬コントレイルが、今年の日本ダービー馬シャフリヤールやエイダン・オブライエン厩舎の有望馬であるブルームおよびジャパンと対戦する。
競馬だけでなく相撲の専門家でもあるジョンソン氏は、この日本の伝統的なスポーツの英語実況も担当している。
TRC(以下Q): 世界の競馬史において最も重要な人物は誰だと思いますか?そしてその理由は?
ジョンソン氏(以下A):日本の場合、その答えは一個人ではなく1つの帝国ですね。日本では、吉田ファミリーが競馬を変えてきました。社台グループ創始者の吉田善哉さんがノーザンテースト、サンデーサイレンスを購買したのが出発点です。
吉田ファミリーはその後も米国や欧州から質の高い繁殖牝馬や種牡馬を購買してきました。優秀な競走馬や、将来に向けての生産計画をつくり出すことを目的に、これらの所有馬リストをつねにアップデートし続けています。3兄弟がそれぞれの牧場を運営している一方で、その集大成が日本競馬を今日の姿にし、世界の競馬の血統にも影響を与えているのです。
Q:世界中で一番好きな競馬場とレースはありますか?
A:香港のハッピーバレー競馬場は、競馬を満喫するためのすべてが揃った場所ですね。競馬場のどこからでも素晴らしいトラックビューが楽しめます。競馬場の構造・レストラン・カジュアルな施設などが工夫されていて、接戦で魅力あるレースと一緒にとびきりのエンターテインメントを提供しています。
一番好きなレースは日本ダービー(G1 東京優駿)ですね。このレースには最強の3歳馬が出走し、その多くが将来の生産界のスターになるのです。
[以下の動画で、ジョンソン氏の実況つきの今年の日本ダービー(シャフリヤールがエフフォーリアを鼻差で凌いだ)が見られます]。
https://www.youtube.com/watch?v=uOy-HFrtXKE&t=4s
Q:競馬での一番の思い出は何ですか?
A:幸運にも20年ものあいだ実況を続けてきましたが、私にとって初めてのジャパンカップでの実況は2002年に中山競馬場で開催されたもので、エキサイティングであるもののストレスの多いものでした。結果が確定するまで、写真判定や審議で30分待たされたのですよ。ファルブラヴとサラファンはほぼ同時に決勝線を駆け抜けたのです。最終的にファルブラヴが勝者と判定されました。鞍上のフランキー・デットーリは前日のジャパンカップダート(G1)でもイーグルカフェで優勝しており、このダブル制覇は二度と見ることができないのです(ジャパンカップダートは2014年からチャンピオンズカップとして開催されている)。
Q:現在、競馬が直面している最大の課題は何だと思いますか?
A:馬券購入とエンターテインメントのバランスを見つけることです。日本では馬そのものと興奮をプロモートすることが重視されていますが、ほかの国では地域社会へのアピールを発信していて、それが馬券購入者を少しいら立たせているようですね。すべての国に共通する解決策はありません。
Q:競馬について何か1つを変えるとしたら、何を変えたいですか?
A:競走生活を終えた馬に対して、馬主はもっと責任を負うべきですね。それを監視するのは難しいことですが、競走生活を終えた馬を助けるための基金に徴収金を支払う必要があります。実践計画が重要である反面、実行はとても難しいアイデアですが、でも、もともと不完全な世界にいるのだからそんなことを夢見ても良いでしょう。