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2021年02月18日  - No.6 - 3

急カーブは予後不良事故率にほぼ影響を及ぼさない(アメリカ)[開催・運営]


 ケンタッキー大学は最近、サラブレッド競走馬の予後不良事故についての研究論文を発表した。その論文において、コーナーが小回りであることによる著しい影響は見いだされず、馬場種類によって特定の肢に生じる怪我についてさらに研究すべきとされた。

 ケンタッキー大学は1月8日、論文『馬場種類とコーナー半径が競走馬の致命的な肢骨折に及ぼす影響(Effects of Racing Surface and Turn Radius on Fatal Limb Fractures in Thoroughbred Racehorses)』を無料で閲覧できるようにした。この論文には、2009年1月1日~2014年12月31日の事故馬データベース(Equine Injury Database:EID)が用いられている。EIDでは、レース発走から72時間以内に骨折が原因で死にいたるか安楽死措置が取られたケースを「予後不良事故」としている。

 予後不良事故率は次の点から評価された。(1)性別、(2)馬齢、(3)負担重量、(4)出走頭数、(6)出走枠、(7)競走距離、(8)馬場種類・馬場状態、(9)直近の調教で使用した馬場種類、(10)コーナー半径、(11)馬場種類によって特定の肢に生じる怪我。

 怪我をした"特定の肢"あるいは"特定の肢の組合せ"の分析により、これまでの分析で見られていた傾向は実証された。また、今後の研究のために新たな問題を提起した。

 この研究で得られた最も決定的な結果の1つは、コーナー半径が予後不良事故率にほとんど影響しないということだった。

 次の4区分のコーナー半径が調査された。(1)半径50~114 m(デルタダウンズ競馬場など)、(2)半径114~126 m(サフォークダウンズ競馬場)、(3)半径126~129 m(チャーチルダウンズ競馬場)、(4)半径129 m~(サンタアニタ競馬場とベルモント競馬場)。

 調査対象期間における全ての競馬場での予後不良事故率は1.789件/出走馬1,000頭だったが、コーナーの区分別では以下のとおりである。

(1)半径 50 ~114 m :1.772件/1,000 頭

(2)半径114 ~126 m :1.856件/1,000 頭

(3)半径126 ~129 m :1.645件/1,000 頭

(4)半径129 ~    :1.865件/1,000 頭

 ケンタッキー大学の競馬場安全プログラムの指導者であり、この研究論文の共同著者であるミック・ピーターソン博士はこう述べた。「急カーブや小回りコースなどにはつねに不安がつきまとってきました。しかし、実際には、そのような懸念は見当たりませんでした。急カーブの影響はあったとしても本当にごくわずかです。本来、急カーブがあることでいくらか融通が利くようになります」。

 ピーターソン博士は、コーナー半径の分析には芝コース・人工馬場に関して但し書きが付くと語った。北米ではほぼすべての芝コースは本馬場(ダートもしくは人工)の内側に敷設されていることで、コーナー半径にあまりバリエーションがない。また人工馬場も通常マイル以上の長さで敷設されているため、コーナー半径に大したバリエーションがない。

 「そのため、私たちがコーナー半径の分析から出した答えの多くがダート馬場についてのものです」と同博士は述べた。

 馬場種類によって特定の肢に及ぼされる影響については、前肢骨折による予後不良事故が最も多く、2.361件/1,000頭となっている。ダート馬場において2.464件/1,000頭の予後不良事故が生じており、3つの馬場種類の中では最も頻繁である。これは以前EIDから導き出した、予後不良事故率はダートよりも芝コース・人工馬場において低いとする分析と一致している。調査対象期間において、全体的な予後不良事故率は、芝コースは1.503件/1,000頭、人工馬場は1.149件/1,000頭だったが、ダートは1.789件/1,000頭だった。

 ダートでの競走中に最も大きなリスクに晒されるのは、左前肢と右後肢である。

 この論文において問題が提起されたのは、後肢の怪我である。右後肢の怪我はダート(0.086件/1,000頭)よりも、芝コース(0.113件/1,000頭)と人工馬場(0.104件/1,000頭)でより頻繁に生じている。論文によれば、左後肢または右後肢に致命的な骨折が生じる危険率はダートよりも芝においてのほうが高く、複数の肢骨折が生じる危険率はダートよりも人工馬場においてのほうが高い。

 ピーターソン博士はこう語った。「ジョン・シレフス調教師は人工馬場を嫌っています。彼が馬のことをあまりにもよく知っているので、とても尊敬しています。彼は本当によく気がついていて、"ただ、人工馬場で馬の後肢に生じることが気に入らないのだ"と言いました。この論文はジョンが言っていたことに信憑性を与えます。しかしジョンが人工馬場について言っていることは、芝コースにおいてよりあてはまっているのです」。

 そして「この論文では、奇妙な質問と答えの組合せが引き出されます」と続けた。

 この論文は負担重量が重いときに予後不良事故率が減少することも指摘している。負担重量の区分と予後不良事故率は以下のとおりである。

・ 負担重量52kg(115ポンド)以下:   2.158件/1,000 頭

・ 負担重量52~54kg(115~119ポンド): 1.641件/1,000 頭

・ 負担重量54~56kg(119~123ポンド): 1.642件/1,000 頭

・ 負担重量56kg(123ポンド)超:    0.865件/1,000 頭

 論文は結論とともにこう述べている。「斤量を背負うことで速歩のときに肢にかかる垂直方向の最大負荷が増すので、この結果は直感に反しているように思われるかもしれません。しかし、ハンデを与えるために斤量を増やすことは、負担重量が増加すれば走行速度が遅くなるという想定に基づいています。それによりストライド(完歩)が伸びて姿勢が持続することで四肢への最大負荷を減らす可能性があります。これと類似して、競走距離が伸びて危険率が低下することは、平均速度の低下により肢への最大負荷が減少することに関連している可能性があります」。

 負担重量の分析は、馬が重いあるいは軽い斤量を背負う状況にも影響を受けるだろう。多くの競走条件の下、近走で勝利を挙げた馬はしばしば負担重量を引き上げられ、古馬は3歳馬と対戦するレースで一様に負担重量を引き上げられる。一方、牡馬と対戦する牝馬や、経験の浅い見習騎手が騎乗する馬は、負担重量が引き下げられる。この論文では、性別によっても予後不良事故率を分析している。牝馬の予後不良事故率は最も低い1.537件/1,000 頭であり、せん馬は1.660件/1,000 頭、牡馬は2.239件/1,000 頭だった。

 高いレベルの斤量を背負うことを要求するステークス競走もある。たとえば、ケンタッキーダービー(G1)での標準的な負担重量は126ポンド(約57kg)である。

By Eric Mitchell

[bloodhorse.com 2021年1月15日「Study: Negligible Effect on Breakdowns From Tight Turns」]

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