スノーフォール、骨盤損傷により安楽死(アイルランド)[その他]
エイダン・オブライエン調教師は3つのオークスを制した優良牝馬スノーフォールに今週安楽死措置を取らなければならなかったことを明らかにした。フランキー・デットーリ騎手はこの知らせを受け、スノーフォールを"これまで鞍上を務めた中で最もたやすく英国のクラシック競走を制した馬"と言い表した。2022年平地シーズンを目前に控えたこの時期に、バリードイル(クールモアの調教拠点)は苛酷な痛手を被ることになった。
英オークス(G1 エプソム)でデットーリ騎手を背に呆然とさせられるような16馬身差の圧勝を決め、その後カラとヨークでもオークスを制したスノーフォール(牝4歳)は数週間前にバリードイルの馬房内で重度の骨盤損傷を負っていたと、オブライエン調教師は述べた。
獣医師チームは彼女を救うために最善を尽くしたが、その闘いは敗北に終わった。
スノーフォールは凱旋門賞(G1 10月3日 ロンシャン)で6着となった後、英チャンピオンズフィリーズ&メアズS(G1 10月16日 アスコット)で3着となり、これが彼女のラストランとなった。
セントマークスバシリカはすでに引退しており、スノーフォールは2022年にオブライエン厩舎の古馬勢をリードすることが期待されていたはずだ。またそれ以上に2016年凱旋門賞優勝馬ファウンドの全妹を母としディープインパクトを父とすることから、クールモアにとって将来の繁殖牝馬としての価値は計り知れなかった。オブライエン調教師はセントマークスバシリカと交配させることをほのめかしていた。
同調教師は1月11日に本紙(レーシングポスト紙)に対してこう語った。「たいへん残念なことですが、私たちの素晴らしい牝馬スノーフォールが数週間前から重傷を負っていたことを報告します」。
「獣医師チームと厩舎スタッフが最善の治療と注意を尽くしたものの、彼女の状態は数日前にひどく悪化し、彼女を永い眠りにつかせるという悲痛な決断を下す以外、選択肢は残されていませんでした」。
オブライエン調教師はスノーフォールの怪我の状況についてこう説明した。「彼女は骨盤を損傷しました。厩舎スタッフの1人が昼食時に餌をやり、1時間後に戻ってきたところ、彼女は馬房の中で歩行が困難になっていたのです。私たちの獣医師であるジョン・ハリー氏は、馬房内で後股が過度に開いてしまい骨盤を痛めたと考えています。しかしもちろん、どうしてそんなことが起こったのか正確には分かりません」。
「彼女のためにできるかぎりのことを全部しましたが、力が及びませんでした。競馬、そして繁殖の観点からも、ここにいるすべての人にとって大きな喪失です。彼女はそれほどまでに格別の牝馬だったのです」。
2歳のときに7戦して1勝しかできなかったスノーフォールは、ライアン・ムーア騎手を背にミュージドラS(G3 ヨーク)を快勝してクラシックシーズンを華々しくスタートさせ、デットーリ騎手を背に英オークス(G1 エプソム)で記録的な着差をつけて優勝した。その後ふたたびムーア騎手を鞍上に迎えて愛オークス(G1 カラ)とヨークシャーオークス(G1 ヨーク)を圧勝した。それからデットーリ騎手が代役として騎乗した凱旋門賞の前哨戦、ヴェルメイユ賞(G1 ロンシャン)に単勝1.2倍で臨んだものの、このコンビはティオナに急襲されることになった。
デットーリ騎手は1月11日、スノーフォールに溢れんばかりの賛辞を贈った。「これまで21頭の英国クラシックウィナーに騎乗しましたが、英オークスでの彼女のようにたやすく勝利を決めた馬に乗ったことはありません。まったく信じられないくらいです。タッテナムコーナー(最終コーナー)で勝たせてもらったのですから。彼女はピークに達していて、本当に素晴らしかったです。まるでバターを切る熱いナイフのように馬群の中をすり抜けて行ったのです」。
「この時代にあのようなパフォーマンスは二度と見られないと思います。私も人生においてあのようにクラシックを勝つことはもうないでしょうね」。
「誰にとっても、そして彼女が迎えようとしていた将来にとっても、大きな喪失です。エイダン、バリードイルの皆さん、そして馬主の方々にとってひどく悲しいことです。お悔やみを申し上げます」。
愛オークスでのスノーフォールの8½馬身差の勝利は、同レースの100年以上の歴史において最大の着差であり、日本産馬として初めてのアイルランドのクラシック制覇でもあった。スノーフォールの通算成績は14戦5勝、獲得賞金は88万5,696ポンド(約1億3,728万円)だった。
3つのオークスでのスノーフォールの壮大な勝利
・ 英オークス(G1 6月4日 エプソム)
同じ厩舎のサンタバーバラが英1000ギニー(G1)で健闘して4着となったことで単勝3.5倍の1番人気に支持されていた。しかし世間の注目を集めたのは、1779年から始まった英オークスの歴史において最大の16馬身差をつけて優勝したフランキー・デットーリ鞍上のスノーフォールだった。
後方にいた単勝6.5倍のスノーフォールはスムーズに前進し、残り2ハロン(約400m)の地点で先頭に立つとそのまま疾走しつづけ、エイダン・オブライエン調教師にとって40回目(レコードタイ)となる英国クラシック優勝を達成した。
1859年の英1000ギニーを20馬身差で制したマヨネーズだけが、これに勝る大差で優勝している。
・ 愛オークス(G1 7月17日 カラ)
スノーフォールの英オークスでの衝撃的な勝利は一部の人々を驚かせたかもしれない。しかし、カラ競馬場で単勝1.3倍の1番人気に支持されたスノーフォールが再度格の違いを見せつけたことで、彼女に秘められた驚くべき能力は公のものとなった。
クールモアの主戦騎手、ライアン・ムーアがふたたび鞍上を務めていつもどおりの仕事をした。先行集団の後ろに控え、残り2ハロン(約400m)で楽に抜け出すと、そのまま加速して8½馬身差の勝利を決めた。
ディヴァインリーが2着となり、オブライエン厩舎にとってのワンツーフィニッシュを達成したが、ほかの馬と同様に勝馬にはまったく歯が立たなかった。
・ ヨークシャーオークス(G1 8月19日 ヨーク)
スノーフォールの次の舞台はヨーク競馬場だった。愛オークスでの優勝はエプソムで見せたような熱狂的な要素はなかったかもしれないが、彼女をほかの馬よりも抜きん出た存在にしていた。
単勝1.5倍の1番人気を背負ったスノーフォールはスタートで出遅れたが、ムーア騎手の手綱さばきですぐに力強い動きを見せた。ムーア騎手は残り3ハロン(約600m)の地点で彼女に合図を送り、即座に主導権を握ってアルバフローラを4馬身引き離してゴールを駆け抜けた。
このレースで、怪我で引退するまで凱旋門賞の有力馬と見なされていた優良牝馬ワンダフルトゥナイトは馬場が速すぎたのか4着に敗れている。
By Richard Forristal and Mark Boylan
(1ポンド=約155円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2021年No.21「スノーフォール、英オークスを16馬身差で圧勝(イギリス)」、No.27「スノーフォール、愛オークスを8½馬身着で圧勝(アイルランド)」、No.31「スノーフォール、ヨークシャーオークスを制して凱旋門賞に向け躍進(イギリス)」
[Racing Post 2022年1月11日「Aidan O'Brien speaks of 'massive loss' after the death of top filly Snowfall」]