ロマンティックウォリアー、香港ダービーを制覇(香港)[その他]
3月20日にシャティン競馬場で施行された競馬開催はめずらしいものの1つとなった。香港ダービーはゴールまですべてが予想どおりの展開となり、ロマンティックウォリアーがカリフォルニアスパングルに頭差の勝利を達成したのだ。
枠順がレースを大きく左右した。カリフォルニアスパングルは案の定、外側のゲートから全速力で発走して先頭に立たざるをえなかった。ザック・パートン騎手が心配していたとおり、カリフォルニアスパングルはレースの大半で後続馬による激しい圧力を受けた。
ロマンティックウォリアーが好位につけて道中鮮やかな走りを見せたとき、ダニー・シャム調教師とカリス・ティータン騎手の願いは叶った。それはまさに、香港クラシックカップで位置取りに悩まされカリフォルニアスパングルの4着に敗れた後にあつらえられた作戦を実行するかのようなレース運びだった。
そして最後に、2頭はゴールまでの100mで、競馬ファンが大好きなドラマチックで死に物狂いの瞬発力勝負を繰り広げた。今や、この2頭が香港に心躍る新時代をもたらしてくれることになりそうだ。
また香港ジョッキークラブ(HKJC)にとって思いがけない贈り物となった。ロマンティックウォリアーは、香港インターナショナルセールの出身馬として初めてダービーを制したのだ。香港の馬主たちは、このレースをシーズンで最も権威あるものと見なしている。そのような馬主の1人、ピーター・ラウ氏はシャム調教師の推薦でロマンティックウォリアー(父アクラメーション)を480万香港ドル(約7,200万円)で落札していた。
シャム調教師はこう語った。「香港クラシックカップの後、香港ダービーでよく走るだろうと思っていたのです。クラシックカップではつねに4頭の外を回るような競馬をしていたのですが、それでも4着に入りました。いい走りっぷりでしたし、多くのことを学んだようでした。乗りやすい馬なので、自信を持ってダービーに臨みました。どのレースでもうまく折り合いをつけています。良いペースをつかめたら、かかることはないのです。スローペースだったら、少し前に行くことはありますね」。
ダービーでは、ティータン騎手は直線入口まで、追走するのに絶好のポジションにロマンティックウォリアーをつけていた。そしてレースのペースをつくっていたライバルに外側から仕掛けていき、期待どおり十分な余力を残していてきっちり仕事を成し遂げた。
ティータン騎手はロマンティックウォリアーについてこう語った。「最初のターン(1・2コーナーのあいだ)で少し前へ動いて行きましたね。最後の直線までいい感じで追走していたのですが、正直なところ『ああ、ザックの馬を抜くのは難しいだろうな』と思っていました。この馬は小柄ですが度量が大きいのです。オーナー、ダニーとそのチームなど、皆さんに本当に感謝しています」。
パートン騎手はレース前に、枠順、そして闘志に燃えるライバルがカリフォルニアスパングルの願望を妨げる要因となる可能性を警戒していた。そしてトニー・クルーズ調教師はまさにそのとおりの展開になってしまったとし、こう語った。
「ザックは早すぎる段階で色々な馬に仕掛けられてしまったと言いましたが、本来のやり方をさせてもらえていたら勝っていただろうと思います」。
ロマンティックウォリアーとカリフォルニアスパングルは、このレースと同じ2000mのクイーンエリザベス2世カップ(G1 4月24日)でふたたび対戦するようだ。
シャム調教師はこう語った。「次走はクイーンエリザベス2世カップです。今年は外国馬が参戦しませんし、経験豊富な馬と競うのにちょうど良い時期ですね。この馬はまだまだ進化できます。勝ってくれれば嬉しいです。しかし3~4着に入ったとしても、成長するのにいい教訓になると思うのです」。
「この馬をインターナショナルセールに出してくれた香港ジョッキークラブ(HKJC)にも感謝したいと思います。実は、CEOのウィンフリート・エンゲルブレヒト⁼ブレスゲス氏もセリ会場の厩舎で"この馬がいい"と言ったので、まさにその馬を選んだというわけです」。
HKJCは香港に生産界がないことから、世界中のセリで期待できそうな馬を購買して地元の熱心な馬主に再販することで、競走馬集団に新しいトップクラスの血統を注入している。ロマンティックウォリアーはもともと、アイルランドの元トップジョッキー、マイケル・キネーン氏が2019年のタタソールズ社10月1歳セールで選び出した馬だった。香港ダービーを制したことで、ロマンティックウォリアーの生涯獲得賞金は2,480万香港ドル(約3億7,200万円)に上った。
この日、ひとつだけ残念だったのは、巨大なシャティン競馬場のグランドスタンドの扉が閉ざされ封鎖されていたことだ。これまでで最も深刻な新型コロナウイルスの感染拡大(第5波)に動揺する香港では、エッセンシャルな競馬関係者しかこの豪華な競馬施設への入場を認められず、出走馬の馬主さえも入場を許されなかった。
しかし香港ダービーでのパフォーマンスが何かを暗示するとしたら、平常な状況に戻れば、ラウ氏は今後しばらくビッグレースでロマンティックウォリアーに声援を送れるようになるということだろう。彼の馬がこれまで香港ダービーを制したヴェンジェンスオブレイン・アンビシャスドラゴン・デザインズオンローム・ワーザーなどの蹄跡を辿るとすると、これらの馬はすべて、ダービー後にクイーンエリザベス2世カップを制した馬なのだ。
By Bob Kieckhefer
(1香港ドル=約15円)