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2022年05月12日  - No.16 - 1

ケンタッキーダービー、リッチストライクが大番狂わせの優勝(アメリカ)[その他]


 リッチストライクは5月7日、ケンタッキーダービー(G1)の148年の歴史において2番目に大きな番狂わせを起こし、自らの馬券を購入してくれた人々をまさに"リッチ"にした。

 単勝81倍のリッチストライク(父キーンアイス)は無名のサニー・レオン騎手を背に劇的な追い込みを見せ、2頭の人気馬、エピセンターとゼンダンをとらえてチャーチルダウンズ競馬場の14万7,294人の観客を唖然とさせた。単勝の払戻金は2ドル(約260円)につき163.60ドル(約2万1,268円)であり、それは1913年にドーンレイル(Donerail)が記録した184.90ドル(約2万4,037円)に次ぐものだった。

 衝撃を受けたのは馬券購入者だけではなかった。優勝トレーナーのエリック・リード調教師は、「レースがまだ終わったばかりで興奮して膝ががたついています。リッチストライクが先頭でゴールを駆け抜けるのを見たときには、地面に倒れこんでしまいました」と語った。

 人々がお祝いに駆けつける中、リード調教師は友人たちに「こんなこと信じられるかい?」と叫んだ。

 そう感じたのは彼だけではなかった。優勝馬主レッドTRレーシング社のオーナーであるリチャード・ドーソン氏も唖然としておりこう語った。

 「どうしちゃったのでしょうか?どこか宙に飛ばされたような感じですよ。よく分かりませんね。信じられません。表彰台に上がったリード調教師に『これは夢じゃないの?現実ではありえないことだろう』と言いました。でも彼は現実だと断言したのです」。

 来場していた多くの人々にとって起こるはずのない結果であり、ほぼ起こらないことだった。当初リッチストライクは獲得ポイントが少なくケンタッキーダービーのフルゲート20頭の中に入ることができず、出走するには出走取消馬が出る必要があった。

 5月2日の出馬投票から6日の早朝までそのチャンスはないように思えた。しかし締切である6日午前9時の数分前にチャンスが訪れた。イシリアルロードが出走取消となり、リッチストライクに出走の道が開かれたのだ。

 リッチストライクは繰り上がりの出走馬として大外のゲートを確保した。過去17年間のダービーで大外から出走して優勝した馬は2008年のビッグブラウン1頭のみである。

 レオン騎手は前日のケンタッキーオークスデーにチャーチルダウンズで騎乗せず、普段もベルモントパークを拠点としている。そのせいか、大外出走に臆する騎乗ぶりではなかった。すぐにリッチストライクを後方につけてゆっくりと走らせ、最初のターンでは18番手を走り、内ラチとのあいだには2頭が通れるほどの幅しかなかった。

 レースはハイペースの展開となった。サマーイズトゥモローが日本馬クラウンプライドに追われながらも序盤で2ハロン21秒78、4ハロン45秒36と火花が散るようなタイムを刻んだ。そのときリッチストライクは後方でしっかり余力を残していた。

 6ハロン(約1200m)の地点までにペースが緩やかになり、メッシエーがクラウンプライドのわずかに前方を走るという形勢になっていた。しかし後方を走っていた馬が徐々に上がってきた。

 とりわけエピセンターやゼンダンが上位に進出してきていて、その集団を追いながらリッチストライクもライバルをかわし始めた。レオン騎手は最終コーナーで少し外を回り、直線では進路を内へと変えていった。

 それでもリッチストライクの存在はまだほとんど気づかれておらず、単勝5倍の1番人気馬エピセンターが注目を集めていた。いつもよりずっと抑えたペースで走っていたエピセンターは1マイルを1分36秒96で通過し主導権を握ったのである。ゼンダンがそのすぐ後につけていて、エピセンターとゼンダンの一騎打ちの勝負になるかと思われた。

 しかしリッチストライクはその時まさに自分のスタイルを掴んでいた。レオン騎手が直線半ばで垂れてきたメッシエーと蹄が接触しそうになるのをかろうじて回避すると、リッチストライクは先行勢に追いつき、残り100mを切ったところでエピセンターとらえ、¾馬身差の勝利を決めた。1¼マイル(約2000m 馬場:良)の走破タイムは2分02秒61だった。

 この日の騎乗がダービーのみだったレオン騎手はこう語った。「勝てるかどうか分かりませんでしたが、良い感触はありましたね。最後の直線まで待つしかありませんでしたのでそうしたのです。待っていたら内ラチ沿いにスペースができてきました。緊張などしませんでしたね。ワクワクしました。誰も私ほどこの馬のことを知らなかったのですから」。

 リッチストライクの勝利は、北米競馬史上最多勝トレーナーであるスティーヴ・アスムッセン調教師のダービー制覇を阻んだ。同調教師はダービーに24回挑んでいるが一度も勝てておらず、2着3回、3着2回である。

 アスムッセン調教師はレース後にパドックに続くトンネルでこう語った。「あらかじめ言っていたのですが、"近い将来ダービーを制覇できる"と言われても、それに同意するつもりはありません。"信じないぞ"という感じです」。

 エピセンターのレースぶりと、ジョエル・ロザリオ騎手が慎重な手綱さばきにより前半で8番手につけていたことに、彼は満足していた。そしてロザリオ騎手が直線でエピセンターを先頭に立たせてゼンダンをかわすために"望ましい"位置取りをしたことを指摘した。

 そしてアスムッセン調教師は「リッチストライクを見て、"嘘だろう。まさかあの馬が我々を負かすなんてことはないだろう"と思いました」と言い、リッチストライクと関係者を称賛した。

 「脱帽ですね。彼らがケンタッキーダービーに勝ったのです。すごい話ですね」。

 3着ゼンダンの2馬身後ろで入線したのはシンプリフィケーションである。さらに2馬身差で5着に入ったのは、スタートで出遅れたモードゴールだった。

 はじめの½マイル(約800m)で4番手までにつけていたどの馬も10着内に入れなかったことが、猛烈なスピードだったことを物語っている。

 今年のケンタッキーダービーには4戦以下の馬が7頭も出走し、経験が極めて浅いメンバーによる構成となっていた。その1頭、テイバは未勝利戦とサンタアニタダービー(G1)を制して2勝を挙げただけだった。

 テイバとサンタアニタダービー2着のメッシエーはティム・ヤクティーン調教師のもとでケンタッキーダービーに出走した。ダービー6勝トレーナー、ボブ・バファート調教師が業務停止処分を受ける少し前に、ヤクティーン調教師はこれらの馬を引き受けて春から調教を担当してきた。バファート氏の管理馬メディーナスピリットが昨年のダービーで禁止薬物の陽性反応を示し、最終的に失格となっていたのだ。

 テイバなどのダービー出走馬がセリでかなり高額で取引された一方で、リッチストライクは昨年9月に自身にとって2戦目となる未勝利クレーミング競走(チャーチルダウンズ)において3万ドル(約390万円)で譲渡された。

 リード調教師はリッチストライクの初期の調教を見てワクワクしていた。そしてデビュー戦(エリスパーク)となる芝レースでは潜在能力を発揮できていなかったのではないかと楽観的に考えていた。デビュー当時、この馬はジョー・シャープ調教師に管理され、オーナーブリーダーであるカルメットファームに所有されていた。

 そんなわけでリード調教師は譲渡を申し込み、リッチストライクがチャーチルダウンズのダートコースと相性の良さを示して17½馬身差の圧勝を決めるのを興奮しながら見ていた。そしてこの馬はリード厩舎に入厩することになった。

 リッチストライクはほかに勝利を挙げることなくケンタッキーダービーに臨んだ。ステークス競走で4戦したが2回3着に入ったのが最高で、直近では4月2日のジェフルビーステークス(G3 タペタ馬場 ターフウェイパーク)においてティズザボムに5¾馬身差で敗れていた。また、エピセンターはガンランナーS(12月26日 フェアグラウンズ)で14¼馬身もの差をつけてリッチストライクを負かしている。

 リード調教師は「競馬ですから、どの馬にも勝つチャンスはあるものなのです。そしてオッズには何の意味もありません」と述べた。

 カルメットファームはもはやリッチストライクの馬主ではなくなったが、ダービーには所有馬ハッピージャックが出走して14着となった。この馬はゲートに収まったものの、もう一度入れ直す必要があり、ダービーの発走をわずかに遅らせた。

 今年のケンタッキーダービー優勝馬はケンタッキー州産で、2005年にカナダの最優秀3歳牝馬になったゴールドストライク(父スマートストライク)の8頭の仔のうちの1頭である。ゴールドストライクは2013年ナタルマS(芝G2 ウッドバイン)を制したラナモン(Llanarmon 父スカイメサ)など勝馬4頭を送り出している(訳注:ラナモンは現在、社台コーポレーション白老ファームで繋養されている)。リッチストライクはゴールドストライクの最年少の仔である。

 総賞金300万ドル(約3億9,000万円)のケンタッキーダービーを制したリッチストライクは1着賞金186万ドル(約2億4,180万円)を獲得した。通算成績は8戦2勝(3着3回)、生涯獲得賞金は197万1,289ドル(約2億5,627万円)となった。

 同馬はカルメットファームにとってケンタッキーダービーを制した10頭目の生産馬となり記録を更新した(このうち8頭を同ファームが所有)。20世紀半ばから後半にかけてライト家が運営したカルメットファームは現在ブラッド・ケリー氏により所有され、種牡馬キーンアイスはここで供用されている。

 リッチストライクと同様に、その父キーンアイスも2015年トラヴァーズS(G1 サラトガ)において単勝17倍で三冠馬アメリカンファラオに打ち勝ち、記憶に残る番狂わせを演じている。
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By Byron King

(1ドル=約130円)

[bloodhorse.com 2022年5月7日「Rich Strike Stuns With 80-1 Kentucky Derby Upset」]


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