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2022年06月30日  - No.23 - 1

日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(3)[生産]


 ラヴズオンリーユーはディープインパクト産駒である。センセーショナルな種牡馬ディープインパクトの父は日本の血統に深い影響を与えたサンデーサイレンスだ。アーサー・ハンコック氏は、米国で輝かしい競走生活を終えた自家生産馬サンデーサイレンスのシンジケートを組むことに失敗した。その話は何度も語られてきた。しかし、1990年に吉田ファミリーが日本に輸入するためにサンデーサイレンスを即座に購買したのは先見の明があったからと言えるだろう。

 合田直弘氏はこう振り返る。「吉田善哉氏はフォンテンブローファーム(ケンタッキー州)を所有しており、当時は長男の照哉氏が経営していました。その牧場の隣にはクレイボーンファームがあり、照哉氏とアーサー氏(クレイボーンを所有するハンコック家の一員)は仲良くなりました。そのおかげで照哉氏はサンデーサイレンスを買うことができたのです」。

 サンデーサイレンスは1995年から死の5年後である2007年までリーディングサイアーに輝いたが、そのレガシー(遺産)は今後数十年にわたって続くだろう。傑出した種牡馬となった数々の産駒の中には、2021年に10年連続でリーディングサイアーに輝いたディープインパクトがいる。サンデーサイレンスはジャパンカップ優勝馬4頭を送り出し、その産駒はさらに8頭を送り出している。当分のあいだ、その流れが後戻りすることはないだろう。

 しかし、日本の生産界と他国の生産界のあいだにはもう1つ違いがある。「種牡馬・繁殖牝馬・ホースマンシップという3本の柱に加え、JRAの競馬番組の構成も重要な要素なのです」とハリー・スウィーニィ氏は言う。

 「G1競走は年間26レースしかなく、優秀な3歳牡馬がいる場合、9月までに出走できるのは現実的に3レースしかありません。皐月賞(2000m)、NHKマイルカップ(1600m)、東京優駿(日本ダービー 2400m)です」。

 「だからそれらのレースに出走させなければならないのです。うまく避けて通ることはできません。G1競走からこっそり逃れることなどできないのです。それに古馬のレースには、いつも6~7頭、ときにはそれ以上のG1馬が出走します。競馬番組の構成は全体的に、どの馬が最強であるかを見極めることを前提にしているのです」。

 「最強とされた競走馬と成功する種牡馬のあいだには関連性があると思います。最強の3歳馬でも引退して種牡馬入りするのはごくわずかなので、何度も実力を証明しなければならないのです。レース前にはパドックで30分も歩かなければならず、馬は対応しなければなりません。発走ゲートにも一律に厳密な順序で入ります」。

 「だから日本の競馬ではあらゆる面で"選別"が行われています。そして4歳シーズンの終わりにはヒエラルキーを絶対的に確信できるのです」。

 このところ日本馬が海外で快挙を達成しているのは新しい現象のように思えるが、スウィーニィ氏はいつもの状態の延長線上にあると強調した。「日本馬が海外で最高の成績を収めたのは実は2019年で、海外のG1で8勝を果たしています」。

2019年 日本馬による海外G1・8勝

・ アーモンドアイ...ドバイターフ

・ ウインブライト...エリザベス2世S、香港カップ

・ ディアドラ...ナッソーS

・ メールドグラース...コーフィールドカップ

・ リスグラシュー...コックスプレート

・ グローリーヴェイズ...香港ヴァーズ

・ アドマイヤマーズ...香港マイル

 これから起こる事の前触れかのように、これら7頭すべての馬名の後ろには日本産馬であることを示す「(JPN)」が付けられていた。合田氏はこのストーリーの展開をすべて目の当たりにしてきており、勇気を感じている。

 「多くの若手調教師が海外に挑戦するための勉強をしています。それにドバイ・香港・サウジアラビアなどに馬を出走させるチャンスはたくさんあります」。

 「将来的には、英国・アイルランド・フランスに馬を送り込む関係者も増えてくることでしょう。日本にとってこれはほんの始まりに過ぎないかもしれません」。

新天地でのダーレーの日の出

 ダーレー・ジャパンは日出ずる国で名を轟かせている。北海道に1,300エーカー(約526ha)の牧場があり、年間80頭~90頭を生産している。毎年100頭ほど競走馬として厩舎に送り込み、まずまずの種牡馬を10頭ほど供用している。

 ダーレー・ジャパンの代表取締役であるハリー・スウィーニィ氏で32年前から日本に滞在し、6年前から現職に就いている。日本の生産界が繁栄するのを目の当たりにしてきており、モハメド殿下の見解にしたがってダーレー・ジャパンの存在感をさらに高めようと計画している。

 「日本の高額な賞金体系のおかげで、私たちは収益性の高い競馬事業体であり生産事業体でもあります。欧州とはまったく違う環境です。年間90勝~100勝は挙げたいですね。そうすればモハメド殿下は日本で最大の個人馬主になります。しかしサンデーレーシングや社台レースホースなどの巨大な競馬シンジケートがあるために、馬主ランキングで首位に立ったことはありません。これらのシンジケートは社台グループに支えられていて1万5,000人もの会員がいます」。

 「また年間2,500万ドル(約33億7,500万円)ほどの賞金を獲得したいと考えています。かなりの額のように思われるでしょうが、正直なところもっと上を目指せるでしょう。控えめなスタートを切りましたが、厩舎に預ける馬の質を上げる必要があり、頭数を増やすことも考えています」。

 「社台は圧倒的な勢力を誇りプロ意識が高いので、私たちにはより質の高い馬が必要です。欧米のダーレーには実績のある種牡馬がおり、一部を日本に連れて来て供用すべきです。ストリートセンスとハードスパンを1シーズンだけ日本に連れてきて成功したので、同じようなことをやってみたいと考えています」。

 日本の生産界と同様に、ダーレー・ジャパンは我慢強く同じステップで前進してきた。

 スウィーニィ氏は、「市場に少しずつ入っていったことで控えめなスタートを切ることができました。日本が海外で達成したことを私たちは日本で実現したいと思います。最近の活躍が理由で話題になっていますが、日本馬はすでに以前からその分野で成功しています。いかにも一朝一夕で成し遂げられることではありません」と語った。

By Julian Muscat

(1ドル=約135円)

 (関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.21「日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(1)」、No.22「日本はいかにして競馬大国になったのか(日本)(2)

[Racing Post 2022年6月8日「'It was shocking' - how Japan turned it around to become a superpower in racing」]


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