競馬界での王室の役割を引き継ぐのはカミラ王妃か?(イギリス)[その他]
9月8日(木)のエリザベス女王の崩御からの数日間、競馬界は当然のことながら亡くなられた女王を追悼してきた。女王について、また馬と競馬に対するその疑いようのない情熱について、多くの人々が微笑ましいことを言わずにいられなかったのだ。
9月6日(火)にラブアフェアーズがグッドウッドで勝利を収め、クライヴ・コックス調教師はエリザベス女王の最後の勝馬を手掛けた調教師となった。彼の言葉は感動的で、とりわけ女王と知り合うことも話したこともない多くの人々の心に響くものだった。
「女王は人々が思っているとおりの方で、とても話しやすい素晴らしい方でした。こちらが話していることすべてに注意を払われました。とりわけ馬に関しては」とコックス調教師は本紙(レーシングポスト紙)のジェームズ・バーン氏に語った。
そのとおりだろう。競馬ファンとしては女王について思い出せる印象はとても正確なものだと思うが、人々は女王と馬について話したならば夢中になってしまうのだ。だから女王の死を悼む中で、とても長いあいだ女王が私たちの味方でいてくださったことがどれだけ幸運だったかを考えなければならない。
このような女王が競馬界で果たした役割を思い起こして感謝する一方で、近い将来いつか、女王が所有した現役競走馬や繁殖牝馬がどうなるのかについて決断が下され、それが伝えられなければならないだろう。それらの馬はかなりの頭数である。
一層重要なのは、王室の誰かが女王の情熱を引き継いで自らのものにすることを申し出てくれるのを、競馬産業が待ち望んでいるということだ。
チャールズ国王は毎日レーシングポスト紙を熟読するという母親の習慣を踏襲しないだろう。デイリーメール紙の王室特派員によれば、この習慣はこの夏もずっと続けられていたようだ。女王の最も忠実なスタッフの2人がバルモラル城での最後の数週間をどのように過ごしたかについて、「毎日レーシングポスト紙をお持ちし、一緒に座ってテレビで女王が大好きな競馬を見ていた」というものだったと同紙は書いている。
ご存じのように、チャールズ国王は若いころにアマチュアレースで騎乗しており、ここ10年ほどは自身の赤・青・黒の勝負服で何頭かをレースに出走させてきた。しかし過去10年間に女王が毎年100頭以上を出走させてきたのに対し、新たな国王は2桁に達しないほどの頭数に過ぎない。
次に何が起こるかを知るための最も良い手がかりは、ジョン・ウォレン氏の言葉である。女王の競馬・生産アドバイザーであるウォレン氏は、昨年夏のロイヤルアスコット開催のBBCラジオ4のインタビューで、当時コーンウォール公爵夫人だった現在のカミラ王妃が競馬に"夢中である"と語っていた。一方、チャールズ国王も競馬をご覧になってきたが、"母親の関心事であるため立ち入らないようにしておく "というお考えのようだ。
カミラ王妃はまた、ITVレーシングの オリー・ベル氏と競馬への関心について話している。それと同時に、女王の逝去後により移行しやすくするように王室の競馬事業環境に関するいくつかの微調整が行われてきたようだ。
まず、カミラ王妃は昨年、自身のブラウン・赤・黄の勝負服をエボニーホースクラブに譲った。これにより、王妃は王室の勝負服を自由に引き継げる立場になった(チャールズ国王は自身の勝負服で馬を出走させて続けている)。またアンドリュー・ボールディング厩舎にいる2歳牝馬バリア(Barrier)は、女王の自家生産馬であるにもかかわらずロイヤルスタッドの生産馬として記載されている。
これらの微調整は競馬界での王室の役割をカミラ王妃が引き継ぐことをいっそう容易にするはずだ。また、競馬観戦や競走馬生産を続けることを伝統のために維持しなければならない退屈な仕事ではなく喜びや楽しみとしてとらえているのは、まさにカミラ王妃であるように思われる。
もちろん王室のサラブレッドを受け継ぐのは王妃ではなく国王である。このことにより、国王と王妃のパートナーシップで馬を出走させるのか、それとも王妃が引き継ぐという公式発表があるのかという疑問が投げかけられる。
カミラ王妃が競馬界での王室の役割を引き継ぐとすれば、監督しなければならないことが山ほどある。エリザベス女王は近年競馬への関与を深められていた。ニッキー・ヘンダーソン調教師が説明するところよると、女王は今年も障害競走馬を生産されていた。
エリザベス女王は昨年、36勝を挙げられ、賞金58万4,399ポンド(約9,643万円)を獲得され、最も成功した年を送られた。今年は10人の調教師が平地・障害を問わず39頭を出走させ21勝を挙げている。中でも5月のテンプルS(G2)でのキングズリン(King's Lynn)の勝利が最も注目された。
女王の跡を継ぐ者にとってこれは決して小さい仕事ではない。それゆえ、今後数年のうちにどのようなものであれ王室の馬事業のスリム化が行われたとしても何ら驚くことではない。
競馬界にとって不確実な時代に入りつつある。そのような中で女王は長きにわたって競馬界の利益を促進し、人々を競馬界に引きつけられてきた。あるいは競馬というものに寛容に接してくださった。願わくは、競馬界が心強い回答を聞くのにそれほど長く待たないことを期待したい。
By Peter Scargill
(1ポンド=約165円)