アルピニスタ、凱旋門賞優勝で次の目標としてジャパンカップも視野に(フランス)[その他]
10月2日(日)凱旋門賞(G1 ロンシャン)
サー・マーク・プレスコット調教師は半世紀以上ものあいだ、何かをこっそり温存するやり方をするという評判を築いてきた。そして第101回凱旋門賞(G1)で最後にとっておいた大仕事とは何だったのかを明らかにしたのかもしれない。アルピニスタがルーク・モリス騎手を背に、ロンシャンのぬかるんだ芝を流れるように駆け抜け大勝利を収めたのだ。
しかしアルピニスタのこの総賞金500万ユーロ(約7億2,500万円)の欧州最高峰レースでの½馬身差の決定的勝利が、本当に最後にとっておいた大仕事ということになるかどうかはいまだに分からない。まだ検討すべき海外のビッグレースが残っているのだ。
とはいえ、能力の高い芦毛の牝馬はライバルたちがもがき苦しむ中で過酷なコンディションをものともせず、単勝3.5倍の上位人気馬に支持されてきた期待にこたえるパフォーマンスを発揮した。
プレスコット調教師のレースプランのおかげでG1・5連勝中だったカーステン・ラウジング氏の自家生産馬アルピニスタは、すでに能力の限界に達しているのではないかと心配されていた。しかし、まったくそうではなかった。
モリス騎手は慎重な手綱さばきで、先行勢後方の内ラチ沿いのポジションにアルピニスタを待機させ、残り2ハロンの地点で抜け出すためにタイトルホルダーとブルームのあいだに割って入らせた。そしてアルピニスタは落ちついた様子で自らの卓越性を見せつけた。猛烈な追い込みで数完歩のうちに決着をつけたのだ。ヴァデニは2着、昨年の優勝馬トルカータータッソは3着に健闘したが、アルピニスタにはまったく歯が立たなかった。
プレスコット調教師が長期のレースプランを実行する傾向があるのはよく知られたことだが、ヒースハウスの名伯楽でさえここでは新しい境地に達した。キャリアを決定づけたこの瞬間は生涯をかけて作り上げたものだった。彼に唯一心残りがあるとすれば、その過程でハンデキャッパーをだますことができなかったことかもしれない。
競馬界で最も尊敬されるおしゃべり上手、プレスコット調教師はこう振り返った。「ラウジングさんのために35年間調教してきました。アルピニスタの母と祖母も管理したのですよ。それにルークとは11年も前から一緒に働いています。調教生活においてこれほど素晴らしい日を迎えられるとは想像できませんでした」。
アルピニスタは昨年ドイツでG1・3連勝を達成したのに加え、サンクルー大賞(G1)とヨークシャーオークス(G1)を制して凱旋門賞に臨んだ。
プレスコット調教師は、アルピニスタがシーズン末のこの一戦で頂点に立つほど進化しているかどうかについて心配していたかと聞かれてこう語った。「彼女に伸びしろがないと思う理由はありませんでした。ただ人間の本性というものはそういうもので、本当にそうなのか怪しんでいましたね。この2年間、出走するたびに成長してきましたし、毎回進歩しなければならなかったのだと思います」。
「ただただ素晴らしい道のりでした。キャリアのこのような段階で良い馬に出会えるのは幸運なことです」。
プレスコット調教師が競馬界で典型的なおしゃべり上手で通ってきたこともあり、この勝利はロンシャンで温かく歓迎されたと言える。アルピニスタがモリス騎手を背にウィナーズサークルに戻ってきたとき、英国とアイルランドから来た大群衆はこの結果を大歓声で称賛し続けた。
これは2018年のエネイブル以来となる英国調教馬による凱旋門賞制覇であり、5歳牝馬としては1937年のコリーダ以来2頭目となった。
しかしアルピニスタは2010年以来、凱旋門賞で優勝した6頭目の牝馬である。トレヴとエネイブルがそれぞれ2勝したことにより、過去12回のうち8回は牝馬が制覇したことになる。
また74歳のプレスコット調教師はこの勝利により、輝かしいキャリアをさらに長く続けられるかもしれないと語った。愛嬌たっぷりなことに、彼が最初に思いを寄せたのは、長年の調教助手であるウィリアム・バトラー氏に対してであった。
そして、「かわいそうに。ウィリアムはこの勝利を複雑な思いで受け止めているでしょうね。おそらくこの勝利で私はもう少し長くよろよろとキャリアを続けることになるでしょうから」とジョークを飛ばした。
ラウジング氏はアルピニスタが引退して牧場に戻る前の最後の一戦として、ブリーダーズカップ開催とジャパンカップ(G1)を検討するだろうと示唆した。プレスコット調教師はラウジング氏から説得されて21年ぶりにロンシャンに遠征したのだろうが、日本への遠征が実現しそうになれば正反対になるかもしれない。
プレスコット調教師は「ラウジングさんの観察眼は、幸運にもジャパンカップで勝てば賞金に上乗せされる300万ドル(約4億3,500万円)のボーナスを狙っていることでしょう」と指摘し、そのような大きな収入を期待すると心臓がどきどきするとジョークを言った。
「アルボラーダで挑戦しようとしたときの話です。いつも言っているのですが、アルボラーダが調教中に跛行を発症したとラウジングさんに電話したとき、彼女は旅支度をしていました。彼女はその知らせを聞いて、"2番目に良いニュースですね"という不朽の名言を放ちました。そういうことで、彼女は旅をとりやめました。たぶん私と同じように、今度は彼女も説得されるかもしれません。しかしどうでしょう。私が言うことではありませんね」。
それはまた別の機会にでも。ラウジング氏も自分のこれからのことよりも、アルピニスタが連勝を8に伸ばしたことで、40年近いランウェイズスタッドでの努力が輝かしく結実したこの瞬間を味わいたいと思っている。
ラウジング氏はこう語った。「アルピニスタは6代目の自家生産馬なのです。ランウェイズスタッド・セントサイモンスタッド・スタッフォーズタウンスタッドの素晴らしいチームなしではこのような結果を残すことはできませんでした」。
「もちろん大喜びで感激しています。この素晴らしい牝馬を作り上げてくれたサー・マークと、この馬が重賞を勝つときにいつもコンビを組んできたルーク・モリスに大変感謝しています。ルークは今日、素晴らしい騎乗をしてくれました」。
モリス騎手はまったく出しゃばることのない人物である。2010年のアベイドロンシャン賞(G1)をギルトエッジガールで制し、それが大躍進のきっかけとなった。彼はそれ以来ある程度活躍してきたが、平地競走の主役級の騎手とは言いがたく、この壮大な勝利は彼にとってG1・9勝目に過ぎなかった。
モリス騎手はレース後にこう語った。「キャリアの頂点に違いありません。このような機会を与えてくださったラウジングさんとサー・マークへの感謝の気持ちはどれほど言葉をつくしても伝えようがありません。この日に快挙を成し遂げられるのはまさに特別なことなのです。涙があふれることなどあまりないのですが、今日はそれをこらえなければなりませんでした」。
いつもどおり、発走時刻の10分ほど前からロンシャンは土砂降りとなった。それは凱旋門賞の真髄である労苦を生み出し、ルクセンブルク・ウエストオーバー・ミシュリフなど多くの出走馬が何の挑戦もできなかった。秋のうす暗闇にもかかわらず、モリス騎手が落ち着き払いアルピニスタを導き、延々と続く最後の直線に入っていくのが見えた。
モリス騎手はこう語った。「アルピニスタは私をレースに引き込んでいきました。残り1ハロンのあたりまでゆったりと乗ることができたのです。この1週間ほどで過去25回の凱旋門賞を見ました。しかし残り1ハロンまで余裕で構えているような騎乗はありませんでした。彼女はまったく特別なのです。騎乗するたびに驚かされます。走るたびに彼女は良くなっていくのです」。
仮説はここで華々しく証明された。見事なスタイルで任務は遂行された。
By Richard Forristal
(1ユーロ=約145円、1ドル=約145円)
(関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.24「アルピニスタ、サンクルー大賞を制してG1・4連勝(フランス)」
[Racing Post 2022年10月2日「'It's been marvellous' - Prescott's finest hour as awesome Alpinista lands Arc」]