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2022年11月17日  - No.43 - 3

フライトラインの所有権の超高額落札は生産界を悪い方向に導くか?(国際)[生産]


 競馬界は時に手に負えないことがある。それは誰もが納得できる主張だと思われるが、具体例として、種牡馬としてのフライトラインにつけられた驚異的な価値について考えてみたい。

 めったにないことだが、11月7日(月)にBCクラシック(G1)優勝馬の所有権の2.5%がキーンランドのセリに上場された。5日(土)の夜にライバルたちを火あぶりにした地点から100ヤード(約90m)ほどの場所でのことだ。そのシェアは匿名の購買者により460万ドル(約6億4,400万円)で落札され、フライトライン全体の評価額が1億8,400万ドル(約257億6,000万円)にのぼるのではないかということが示唆された。

 これによりフライトラインは破格の評価額を誇るグループに仲間入りした。ほかのメディアが最近推定したところによると、フライトラインは今やヒュー・ジャックマン(豪州出身の俳優・映画プロデューサー)とほぼ同じ価値があり、アリアナ・グランデ(米国の歌手・ソングライター)と同等になるにはまだ数馬身の差があるようだ。

 2016年におよそ1億8,000万ドル(約252億円)で落札されたレンブラントの結婚式の全身肖像画2枚とフライトラインを交換することもできるだろう。もしくは、オランダの巨匠よりも人々の健康に興味があるならば、同等の価格でMRIスキャナーを150台ほど入手できるだろう。

 もちろんメールでご指摘をもらう前に、実際にフライトラインを販売したとしても1億8,400万ドル(約257億6,000万円)など手に入らないことは分かっている。11月7日(月)のフライトラインのシェアをめぐる競り合いは、どんな程度だろうと最近誕生したチャンピオンの共有持分が上場されることがめったにないという認識によって白熱した。

 あの大胆な落札を誰がしたのであろうと利益をもたらす手段があるとは思えないが、彼らは今や数頭の牝馬をこの偉大な馬で種付けできるのは確かだし、ディナーパーティーで友人たちに"単勝1倍台でBCクラシックを制した馬を少し所有しているのだ"と話すのは楽しいことだろう。裕福な人々はまだディナーパーティーで自慢話をしているのだろうか?それともそれは新型コロナウイルスのせいで我々庶民がやらなくなったことの1つなのだろうか?その回答をいつものメアドに送信するように、秘書に言ってください。

 いずれにせよ、ここ英国でも偉大な競走馬が種牡馬として同様の成功を収めることを期待している(願っている?)。アルピニスタ・ウエストオーバー・インスパイラル・シャルディーン・ナシュワなどを送り出すという今年の実績のおかげで、種付料が20万ポンド(約3,300万円)から27万5,000ポンド(約4,538万円)に引き上げられるフランケルの例を見ることほど、勇気づけられることはないだろう。

 フランケルについては、馬主がスポーツマン精神に則って予想よりも1年長く現役を続けさせたことで英国の競馬ファンは幸運だった。馬主のカリド・アブドゥラ殿下は、優秀な馬が5年後に優良産駒を数頭出す可能性よりも、走れるときに走ることのほうがずっと人々の心をつかむのだという境地に達していたのだ。英国の競馬ファンは、19ヵ月の競走生活全体で6戦しかしなかったフライトラインに物足りなさを感じた。

 2歳の2月に馬房のかんぬきが思いがけず体の一部に突き刺さり全治90日ともいわれる怪我を負ったという事実で彼を責めるのは、かわいそうかもしれない。しかしたとえそれを考慮に入れたとしても、フライトラインは驚くほど軽くしか走らなかったのである。レース間隔が60日以内だったことは一度もない。

 今ではフライトラインを引退させることを決めた関係者を責めるつもりはない。彼ほどの能力を持つ馬が5歳になっても現役を続けることはほとんどないだろうし、保険の観点では悪夢となった。確かにどのレースに出ても注目度を高める馬ではあるが、その分レースは白熱したものにならない。個人的には、一年を通して最も楽しみにされ相当な馬券売上げを誇るようなレースで、単勝1.1倍を連発されるのはやめてほしいものである。

 しかし、種牡馬の強靭性や持続力といった資質が重要視されることはないのだろうか?

 昔よりもエース級の馬が出走するのを見ることが少なくなったという不平は言われ続けているが、それは一般の人々の支持を失わせるものに違いない。

 生産界は優秀さだけでなく頑健さも得ようとすべきだろう。競馬シーズンの真っただ中に毎月出走できるような馬を作ろうとすることは、達成感を得るためだけのものではない。なぜなら競馬界はそれを渇望しており、それがなければ苦境に立たされるからである。

 それを念頭に置くと、フライトラインのようにあまり出走しなかった馬を引退させる場合にはそれなりの代償をともなうようにすべきだ。血統専門家は彼の将来性を評価するように頼まれた際に、ほとんど彼の姿を見たことがなかったことについて感傷的に話すのではなく、もっと注意を促すべきだろう。「そのことで生産者の経営に支障を来すことがあるかもしれない」という一言を私は聞きたかったのだ。

 もちろん、そうなればいいと思って言っているわけではない。見たところ、フライトラインの馬主は彼の種付けを求める人々が殺到してひっくり返りそうなほどだ。その結果、有能な競走馬を手に入れることになる人もいるだろうが、ある程度の慎み深さと責任があったほうが競馬のためになるのではなかろうか。

By Chris Cook

(1ドル=約140円、1ポンド=約165円)

(関連記事)海外競馬ニュース 2022年No.42「フライトラインの所有権の2.5%、460万ドルで落札(アメリカ)

[Racing Post 2022年11月10日「Ludicrous value placed on Flightline shows where breeding goes wrong」]


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