全米ホースメン共済協会、HISAへの懸念について語る(アメリカ)[開催・運営]
3月2日(水)、オークローンパークホテル(アーカンソー州ホットスプリングス)で全米ホースメン共済協会(National Horsemen's Benevolent and Protective Association:NHBPA)の総会が開催された。競馬の公正確保と安全に関する統括機関(Horseracing Integrity and Safety Authority:HISA)についてのパネルディスカッションで、NHBPAのCEOエリック・ハメルバック氏は、競馬の安全・薬物検査・アンチドーピングを全米レベルで監視する任務を遂行するHISAに対する懸念を説明した。
このテーマは、開会日の2番目の討論会で取り上げられた。討論会は3月4日(金)まで続き、5日(土)には理事会が予定されている。
NHBPAと州ごとのホースメン共済協会の多くは、HISAに対して連邦裁判所(テキサス州北部地区)に訴えを起こしている。NHBPAは競馬を支援するための連邦法には必ずしも反対しているわけではなく、連邦取引委員会のもとで運営されるHISAの合法性について懸念があるのだと、ハメルバック氏は2日(水)に述べた。
「合法なのか違法なのか?私は最初から、科学に基づいた全米のルール統一化については何の問題もなく、ホースメン共済会の誰も問題にしていないと主張してきました。ただ違法なものに問題があるか?と言われれば、もちろんあるに決まっています。何はともあれ、この訴訟の目的はその点を人々に理解してもらうことです」。
「ただひたすらこれが合法なのか違法なのか見極めようと思います。もしHISAが突然担当することになり、現在産業内で起きているような不祥事があったとします。そして不祥事を起こした者たちが非常に有能な弁護士を雇ってHISAが違憲もしくは違法であることを証明したら、その時点で彼らは無罪放免となってしまうでしょう。このためHISAが合法であることを確認するため、私たちはホースマンの代表として現時点で法的に相応の精査をしておく必要があるのです」。
北米競馬場獣医師協会を代表してホースメン共済会の訴訟を支持する意見書を裁判所に提出したピート・サコプロス弁護士は、2日(水)の討論会でこの法律に関する4つの法的懸念を説明した。
サコプロス氏は、まず議会が民間団体に法律を制定させてはならないという大原則があり、またHISAのメンバーがどのように任命されたかについても懸念があると付け加えた。また、連邦政府が州運営団体の任務に干渉したりそれらを横取りしたりすることを防ぐルールもあると述べた。
サコプロス氏が説明した4つ目の懸念は、デュープロセス(法の適正手続き)である。現在裁決委員の裁定に対する不服申し立ては、規制レベルでは審問審判官や競馬委員会全体に行き、法的な不服申し立てが行われる場合は州の巡回裁判所に行くのが一般的だと指摘した。HISAのもとでは不服申し立ては連邦レベルで受理され、規制側と裁判所側で審理されることになるという。そして、これはより費用の掛かるプロセスであり、不服申し立ての審理のために長い出張が必要になるかもしれないと述べた。
サコプロス氏はHISAがデュープロセスの基準を満たしていない理由と考えるものについて語った。「その不服申し立て手続きは競馬参加者にとって、非常に異なったものになるでしょう。これまでのものからかけ離れたメジャーリーグクラスのものになるので、皆さんもこの点はよく理解しなければなりません。なぜなら、デュープロセスとは有意義な時間に有意義な方法で審問を受ける権利であるのに、ほとんどの人にとっておよそ支払えないような費用面での障壁を生み出すからです。原告の立場からすると、これは問題です」。
もちろんHISAはその設立が合憲であることを法廷で主張している。HISAの支持者は、HISAは合法であり、連邦取引委員会の審査を受けるのでルール制定も可能であり、連邦取引委員会もルール違反への制裁に対する不服申し立てを審理できると論じてきた。
HISAの支持者は2月にテキサスで行われた審問で、「HISAは業界関係者に競争相手を規制する権限を与えるので、デュープロセスの要件に違反する」という主張は、「憶測のありそうもない明らかでもない事を並べ立てているにすぎず、(原告は)何も証拠を示していない」と述べている。
2日(水)の討論会には北中米競馬委員会協会(ARCI)のエド・マーティン理事長も参加してHISAのプロセスの透明性に懸念を示し、各州の競馬統括機関とのコミュニケーションの欠如が大きな不確実性を生んでいると述べた。ARCIはモデルルールを承認し、メンバーである州の競馬統括機関にその採用を促す統括組織である。
マーティン氏は「各州が現在求めている最も重要なことは確実性です」と述べ、州ごとに予算を組んで新たな責任を理解する必要があると指摘した。HISAは7月1日に競馬の安全性の問題を監視し始める予定だが、薬物検査とアンチドーピングの監視開始日は2023年初旬まで延期している。マーティン氏は、この不確かなタイミングは混乱を招く可能性があるとしながらも、各州の競馬統括機関は円滑な移行を維持するために最善を尽くすだろうと述べた。そして「私たちとしては混乱を避けるために協力的な態度で臨みます」と付言した。
サコプロス氏は、テキサスの訴訟がどのような成り行きになろうとも控訴はありそうだと推測した。そして、控訴されて裁判所が決定を下すまでのあいだ、少なくとも控訴審で論争となる部分については、HISAの活動開始に遅れが出るだろうと予想する。
ハメルバック氏は、それが現実になればさらなる議論のきっかけがもたらされるだろうと考える。
「個人的な希望なのですが、判決が出ることによって、誰もが自らがやろうとしていることをもう一度考えてみるようになることを期待しています。私たちは皆、同じものを求めています。それは、馬の安全性、誠実なレース、そして健全なスポーツです」。
この日の最初の討論会では、オークローンパーク競馬場の経理担当者であるテリ・ホフロッジ氏とルイジアナ州ホースメン共済協会の経理担当者であるクリスティー・ピグリア氏が、馬主・調教師・騎手に対して、小切手ではなくACH取引(自動決済)に移行するよう勧めた。この直接入金タイプの取引はセキュリティを向上させ、競馬場から競馬場へ移動する騎手にとって特にスピーディーな支払いを可能にするという。
ホフロッジ氏は「良い方法だと思います」と述べ、ほとんどの競馬参加者が移行を済ませたと付け加えた。そして、「多くの馬主・調教師・騎手にACH取引を利用してもらうように促しました。銀行に直接送金すれば、翌日には入金されます。小切手の枚数もかなり少なくなりました。この方法のほうがずっと安全だと思います」と語った。
またホフロッジ氏はオークローンに来るホースマンたちは町に利用している銀行がないかもしれないと述べた。そして、ACH入金を使えば郊外の銀行にも簡単にお金が行くようになるという。小切手もまだ切られていて、それを希望するホースマンもいるが、盗難や紛失の可能性の高い支払方法である。またACHは入金記録を作成し、ホースマンはそれをスキャンすることで問題や不正を明らかにできると、彼女は述べた。
総会の参加者の1人は、自ら拠点とする競馬場ではACH入金ができないことを指摘した。ピグリア氏は、経理担当者はACH入金をできるようにするために金融機関と連携すべきだと述べ、通常それは簡単にできると指摘した。
By Frank Angst
[bloodhorse.com 2022年3月2日「At Conference, Horsemen Outline Concerns With HISA」]