ハニーサックル、メアズハードルを制して輝かしいキャリアに終止符(イギリス)[その他]
3月15日(火)チェルトナムフェスティバル初日:メアズハードル(G1)
最初はキング、次にクイーン。障害競走の宮殿でのうっとりするような午後に、ハニーサックル(牝9歳)は感涙の勝利を挙げ、輝かしいキャリアに幕を降ろした。それはコンスティテューションヒルのチャンピオンハードル(G1)での驚異的なパフォーマンスのあとに求められたアンコールに、ありったけの力で応えるようなものだった。
フィクションでしか起こりえないような一日だった。ハニーサックルは一世代に一度しか現われないおとぎ話のようなものだ。最終章も悪くなかったですよね?
ハニーサックルはもう無敗ではないかもしれない。しかしチェルトナムフェスティバルにかぎれば無敗のままであり、このフェスティバルでの4勝目はあらゆる理由によりこれまでで最も甘美なものだった。
ヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師とヘザー夫人、そしてジョージアとミアという素晴らしい子どもたち。彼らにはこんな日がふさわしい。このスポーツに関わることが誇らしくなるようなシーンで、競馬界は彼らを両手で包み込み、想像を絶するような温かいハグを贈った。ジャックは、まわりを和ませるようなあの笑顔で見下ろしていたにちがいない。きっとそのはずだ。
レース後に感動していた優勝トレーナーはこう語った。「普通ではありえないおとぎ話のようなハッピーエンドですね」。
「本当に信じられません。ハニーサックル、レイチェル、ケニーにとって素晴らしい結果になって、私も嬉しいです。おとぎ話のようなハッピーエンドを夢見ることはあっても、実現することはほとんどありませんね。ハニーサックルはこんな結末にぴったりの馬です。すごい牝馬で、私は感動しています」。
「ジャックのこともあり、悲しい1年でした。でも、皆さんがくださったサポートは素晴らしいものでした。あらゆることに本当に感謝しています。つらい時期だったのです。このようなことが起こるのを夢見るものですが、実現しないことのほうが多いのです」。
「誰もが望んでいた結果だと思いますが、実現するとは夢にも思っていなかったでしょう。ハニーサックルがいてくれて本当にラッキーでした」。
さらにもう一度、馬券購入者の揺るぎない信念がオッズに表れた。ハニーサックルのオッズは3月13日(月)の夜に5倍(4-1)だったが、発走時には3.25倍(9-4)まで落ち込み1番人気となっていた。誰かは知っていたのだ。
レジェンドとなっているハニーサックルは序盤から自信に満ち溢れており、レイチェル・ブラックモア騎手に手綱を取られ、やっきになってレースを進めた。すべてが順調だったが、終盤にかけて苦しい状況に陥りぎこちなかった。ラブエンヴォイにはチャンスが与えられたが、またもや最後の数完歩でそのチャンスは潰えてしまい、ハニーサックルが駆け込んで1½馬身差をつけて優勝した。
ド・ブロムヘッド調教師は、「チャンピオンハードルに出走したコンスティテューションヒルがすごいパフォーマンスをしたのを目の当たりにして、私たちは正しいレースを選んで良かったなぁと思っています。ラブエンヴォイは最後の障害を飛越してからそのままハニーサックルを引き離すのかと思ったのですが、ハニーサックルは負けるときのことをほとんど知らないので、台本を読んだのかもしれませんね」と語った。
彼女はたしかに台本を読んでいましたよ、ヘンリー。一語一語ていねいに。セリフは1つも飛ばさなかった。どの競馬ファンも望んだ結果であり、私もそうだが、ほかの馬の馬券を買った競馬ファンも同様だった。
馬主のケニー・アレクサンダー氏はレース後に、今年のチェルトナムフェスティバルには期待よりも希望を抱いて出かけたと語っている。
優勝馬主はこう言った。「ヘンリーとその家族がこの勝利を噛み締めるのを見るのは本当に素晴らしいことです。今回は何よりも希望を持ってチェルトナムにやって来ました」。
彼はハニーサックルを(馬券で)支持したのだろうか?
アレクサンダー氏は「もちろんですとも」と答えこう語った。「昨夜オッズが5倍まで上がったのです。とんでもないと思いましたね。当然彼女を支持していたのですが、あそこで大はしゃぎしたのはそれが主な理由ではないのです。彼女を支持することとはまったく関係なかったのです」。
「去年彼女が勝ったチャンピオンハードルは素晴らしいものでした。メアズハードルを初めて勝ったのも嬉しいことです。でもこの勝利に勝るものはありません」。
「彼女がこれまでで最強のハードラーであると言ったことはありませんし、けっしてそうではありません。おそらくこのレースの前に走った馬がそうなのでしょう。でも、彼女が最も勇気あるハードラーの1頭であることは間違いありません。それに最も愛されたハードラーの1頭でもあります。周りの人たちが彼女をどう思っているのか見てみてください。そしてアイルランドの人々もです。アイルランドでも彼女はすごく愛されています」。
「アイリッシュチャンピオンハードル(G1 レパーズタウン)での敗北のあとに引退を迫って来る人もいましたが、実はヘンリーは違いました。私は"引退について早急に決断するのはやめよう"とだけ言いました。チャンピオンハードルで勝てるような気配はありませんでしたし、今でも以前ほど好調という訳ではないのです。だけど、彼女はまだそれなりのレベルで走っていますし、メアズハードルで勝てると思っていたのです。だから私たちは、"挑戦してみよう。やってみよう"と言ったのです。そして、"負けたとしても、それはそれでいいんだ"とも。実際、今日は今シーズンの最初の2戦と同じようなレベルの走りをしたと思いますし、それで十分だったのです」。
"彼女にとってこれが間違いなくラストランだったのか?"と聞かれて、アレクサンダー氏はこう答えた。「ええ、これでおしまいです。立派なかたちのお別れです。パンチェスタウンに行って、馬券でもう一度もうけようとは思わないようにしてくださいね。彼女は最高の状態で旅立ち、これに勝るものはありません」。
「私の競馬人生で最高の日です。100万%最高の日です。妻も来てくれましたし、友人もたくさんいます。これまでで最高の一日です」。
ラブエンヴォイも今回立派に貢献した。この馬の活躍も忘れてはならない。
ハリー・フライ調教師は、「2頭とも全力で走っていました。現実離れした物語が書かれることはあるものです。それはハニーサックルの物語です。ここは特別な場所であり、私たちは特別なレースに関わることができました。全力で挑戦しましたが、勝馬には脱帽するしかありませんね」と語った。
ラブエンヴォイはレジェンドには敗れたが、それを恥じることはない。この物語は運命を支配する力によって書かれたのだ。記憶に残るチェルトナムフェスティバルの一日を過ごすために、星のめぐり合わせがもたらしたのだ。
奥深いスポーツだ。
By David Jennings
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