エースインパクト、ビッグロックを破って仏ダービー制覇(フランス)[その他]
競馬のトップレベルでは確実な見込みなどほぼありえないものだ。しかしエイダン・オブライエン調教師が英ダービー(G1)の達人として定評があるとすれば、ジャン-クロード・ルジェ調教師は仏ダービー(G1 ジョッケクルブ賞)においてライバルたちの視界の先を行っている。
エースインパクト(父クラックスマン)はルジェ調教師にとって6頭目の仏ダービー優勝馬となり、これはパスカル・バリー調教師とアラン・ド・ロワイエ⁻デュプレ調教師の記録に並ぶ。過去8年間では5頭の優勝馬を送り出している。
クリスチャン・デムーロ騎手は忍耐強いことで知られているが、エースインパクトのファンたちは仏ダービーにおいて終盤に差しかかるまでは神経質になっていたに違いない。この馬が長いあいだ最後方につけていた一方で、1番人気のビッグロック(父ロックオブジブラルタル)はオレリアン・ルメートル騎手を背に先頭に立ってレースを支配していた。
最後の直線の真ん中あたりではビッグロックのレースに見えた。しかし、デムーロ騎手が促すとエースインパクトは一気に末脚を炸裂させビッグロックの心を打ち砕き、3½馬身引き離してゴール板を駆け抜けた。ビッグロックの2½馬身うしろの3着には仏2000ギニー(G1)優勝馬マルハバヤサナフィ(Marhaba Ya Sanafi)が入った。
ルジェ調教師は競走後の記者会見で、エースインパクトの勝ち方が前日のエプソムでオーギュストロダンが達成したキングオブスティールを追い詰めての優勝と似ていることを認めた。
しかしグランドスタンドの前までトロフィーを受け取るために歩いて来たとき、エースインパクトがライバルを抜き去った方法を理解しきれていないようだった。
ルジェ調教師はこう語った。「毎回人気薄の馬で勝利を収めているので感激もひとしおですね。仏ダービーを1番人気馬で勝ったことはないですし、これまでも4番人気か5番人気ぐらいの馬で勝利を収めてきました」。
「毎回、大本命を破ってきました。ステップレースで多くのことを期待せず、本番で100%の力を発揮できるようにしてきました。次に必要なのは馬の状態が上向いていることであり、エースインパクトは確かに進化していました。いや、それ以上といえるでしょうね。誰もが大本命と見なしていたビッグロックを追跡してとらえ、3½馬身差で勝利したのですから」。
「ビッグロックの関係者にとっては残念なことです。彼らの馬が出くわした馬は別格だったようですから」。
エースインパクトはこれまでに3回しか出走していなかった。調教師は昨年夏にドーヴィルでデビューさせる計画を棚上げにし、今年の1月にカーニュ-シュル-メール競馬場で静かにデビューさせることを選んだのだ。そしてボルドーを経由してシャンティイに到着し、2019年にソットサスが仏ダービーの前に勝利を収めたシュレンヌ賞(L)に臨んだ。このレースはコースも距離も仏ダービーと同じである。
ルジェ調教師はこう続けた。「彼はこれまでほとんど経験を積んでいませんでした。本番に向けてシュレンヌ賞に出走させましたが、まだ底を見せていませんでした。むしろタイムトライアルのようなものでしたね。カーニュでデビュー戦を勝利で飾ったとき、彼には何かがあると考えました。ほかの馬とは異なるストライドと巨大なエンジンをもっています。それにガソリンもあり勝つ意欲もあります」。
ルジェ調教師は無敗記録を4勝に伸ばしたエースインパクトが次にどこに向かうか考えていないと告白した。コーラル社はエースインパクトのエクリプスS(G1)での単勝オッズを21倍から6倍に下げ、凱旋門賞(G1)での単勝オッズを34倍から9倍に下げた。
フランキー・デットーリ調教師はエピクテタスで5着に入り、最後の仏ダービーでの騎乗を名誉あるかたちで終えた。エイダン・オブライエン厩舎のコンティニュアス(父ハーツクライ)はライアン・ムーア騎手を背に8着に終わった。
わずか1ヵ月前にブルーローズセンでクラシック初勝利を果たしたばかりのクリストファー・ヘッド調教師は、この敗戦の別の一面をとらえることもできた。管理馬ビッグロックの勝ち目は、エースインパクトが残り2ハロンから1ハロンのあいだを11秒19で走ったことで消滅した。
「ビッグロックは調教ごとに、またレースごとに本当に強くなっています。彼のパフォーマンスにはとても満足しています。前走とハロンタイムを比べてみても、依然として成長しているのです。生涯において最高のレースを走り切ったことでしょう」。
「とても満足しているのです。すごく強い馬に立ち向かったのですから。エースインパクトは私たちを負かすことができた唯一の馬かもしれません」。
「何も恥じることはありません。この馬をまだ大いに信頼しています。スピードの出る距離では素晴らしい結果を残してきましたし、今回挑んだ2100mでも良いレースをしました。馬主と話し合って今後の進路について決定したいと思います」。
「優秀な3歳牡馬がいれば、仏ダービーに挑んでみるものです。馬のキャリアにとって本当に重要です。彼はまだ成長段階にあって、良化しつつあります。物語はまだ終わっていないのです」。
ルジェ調教師は記者会見から去るときに、「ご心配なさらずに。仏オークス(G1 ディアヌ賞)に出走させる予定の馬はいません」とジョークを言った。
一方、ヘッド調教師と馬主のレオポルド・フェルナンデス・プジャルス氏には6月18日の仏オークスに出走を予定している牝馬がいる。それはブルーローズセンであり、彼女もまたチャレンジを受ける立場としてこのレースに挑むだろう。
By Scott Burton
[Racing Post 2023年6月4日「'These are special moments' - Ace Impact 8-1 for Arc after denying Big Rock in Prix du Jockey Club」]