競馬中継がなくなる可能性が浮上(アイルランド)[開催・運営]
7月12日(水)からアイルランド競馬は存亡の危機に直面している。レーシングTV(Racing TV)とスカイスポーツレーシング(Sky Sports Racing)が「新しい賭事規制法案で提案されている厳しい広告禁止措置が執行された場合は放映を停止する」とちらつかせたのだ。
アイルランドの全26競馬場の独占放映権は2029年までレーシングTVが確保している。その親会社のレーシングメディアグループ(RMG)は、11日(火)夕方に委員会審議を通過した法案がこのままの形で成立すれば"アイルランドでのサービスを存続できなくなる"可能性が高いと言う。一方、英国競馬を幅広く放映しておりアイルランドでも視聴が可能なスカイスポーツレーシングは、アイルランドでの放映事業は"経済的に成り立たなくなる"と注意喚起した。
長らく待たれていた法案は新たな時間帯規制を提案し、午前5時30分から午後9時まで賭事広告を禁止する。それは事実上、日中の競馬中継で広告をすべて拒絶するものである。
RMGのCEOマーティン・スティーヴンソン氏は本紙(レーシングポスト紙)に対してこう語った。「レーシングTVで賭事広告・スポンサー契約・ブランド戦略を中止することは、経済的にも運営においても大問題となります。アイルランドで放映を続けることが不可能になるかもしれません」。
「アイルランドの賭事法が脆弱な人々を保護するために近代化されることは大いに支持します。しかし意図しない結果として、アイルランドで競馬関係者やファンが競馬チャンネルを視聴できなくなるという重大なリスクがあります」。
「アイルランドの生産者・馬主・調教師・騎手、そして大勢の競馬ファンや熱烈な支持者がアイルランドと英国の主要な競馬フェスティバルや日々の競馬中継を見られなくなる可能性があるのは極めて残念なことです」。
レーシングTVは、アイルランドの全競馬場のレースを最短でも2029年まで放映する権利を最近獲得した。そのうちの5競馬場が年間4,700万ユーロ(約72億8,500万円)の契約を当初拒否していたので、土壇場での契約締結となっていた。そして今回、さらに大きな障害をクリアしなければならなくなった。
スティーヴンソン氏はこう続ける。「テレビ中継はどんなスポーツにとっても不可欠なものです。成功を収めているアイルランド競馬はこれらの競馬チャンネルの撤退によるダメージを現実に被るため、とても懸念しています。ファンがテレビでスポーツを視聴できなくなれば、そのスポーツへの関心や参加者が減少する危険性が実際にあります」。
「レーシングTVは会員制有料チャンネルなので、法案のほかの部分に見られる"同意(opt in)を要件とする保護措置"の多くを満たしていると私たちは考えています。競馬と賭事の密接な関係を認識すること、そして競馬専門チャンネルに対する免除を認めることを、新しい賭事規制当局と国会に対して求めます。そうすれば午前5時30分から午後9時までの時間帯に、競馬専門チャンネルの競馬中継において賭事業者の広告・スポンサー契約・ブランド戦略が許可されるようになるでしょう」。
「競馬ファンがアイルランドと英国の競馬をライブで観戦し続けられることを望んでいます。また、アイルランドで大切な役割を今後も果たしていくだろう競馬というスポーツに、競馬ファンが参加し交流していくことを願っています。そして免除措置についてさらに議論して協議する機会を大いに歓迎します。その免除措置は、若くて脆弱な視聴者が損害を被らないようするもので、コンプライアンスに準じていて現実的なものでなければなりません」。
この禁止措置にオッズやオッズ変動の表示が含まれるのかどうか、あるいはブックメーカーがレースのスポンサーになることが許可されるのかどうかは不明である。しかし海外のチャンネルもこの法律に従わなければならないことが示唆されており、スカイスポーツレーシングやレーシングTVが英国で流している広告をアイルランドの視聴者に向けて放映することは許されないことになる。
スカイスポーツレーシングのCEOマシュー・イミ(Matthew Imi)氏はこう述べている。 「責任ある賭事を強く支持する立場から、新しい賭事規制法案を歓迎しています。それは弊社のすべてのメディアプラットフォームで発信している一貫したメッセージです。賭事依存症の人々と子どもたちを保護する必要性があるという大前提には同意しています」。
「しかし私たちは賭事規制法案の中のある条項について大きな不安を抱いています。それは、毎日午前5時30分から午後9時まで、テレビ・ラジオ・オンラインにおけるすべての賭事広告とスポンサー契約の禁止を提案するものです。ほかのスポーツと比較した場合の特徴として、競馬と賭事は密接な関係にあるため、弊社の競馬専門チャンネルでも、競合する他社のチャンネルでも、賭事に関連した広告がかなり多く流されているのです」。
「この時間帯の賭事広告を禁止するという提案が草案通りに成立すれば、このような競馬専門チャンネルに壊滅的な影響を与えかねません。私たちの見解では、賭事広告やスポンサー契約という選択肢がなくなれば、スカイスポーツレーシングはアイルランドで経済的に存続できなくなるかもしれません」。
「これはアイルランドの多くの競馬ファンに不利益をもたらすだけでなく、競馬業界全体にも悪影響を及ぼします。私たちが知るかぎりでも、アイルランド競馬界は国の経済にとって24億ユーロ(約3,720億円)の価値があり、3万人以上の雇用を支えています」。
「アイルランド競馬への注目度はかつてないほど高まっています。アイルランドの馬・騎手・調教師・馬主は英国だけでなく世界中で大活躍しています。スカイスポーツレーシングをアイルランドから撤退させるという苦渋の決断を下さなければならないとしたら、自宅だけでなくパブやクラブでレースを観戦してきたアイルランドの競馬ファンたちは、地元のチャンピオンホースを見る機会を奪われてしまうでしょう」。
法案は7月11日(火)夕方に委員会審議を通過し、今後は報告審議に入り、11日(火)に提出された修正案が検討される。そのあと下院での最終審議に進み、上院で同様のプロセスを経て、大統領により法制化される。
By Conor Fennelly
(1ユーロ=約155円)
[Racing Post 2023年7月12日「Racing TV and Sky Sports Racing may be forced to stop broadcasting in Ireland due to 'devastating impact' of new gambling bill」]