オーギュストロダンが愛チャンピオンSで復活、BCターフを視野に(アイルランド)[その他]
オーギュストロダンのジェットコースターのようなシーズンを表現するのにあらゆる比喩を使い尽くしたが、おそらくこのユニークな牡馬にとって一番しっくりくる諺は「七転び八起き」というものだろう
彼はたしかにそのような不屈の精神を体現している。すでに英2000ギニー(G1 ニューマーケット)での底知れぬ惨敗から立ち直り、英ダービー(G1 エプソム)の栄光を手に入れるという偉業を達成している。そしてこの優秀だが気まぐれなディープインパクト産駒は、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1 アスコット)で喫した同じような惨敗を過去に捨て置き、今回魅惑的な愛チャンピオンS(G1 レパーズタウン)でライアン・ムーア騎手を背に罪滅ぼしの快挙をくり返したのだ。
忘れてはならない。オーギュストロダンはそのあいだに愛ダービー(G1 カラ)でも快勝を決めている。だから、同厩舎馬パディントンのミドルディスタンスで3歳最強馬になろうとする努力を挫くことには相当の勝算がある。2頭はまったく異なるタイプであるものの、同じように素晴らしいシーズンを送っている。どちらも天才だという証である。
ここまでくると、エイダン・オブライエン調教師の才能を絶賛する言葉は枯渇してしまった。彼の魔術は超弩級の奇跡を引き起こすに及んでいるだけではなく、これから何が起こるかをそつなく前もって伝えてくれるのだ。今になっても私たちはまだ半信半疑だが、本当に納得させなければならない人は十分に篤い信心を持っていた。
クールモアの総帥マイケル・テイバー氏はレパーズタウン競馬場のウィナーズサークルで、12回目の愛チャンピオンS優勝を収めたばかりのオブライエン調教師の横に立っていた。オブライエン調教師がオーギュストロダンは愛チャンピオンSで真の姿を見せると主張していたとき、テイバー氏も私たちと同じようにその言葉を聞いていた。しかし多くの人々と違って、彼はその言葉を信じていた。
オッズが最終的に落ち着いてオーギュストロダンが単勝3.75倍の1番人気に支持されたことから判断すると、テイバー氏はオブライエン調教師が言ったことを裏づけるように大口馬券を購入したに違いない。
テイバー氏はオブライエン調教師の信念を信じていたかについて聞かれてこう答えた。「それは信じていましたよ。パドックでは自信にあふれていましたからね。ただ、あれほど自信満々だったのには驚きました。前回の精彩を欠いた走りを見ると、信じ続けるのは至難の業です。だけどその後エイダンと話すと、彼はまだ自信に満ちあふれていて、あんなにパッとしなかった理由を知っているようでした。見てのとおり、彼は馬をベストの状態に戻してくれます。誰にだってスランプはありますよ」。
オブライエン調教師にそれが当てはまるかどうかには議論の余地がある。彼は相変わらず、今回のオーギュストロダンのラザロのような復活に対する称賛をかわそうとしていた。しかし、総賞金125万ユーロ(約1億9,375万円)のビッグレースの展開を見ると、その詳細にいたるまで彼が指示したであろう痕跡があった。
同じ厩舎で2022年のこのレースの覇者ルクセンブルクは、ポイントロンズデールが仕事をやり損ねたのをうけ先頭に立つことになった。ポイントロンズデールは代わって2番手につけ、台風の目の中にいても冷静なムーア騎手はオーギュストロダンに内ラチ沿いを走らせ2頭を追いかけた。
直線に入ってポイントロンズデールが外を回ったとき、ムーア騎手はオーギュストロダンを2頭のあいだに割り込ませた。そしてこの才能あふれる牡馬は競走距離が10ハロンに縮められたにもかかわらず、残り1ハロンの地点でルクセンブルクを振り切った。そのあとはそれほど努力せずに走ったが、決勝線では½馬身差をつけるほどの余裕があった。ナシュワは後方から狙いを定めて追い上げてきて僅差の3着でゴールした。
英ダービー2着でキングジョージ3着のキングオブスティールは直線の攻防に加わるにはスピードが及ばなかったが、なんとか4着に入った。オネスト(7着)も勝負に加わることができなかった。
大一番と銘打たれたこのレースは実際のところ、1頭、いやもっと具体的に言えば1人によるものだった。しかし、彼はその称賛を受け入れないかもしれない。
オブライエン調教師はトレードマークとも言うべき"謙虚さ"で、「要するにオーギュストロダンは偉大な馬なのです。初めて調教した日からつねに優秀な馬です」と主張した。
ニューマーケットとアスコットでの惨敗について、彼は落ち着き払った様子で比喩に捻りをきかせてこう語った。「今年は2つのレースでいろんなことが裏目に出て、からっきしダメでした。通常は些細な部分すべてを味方につける必要があるのですが、すべてが悪い方向に行きました」。
「キングジョージで惨敗したとき、ライアンはそこから脱するように彼を導いてくれたのです。だからそのレースのあとにうまく立ち直ったのです」。
オブライエン調教師はオーギュストロダンの勝利で愛チャンピオンSの5連覇を達成し、ムーア騎手も2014年にザグレイギャッツビーでオーストラリアを破って勝利を手に入れたのを皮切りに通算5勝目を達成した。オーギュストロダンの次走はまだ分からないが、BCターフ(G1 サンタアニタ)が最も有力な候補となりそうだ。オブライエン調教師はロンシャンやアスコットは重馬場になるため、凱旋門賞(G1)や英チャンピオンS(G1)への出走は除外するだろうと示唆している。
「オーギュストロダンが生産においてどれほど価値があって重要なのか、誰もが認識しています。彼の血統が欧州と日本を結びつけるものだからです。信頼してくれたスタッフの手柄です。彼らは決して慌てることはありませんでした。それにマイケルはレースに出走させたいといつも言っていましたね」。
テイバー氏はこれに同意した。「あらゆる可能性があると思いますね。それにジョン・マグニアが思い出させてくれたように、私たちはもう若くはないのだから、誰よりも競馬を楽しみたいと思っているのです。それは確かですね。馬がエイダンに今日のように良い状態だと伝えたのなら、私たちは続けて出走させようと思います」。
ムーア騎手が有能なパートナーに恵まれたのは確かだが、最近の彼の騎乗はスケールが違う。オブライエン調教師のように、彼はここで成し遂げようとしたことの大きさにもかかわらず、冷静さを体現していた。「本当に疑ったことは一度もありませんでした。実力が発揮できて喜んでいます。立ち直らせることができたのは素晴らしいことです。彼は何頭かの実績のあるG1馬を破りましたので、満足しているのです」。
By Richard Forristal
(1ユーロ=約155円)
[Racing Post 2023年9月9日「Breeders' Cup on the horizon after Auguste Rodin does his latest Lazarus-like impression with Irish Champion Stakes triumph」]