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海外競馬ニュース
2023年09月21日  - No.36 - 4

アイルランド競馬界、史上最大級のドーピングスキャンダルに動揺(アイルランド)[その他]


 アイルランド競馬界は競馬史上最大級のドーピングスキャンダルに揺れている。億万長者の実業家・大手スポンサーの顔をもつルーク・コマー調教師が、管理馬12頭からアナボリック・ステロイドの陽性反応が出たことで、3年間の免許停止処分と84万754ユーロ(約1億3,032万円)の過怠金を科されたのだ。

 アイルランド競馬監理委員会(IHRB)は9月14日(木)、5月の9日間にわたる審問で明らかになった衝撃的な案件の詳細を発表した。アナボリック・ステロイドの一種であるメタンジエノン(MD)とメチルテストステロン(MT)の痕跡が検出された12頭の中には、2020年にレパーズタウン競馬場で単勝301倍の勝利を収め英国・アイルランド競馬史上の最高額配当を記録したヒーノウズノーフィアー(He Knows No Fear)も含まれていた。

 ヒーノウズノーフィアーは2021年10月にトリゴS(L レパーズタウン)で14頭中4着となったあと、採取された毛根検体からMDとMTが検出されたのだ。

 また、残りの11頭(以下)も2021年11月にコマー氏の厩舎で実施された競技外検査で、アナボリック・ステロイドの陽性反応を示した。
news_2023_36_04_01.PNG  コマー氏は自身やスタッフが12頭のドーピングに関与したことを否定しており、「馬に禁止薬物を投与した者」、「投与を試みた者」、「投与の共謀者」を対象とするルール273条の違反には問われなかった。

 9月10日(日)にエルダーエルダロフが優勝した愛セントレジャーS(G1 カラ)は、コマー・グループ・インターナショナルがスポンサーを務めた。コマー調教師が兄弟のブライアン氏とともに築き上げた大手不動産開発会社である。

 コマー氏は審問において痕跡はごく微量であると論じ、IHRBの最高獣医責任者兼アンチドーピング担当主任であるリン・ヒルヤー(Lynn Hillyer)博士もそれに同意していた。そしてコマー氏は「あらゆる合理的な予防措置を講じており、毛根検体は単独のマトリックスとしては信頼できません」と主張した。

 "置かれた環境での混入"が分析結果の最も妥当な理由であり、管理馬が口にした飼い葉に豚スラリーを通じてMDかMT、あるいはその両方が混入していた可能性があると、コマー氏は示唆した。一方IHRBは、毛根検体から検出された痕跡が"置かれた環境での混入"であるとは考えにくいという考えを維持した。

 コマー厩舎で調教助手を務めるジム・ゴーマン氏は審問で、厩舎の"比較的優秀な馬"には"比較的良質の飼い葉"が与えられていたと語った。そして、"良質の飼い葉 "を与えられていた厩舎棟の約20頭からアナボリック・ステロイドの陽性反応が出なかったことを認めた。

 コマー氏は、優秀な馬に良質の飼い葉を与えるという指示を厩舎スタッフに守らせるのは難しいとし、アイルランドには年間3ヵ月ほどしか滞在していないことを認め、業務を適切に監督するのはとても困難だと主張した。

 IHRBの報告書によると、コマー氏は"巨額"を費やして管理馬がアナボリック・ステロイドの陽性反応を示すことになった経緯を立証しようとしたが、審査委員会はそれがどのようにして起こったか判断することはなかった。

 審査委員会は、立証責任は調教師にあると述べた。コマー調教師は管理馬がどのようにして陽性反応を示すことになったかを断定できず、違反行為を避けるための合理的な予防措置を取らなかったのだ。

 調教師には1頭にあたり5,000ユーロ(約78万円)、合計6万ユーロ(約930万円)の過怠金が科された。

 審査委員会は、1つの厩舎だけでこれほど多くの陽性反応が出たことは"前例がない"と述べた。そして、コマー氏が"最終的にルール違反の責任を認めたこと"を評価したが、毛根検査の問題を執拗に追及したことについては警告した。

 コマー調教師は置かれた環境での混入が最も可能性の高い原因であると譲らなかったが、審査委員会はそれを受け入れなかった。

 この調教師は競馬の評判の失墜に関するルール違反を犯したことで有罪となり、さらに2万ユーロ(約310万円)の過怠金が課された。

 また、彼は審問で誤解を招くような証拠を提出したという嫌疑もかけられている。"調教師として汚点のない実績がある"と主張したのだ。これに対しても過怠金5,000ユーロ(約78万円)が上乗せされた。

 コマー氏が当局と揉めるのはこれが初めてではなく、2017年に次のような面倒を起こして5万ユーロ(約775万円)の過怠金を科されていた。(1)IHRBの職員が厩舎に立ち入ることを拒否、(2)管理馬の適切な監督を怠った、(3)診療記録を整理していなかった、(4)管理体制の不備、(5)代理人が馬の居場所について誤解を招くような虚偽の情報を提供。

 2024年1月1日から始まる3年間の免許停止処分と過怠金に加え、コマー氏にはさらに75万5,754ユーロ(約1億1,714万円)の費用の支払いも命じられ、支払うべき総額は84万754ユーロ(約1億3,032万円)にのぼった。

 コマー調教師は過去5年間において、平地競走で953戦31勝の成績を収めている。わずか3%の勝率だ。最もレーティングが高かったのは、2020年にダーモット・ウェルド厩舎から移籍してきたブロードストリート(レーティング104)で、コマー厩舎にとって初めてのアイリッシュリンカーン出走馬となり、そのレースで3着に入った。

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By David Jennings
(1ユーロ=約155円)

[Racing Post 2023年9月14日「Huge doping scandal hits Ireland as billionaire businessman Luke Comer banned for three years and hit with fines and costs of €840,754」]


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