日本の種牡馬の台頭とクールモアの優越性(イギリス)[その他]
9月16日(土)の英セントレジャーS(G1 ドンカスター)を観戦して、まずある種の"悲しい"という感情を抱いた。コンティニュアスが優勝馬にふさわしくなかったわけでは断じてない。クラシック競走の栄光がまたもやチーム・クールモアにもたらされたからでもない。彼らがいなかったら、私たち、馬券購入者はどうなっていただろう?悲しかった理由は、英国生産界の凋落ぶりを示すもうひとつの証拠を目の当たりにしてしまったからだ。
コンティニュアスは今シーズン、英国とアイルランドで走った唯一のハーツクライ産駒であり、グレートヴォルティジャーS(G2)と今回のクラシック競走を制した。今年英ダービー(G1)と愛ダービー(G1)を制覇したオーギュストロダンはもう1頭の日本の種牡馬ディープインパクトの産駒である。ディープインパクトはほかにもサクソンウォリアー、スノーフォール、ファンシーブルー、スタディオブマンという欧州クラシック勝馬をこれまで送り出してきた。欧州でほとんど産駒が出走していないにもかかわらず、これほどの快挙をあげていることがすべてを物語っている。毎年春にドバイで目にするように、日本は今やトップクラスのミドルディスタンスの種牡馬を作り出すことにかけては、ナンバーワンの競馬国なのだ。
もちろん欧州にはまだ、あらゆる競走距離での最高級馬を生産する能力がある。それにフランケルはすべての点で素晴らしい種牡馬だ。しかし今のままの状態が続くならば、質に関しては最後尾で競うレースになってしまうだろう。
この点をさらに詳しく解説しよう。今シーズンにハンデ戦を勝ち上がりG1を制した馬は16頭もいる。これは2000年以降のどの時期よりも多い。パディントンのG1・4勝によりこの数字はわずかに歪められた感があるものの、競馬の最高の地位にいる馬の層の薄さを示している。
最も興味深いのは、英国ではスプリント向きの馬が大量に生産されているにもかかわらず、ヘイドックスプリントカップ(G1 約1200m)、ナンソープS(G1 約1000m ヨーク)、フライングファイブS(G1 約1000m カラ)を制したのはいずれもレーティング100台で目立つ成績をあげていない馬だったということだ。つまり基本的に、英国はうだつの上がらないスプリンターをたくさん生産し、ミドルディスタンス馬の生産を忘れてしまっているのだ。だから日本産馬は統計的にミドルディスタンス部門で優位に立っている。競馬の質を上げていくにはうまい作戦がとられていない。
もちろん状況は変わりうるが、現在圧倒的な強さを誇っていると私たちが思っているクールモアは、今後数年間でさらにずっと強くなっていくと考えられている。シティオブトロイ[スーパーレイティブS(G2)を6½馬身差で制した期待の2歳牡馬]の父ジャスティファイだけでなく、ヘンリーロングフェロー[ナショナルS(G1)を5馬身差で制した将来有望な2歳牡馬]の父ドバウィ、ディエゴベラスケス[チャンピオンジュベナイルS(G2)優勝馬]の父フランケルなど、クールモアは多くの種牡馬を使っているのだ。全体的な質の低下も相まって、彼らに対抗するのは誰にとっても至難の業となるだろう。
ほとんどの馬券購入者は賭けの対象となる商品の質など心から気にかけることはないが、馬の安定性や信頼性が低下すれば、いずれは気にするようになるかもしれない。
さらに英国競馬を常に素晴らしいものにしてきたのは、2歳馬が勝ち上がるたびに次のフランケル・トロイ・シャーガー・ガリレオ・デイジュール・シーザスターズを発掘できる可能性があったことだ。しかし英国でその可能性はますます希薄になっているようだ。
By Tom Segal