イクイノックスの時代が到来、アジアが世界競馬を席巻か?(国際)[その他]
我が家の二世代先の若者たちが大叔父である私から昔話を聞くことになったとき、アジアの超大国である日本と香港が世界競馬を支配していなかった時代があったなんて信じられないと思うのかもしれない。
長期的転換のために再びカチッとクリックされたような気のする週末(10月28日・29日)だった。その転換とは、ジョン・ゴスデン調教師の「未来は東洋にある」という予言の実現に向けたものである。
イクイノックスとロマンチックウォリアーの名前は、まだ書かれていない競馬史に必ず登場するはずだ。彼らの天皇賞(秋)(G1)とコックスプレート(G1)での画期的な勝利は、大いに語られるにふさわしい重要なエピソードである。そしてブリーダーズカップ開催(11月3日・4日)が閉幕するまでに、ソングライン・シャフリヤール・ウシュバテソーロによる勝利が加われば、きわめて重大な8日間となるだろう。
イクイノックスは日本を離れる必要はなかった。日曜日に、サラブレッドという惑星で最も才能あふれる馬であることを証明したのだ。
東京競馬場でのイクイノックスの勝利はそのシンプルさにおいて、ほぼ教科書どおりだった。クリストフ・ルメール騎手はスマートに発走し、第1コーナーまでのわずかな距離で小競り合いが生じるのを避けた。そしてイクイノックスを先行勢から3馬身うしろ、後続よりも2馬身手前の位置につけ、うまい具合に孤立して走らせた。
実際、最後の直線に入るときも十分なスペースがあり、ルメール騎手はほとんど進路を変えることなくイクイノックスの末脚を発揮させ、この2000mのレースで勝ち時計1分55秒2を記録した。
このタイムについてよく理解しておいてほしい。英インターナショナルS(G1)は天皇賞(秋)よりも63m長く、パンケーキのように平坦なヨーク競馬場で施行されているが、そのレコードタイムは2009年にシーザスターズが記録した2分05秒29である。
たしかに日本や香港の芝コースは水はけの良い人工的な基盤の上に敷設されており、ずっと速い時計が出る。しかし競走距離が63m長かったことを考慮しても、モスターダフが今までの競走生活で出してきたものよりもずっと速い時計を出せると考えるのは現実的だろうか?この馬は英国界隈では1¼マイル(約2000m)の正真正銘のスターであるのだが。
しかもイクイノックスは世界的な舞台でそれをやってのけている。メイダン競馬場で1½マイル(約2400m)を2分25秒65という滑らかなスピードで駆け抜け、ウエストオーバー、ザグレイ、モスターダフを撃退する圧倒的なパフォーマンスを見せたのだ。これら3頭はそれ以来、合計でG1・4勝、G1・2着4回を達成している。
ドバイシーマクラシック(G1)は、これまで私がライブで見た中で最も驚くべきレースであったことは間違いない。1月には国際的なハンデキャッパーたちにより、このレースは「世界のトップ100 G1レース」の1位に選ばれそうだ。
ジャパンカップ(G1)、その次にはおそらく有馬記念(G1)が待っている。それから後は、イクイノックスが5歳になっても現役を続行してふたたび海外遠征するように、競馬の神様に祈ることになるだろう。
ロマンチックウォリアーのコックスプレート(G1)での勝利は、それとはまったく違ったものである。香港でピラミッドの頂点に立つことは、日本や英国のような競馬国に比べてはるかにスケールが小さい。香港の現役競走馬は1,200頭ほどである。つまりロマンチックウォリアーのように明らかに才能のある競走馬は、海外遠征しなくとも高額賞金レースでの連勝を延々と伸ばし続けるチャンスがある。
一流馬を所有することは裕福な香港のエリートたちに大きな社会的名声をもたらす。また、高額賞金が香港にとどまるためのインセンティブにもなっている。
ジェームズ・マクドナルド騎手が、ダニー・シャム調教師だけでなく馬主のピーター・ラウ氏を称賛したのも不思議ではない。彼らは香港のチャンピオンであるロマンチックウォリアーをメルボルンに連れて行くという大胆な決断を下したのだ。マクドナルド騎手はロマンチックウォリアーの鞍上を務めてウォーミングアップのターンブルS(G1)で敗れてしまったが、豪州最大の馬齢重量戦であるコックスプレートではハラハラするような勝利を挙げた。
シャム調教師は2012年ロイヤルアスコット開催で勝利を挙げたリトルブリッジも手掛けており、適切な馬が現れれば海外遠征させるための術を心得ているのは明らかだ。また2023年にロシアンエンペラーがカタールで勝利を挙げたあとの3月にはドバイに6頭の香港調教馬が遠征した。
しかし、多くの馬主は2015年にジョン・ムーア調教師が手掛けたエイブルフレンドがクイーンアンS(G1 ロイヤルアスコット開催)で精彩を欠くパフォーマンスを見せたことを思い出す。ロマンチックウォリアーの勝利がハッピーバレーやシャティンの会員制ラウンジで興味深い話の種になるかもしれないとはいえ、世界のトップレベルの競馬開催への香港調教馬の参加は当たり前と言えるようなものではない。
それはブリーダーズカップ開催にも言えることだ。2年前にデルマーを舞台に矢作芳人調教師が2勝を挙げるまで、日本人調教師にとってブリーダーズカップ開催は高嶺の花だった。矢作調教師本人が説明するところによると、管理馬を海外遠征させるようになったのは国内での競争があまりにも激しかったからだという。
カリフォルニアがふたたび手招きをしており(ケンタッキーでの開催よりもはるかにアクセスしやすく、馬場状態「良」が保証されている)、日本はBCクラシック(G1)だけでなくブリーダーズカップ開催全体でこれまでで最強の布陣で挑むに違いない。2日間の競馬祭典で最高賞金を誇るBCクラシックに、ドバイワールドカップ開催で勝利を挙げたウシュバテソーロとデルマソトガケが出走予定だ。
ソングラインは初夏のマイルG1である安田記念で牡馬を蹴散らし2勝を挙げている。またシャフリヤール(BCターフ出走予定)やウインマリリン(BC フィリー&メアターフ出走予定)が続けば、"あの"ドバイシーマクラシックで彼らがイクイノックスの5着と6着だったことを人々はふと思い出すことになるだろう。
海外競馬に興味を持ち始めた頃、シングスピール・ピルサドスキー・ファルブラヴといった馬たちが欧州の競馬シーズンの延長戦としてジャパンカップに出走していた。一方、ブリーダーズカップ開催は多くのチャンピオンにとって理想的な選択肢だった。
だから、サンタアニタに向かって往年のスピリットを見せつけようとしているモスターダフ・オーギュストロダン・キングオブスティール・オネストの関係者に敬意を表したい。これらの欧州の有力馬のうち勝利を収めて評判を高めるのはせいぜい1頭だろう。
今後数年のうちにアジアからいっそう強い馬が欧州や中東に挑戦しに来る可能性があり、国際競走はさらに熱くなりそうだ。今後、世界のトップレベルの競馬開催はより良いものになっていくだろう。
By Scott Burton
[Racing Post 2023年10月29日「The age of Equinox: could the Cox Plate and Tenno Sho be just the start of a huge week for the eastern powers?」]