凱旋門賞におけるせん馬の出走制限への問題提起(フランス)[開催・運営]
来月行われる凱旋門賞(G1)について考えるとき、このスポーツが自分で自分の足を撃っていると思わざるをえない。
このパリロンシャン競馬場での祭典が大いに待ち望まれ、スリリングな興行となるのはいつものことだが、10月最初の日曜日には何かが欠けている。正確には、2頭のスターホースを欠いているのだ。この2頭が出走しないことで、2024年の出走馬が大幅に弱体化するのは避けられない。
このコラムの恒例トピックのひとつに戻ることをお許しいただきたいのだが、欧州競馬におけるせん馬に対する排他性が、今ほど無用で有害に見えたことはない。無敗で仏ダービーを制し、未だすべてをさらけ出していないルックドヴェガは凱旋門賞の1番人気に値するが、仮にカランダガンやゴリアットの出走が認められれば、その地位は脅かされることになる。フランシス・グラファール調教師の管理するこの2頭が出走できれば素晴らしい凱旋門賞となったであろうが、そうではないために低水準のレースに映る。
ルックドヴェガは、シャンティイ競馬場で行われたクラシックレースで大暴れし、レーシングポストレーティングを自己最高の120に伸ばした。仏ダービーで3着に入り、パリ大賞(G1)での勝利によりレーティング119を獲得したソシエは、すべてのブックメーカーで凱旋門賞の2番人気に支持されている。ほかに目を引くのはジョセフ・オブライエン調教師のアルリファーで、エクリプスS(G1)でシティオブトロイの2着に入り、ドイツでG1レース(ベルリン大賞)を制したことでレーティング121とした。
出走が確実視されている馬の中で、最も高いレーティングを保持しているのはアルリファーである。もしカランダガンとゴリアットに凱旋門賞の出走資格があれば、すでに127を保持している両馬は出走していただろう。そしてなにより、同じ厩舎の僚馬同士が初めて対決するのを、我々は楽しみにしたであろう。
カランダガンは、英ダービー(G1)と愛ダービー(G1)に出走することを禁じられたように、仏ダービー(G1)もまた、迂回することを余儀なくされた。欧州パターン委員会の基本ルールにおいて、2歳限定あるいは3歳限定のG1レースへのせん馬の出走は禁じられている。英国はこのルールを尊重しながらも、その後はより開放的なアプローチをとっている。その結果、ゴリアットはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)で素晴らしい走りを見せ、また、カランダガンは英チャンピオンS(G1)に挑戦してロイヤルアスコット開催に続く勝利を目指すことができる。2011年に、フランスの有名なせん馬シリュスデゼーグル(Cirrus des Aigles)は凱旋門賞へ出走することができなかったが、その13日後に行われた英チャンピオンSを制している。
ゴリアットとカランダガンは、ブリーダーズカップとジャパンカップ(G1)にも華を添える存在として歓迎されるが、フランスのルールではフランス最高の2頭がフランス最高のレースに出走することができない。同ルールにより、ヴェルテメール兄弟の傑出したマイラーであるソロウ(Solow)も、フランスの最も権威あるマイルレースであるジャックルマロワ賞に出走できなかった。代わりにグッドウッド競馬場でサセックスS(G1)を制し、その後クイーンエリザベス2世S(G1)の勝利を戦績に加えた。
繁殖のためにレースをするのか、レースのために繁殖をするのか。この問いは、議論の本質である。
現状を擁護する人々は、せん馬がクラシックレースを勝つのは望ましくないと主張し、またもしクラシックレースがせん馬に開放されると、気性に難のある牡馬の関係者らが、影響力のある種牡馬になる可能性のあった馬を去勢する誘惑に駆られるかもしれないと主張する。それらの主張にもメリットがあるのかもしれない。しかし、アメリカやオーストラリアは巨大な繁殖産業を有しているが、ケンタッキーダービー(G1)やコーフィールドギニー(G1)のような種牡馬選定を目的としたレースにせん馬が出走し、時には勝利することを喜んでいる。
欧州の立場を支持する人々がよく使うもうひとつの論拠は、気性の荒いすべての馬に対して、せん馬は不当なアドバンテージを享受しているというものである。3年前のレーシングポスト紙の特集記事で、この考え方に欠陥があることが明らかになった。
オーストラリアを代表する調教師、クリス・ウォーラーは、非去勢馬とせん馬の両方で大成功を収めてきた者の視点からこう語る。「私の考えでは、せん馬は牡馬に対して有利ではありません。筋肉量とアナボリックステロイドの観点から、牡馬の方がせん馬より実際のところ有利だと思います。去勢する前のほうが常に、ずっと強い馬なのです。強い馬は爆発力があり、せん馬に比べてレース後の回復力もあるのです」
「エリート種牡馬を見つけるのが目的ならば、ヨーロッパのシステムはおそらく正しいでしょう。しかし、最高の馬同士がぶつかり合うレースを見たいのであれば、ヨーロッパのシステムには議論の余地があるでしょう」。
今年の凱旋門賞の欠点は、有力馬同士が対戦しないことだ。パリロンシャン競馬場よりもサウスウェル競馬場が好まれるとは思わないにしても、シティオブトロイの馬主であるクールモアがブリーダーズカップ・クラシック制覇に全力を注ぐことを選択したのは十分に理解できる。それよりももっと大きな不満は、非常に疑問の残る出走条件のルールによって、カランダガンとゴリアットがヨーロッパ最高峰のチャンピオンレースにスパイスを加えるのを見られるチャンスがなくなってしまうことだ。
競馬が世間の関心を維持するためにこれまで以上に努力しなければならない今、欧州におけるせん馬に対する態度はナンセンスで有害である。少なくとも、フランスギャロは今年の凱旋門賞の教訓に耳を傾けるべきだ。10月6日にカランダガンとゴリアットが出走しないのは寂しい限りだ。2025年の凱旋門賞では、もしかしたら両馬にもついに出走資格が与えられはしないだろうかと考えるのもよかろう。
By Lee Mottershead
[Racing Post 2024年9月1日「The Arc will be without two superstars due to an outdated ban - racing can ill afford this act of self-harm」]