輸出規制解除後の南ア競馬、再び国際舞台へ(南アフリカ)[開催・運営]
南アフリカ・ヨハネスブルグを拠点とする調教師ジェームズ・クローフォード氏の右腕には、手首から肩にかけてタトゥーが入っている。その上半分は、最近まで滞在していたバリ島での休暇の最後に完成したものだ。
「7時間半かかりました。麻酔クリームを塗ってもらっていたのですが、4時間半しか効き目がもたないので、麻酔が切れたら一気に痛みが襲ってきました」
「タトゥーの面積はどれだけの痛みに耐えることができるかに比例します」、と続けたクローフォード調教師の言葉は、近年の南アフリカ競馬に携わった者たちには何か別の事を意味しているように聞こえるだろう。
その痛みは、新型コロナウィルスの蔓延によってもたらされた。競馬は中止を余儀なくされ、ヨハネスブルグを拠点とする主要な競馬運営事業体のプメレラ社は倒産に追い込まれた。
さらに、同グループの筆頭株主マーカス・ヨーステ氏が、世界的な小売会社シュタインホフ社の最高経営責任者(CEO)時代に100億ユーロ(約1兆6,000億円)の会計スキャンダルに関与したことで、状況は悪化した。南アフリカ最大の馬主の一人でもあった同氏は、刑事裁判を受けることになっていたものの、今年の3月に拳銃で自ら命を絶った。
それだけにとどまらず、致死性の高いアフリカ馬病の蔓延に対する国際的な懸念から、2011年に欧州連合(EU)によって厳しい検疫規制が敷かれたことで、南アフリカのトップトレーナー、マイク・デコック調教師とショーン・タリー調教師が世界の舞台でしのぎを削っていた時代は事実上終わりを告げた。
しかし、その痛みに耐えることのできた人々にとって、南アフリカの未来は、最近の記憶の中ではいつにも増して有望であるように見える。
今年の3月、13年間に及んだEUによる南アフリカからの馬の直接輸入禁止措置が解除され、南ア競馬が"再び"世界へと開かれた。そして11月30日(土)には、南アフリカ競馬界の大御所であり、オッペンハイマー家の億万長者でもあるメアリー・スラック氏の莫大な資金を得てプメレラ社の灰の中から立ち上がった4Racing社が、ターフフォンテン競馬場で南アフリカにおける最高賞金レースを初めて開催する。
今年のベットウェイ・サマーカップ(G1、芝2000m、賞金総額600万ランド(約5,000万円))は、オイシン・マーフィー騎手が人気馬フランセスエセル(Frances Ethel)に騎乗することが決まってからの数カ月間、大いに期待を集めてきた。メディアによる露出と政府からの注目度が大幅に増加し、英リーディングを4回獲得している名騎手のために金曜日に開かれるパーティーのゲスト80名に、大臣クラスが何人も名を連ねている。
もしマーフィー騎手とフランセスエセルが勝てば、南ア競馬にとって新たなカンフル剤になると見られる(訳注:結果は9着)。ギャンブルでの課税の拡大によって政府が追加資金を獲得することができるのであれば、南ア競馬が国際的に渡うことを認める可能性もでてこよう。
競馬運営事業体の4Racing社は、南アフリカのトートにおける払戻金額の3%を徴収する。しかしながら、国のギャンブル規制当局によれば、パンデミック以降は固定オッズ方式の発売金が倍増している一方で、同期間中の(4Racing社が取り扱う)パリミュチュエル方式の発売金は半減しており、4Racing社は収益増加を目論む。
収益を増加させる動きの一つが、ワールドプールである。ダーバン・ジュライ開催は今年、この香港ジョッキークラブが運営する世界共同の賭事プールに参加した。
4Racing社のCEOは政府系の南アフリカ空港会社の最高執行責任者(COO)出身のフンディ・シテベ氏だが、同氏が世界賭事協会(World Tote Association)の共同議長に選任されたことにより、ヨハネスブルクの競馬はワールドプールの恩恵を得やすくなるであろう。ワールドプールは英国競馬において、1開催日につき最大80万ポンド(約1.6億円)の収益を開催競馬場にもたらしている。
これらを聞くと、南アフリカ競馬の将来について尋ねられたクローフォード調教師の口から威勢のいい言葉が飛び出す理由が、十分に分かっていただけるだろう。
20代中盤のクローフォード調教師は、複数のG1勝利実績のある父親のブレット・クローフォード調教師の下で、ヨハネスブルクのランキースフォンテン調教施設にあるサテライト厩舎を運営している。
ディラン・クーニャ調教師やアーチー・ワトソン調教師など、南アフリカで腕を磨いたおなじみの英国人トレーナーたちに近いタイプの野心的な調教師で、南アフリカ競馬が世界に飛び出していくことを切望している。
クローフォード調教師は次のように述べた。
「南アフリカには常にトップクラスの調教師と騎手、そしてトップクラスの競走馬がいましたが、近年はそれを世界と共有する機会に恵まれませんでした。馬の輸入制限が解除されたことは非常に大きなことで、南アフリカ競馬が再び世界の競馬地図に載ることになります」
「南アフリカ競馬の可能性は無限だと心から信じています。私がこれほど楽観的なのは、私たちが持っているもの、私たちにできることが何かを知っているからです。それらを適切な方法で正しく使って、適切な人材を確保することで、本来あるべき成功に導かなければなりません。それができれば、世界を手にすることだってできると思っています」。
By Peter Scargill
(1ユーロ=約160円、1南アフリカランド=約8.3円、1ポンド=約200円)
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