ポリトラックによってもたらされたスピードの変化(アメリカ)【その他】
1年という月日は大きな変化をもたらすものである。昨年4月、シニスターミニスター(Sinister Minster)は、馬場の内側を走るスピード馬に有利と言われていたキーンランド競馬場のダートコースの特徴を生かして、2着に123/4馬身差でブルーグラスS(GI)に圧勝した。
1年後、ドミニカン(Dominican)(セン・父エルコレドール(El Corredor))は、キーンランド競馬場のポリトラック馬場との相性のよさを発揮して、最後の直線で劇的な追い込みにより、4頭の写真判定の結果、ブルーグラスSの勝馬となった。
この着差の相違は、ひと言で言うと、ポリトラックによるものである。
2006年のブルーグラスSで、シニスターミニスターは最初の4ハロンを45秒88で走り、6ハロンを1分09秒94で通過し、11/8マイルの勝ち時計は1分48秒85であった。今年のブルーグラスSで写真判定の結果4着と惜敗したトウフルスバーグ(Teuflesberg)の最初の4ハロンは51秒46、また6ハロンは1分16秒65であった。勝ち時計は、1分51秒33であった。
トウフルスバーグのような先行馬は、今年のブルーグラスSのような遅いラップタイムで走ることができれば、かなり優位に立てるというのが伝統的な見方であった、しかし、ポリトラックはこれを覆した。
これは、それほど悪いことではないかもしれない。
アメリカ競馬は長い間、スピード、とりわけレース前半におけるスピードを重要視してきた。公開せりで売却される調教2歳馬の価格は主に、若馬が1ハロンまたは2ハロンをどのくらいの時計で走ることができるかで決められる。ポリトラック、少なくともキーンランド競馬場のポリトラックは、レース後半のスピードをより重要視するものである。
シニスターミニスターは、昨年のブルーグラスSで最初の6ハロンを猛烈なスピードで通過したあと、最終3ハロンを39秒91で走った。一方、今年の同競走におけるドミニカンの最終3ハロンの時計は、わずか34秒強であった。
キーンランド競馬場のポリトラックで行われるレースの大部分は、追い込み馬が往々にして勝馬になるという点においてヨーロッパの芝レースに似ている。これは、ブルーグラスSにおいても同様であり、昨年の2歳牡馬チャンピオンのストリートセンス(Street Sense)は、ゴール近くで先頭に出たが、最後の1完歩でドミニカンに鼻差で差し切られた。
1年前には先行して内柵に沿って走ることがキーンランド競馬場で勝つための重要な秘訣であった。しかし、今では同競馬場で馬を先行させたいと思う競馬関係者はいないようである。これは同競馬場のポリトラックで先行して優勝することは、きわめて困難となったためである。この状況は、競馬全体にとって良いことである。
ドミニカンは、昨年10月にキーンランド競馬場で初勝利をあげ、ターフウェイパーク競馬場のポリトラックでラッシュアウェイSに優勝したあと、ポリトラックで3戦無敗である。同馬は、ダードコースでは4戦して勝ち星を挙げていない。
エクリプス賞の最優秀調教師に選ばれたトッド・プレッチャー(Todd Pletcher)調教師が4月11日にケンタッキー州サラブレッド牧場長クラブ(Kentucky Thoroughbred Farm Managers’ Club)で述べたように、キーンランド競馬場の馬場傾向は変わったかもしれない。
同調教師はほかの競馬関係者と同じように、馬を調教する目的でポリトラックなどの人工馬場の利点を認めている。同調教師は、「理想的には、ポリトラックで馬を調教して、伝統的なダードコースで出走させてみたいと思っています」と述べた。
このため、同調教師はケンタッキーダービーの出走予定馬を、チャーチルダウンズ競馬場のダート馬場に慣らすために早めに馬を同競馬場に送り出すのではなく、ポリトラックで馬を調整している調教師のひとりである。ケンタッキーダービーに出走させる馬のいない厩舎は、チャーチルダウンズ競馬場の経営者にどのようなメッセージを送るのだろうか。
改修されたチャーチルダウンズ競馬場で行われる今年のケンタッキーダービーは、ダードコースで施行される最後のダービーとなるのであろうか。
By Ray Paulick
〔The Blood‐Horse 2007年4月17日「Change of Speed」〕