新賭事法の発効(イギリス)【開催・運営】
1963年賭事・ゲーミング及び宝くじ法(1963 Betting, Gaming and Lotteries Act: 旧賭事法)の施行から40年以上を経て、2005年賭事法(Gambling Act 2005: 新賭事法)が9月1日に発効する。これによって、イギリス賭事産業は“世界で最も規律のある賭事産業”となる。同法は6年を超える調査、研究および努力の集大成であり、競馬産業という年間売上げ数十億ポンド(約数千億円)の産業に適用される規範を21世紀にふさわしいものとすることが期待されている。
新賭事法は、国営宝くじおよびスプレッドベッティング(spread betting 後先当て)を除き、あらゆる形態のギャンブルに適用することを目的としており、旧賭事法以降の既存の賭事法に取って代わることになる。新賭事法には、弱者保護などの措置が盛り込まれている。
9月1日から賭事産業とゲーミング産業は、賭事委員会(Gambling Commission)を含め、同じ規制制度に服すことになる。
新賭事法に基づいて免許を受けるために、場外・場内ブックメーカーは、さまざまな法的関門をクリアしなければならない。イギリス・ブックメーカー協会(Association of British Bookmakers: ABB)の専務理事トム・ケリー(Tom Kelly)氏は、次のように述べている。「これらの要件の大部分は、すべてのブックメーカーがすでに満たしているものです。問題があるとは思いません。いずれかのブックメーカーで、必要な手続をまだ済ましていないものがあれば、速やかに賭事委員会に連絡すべきです。たとえば数千ポンド(約数十万円)を超える費用を必要とする事業免許、個人免許、施設免許等の取得です」。
同氏は、9月1日からイギリス賭事産業が、“世界で最も規律のある賭事産業”になると確信し、次のように付け加えている。「新賭事法は、規制緩和ではなく規制を目的とするものです。この点でまったく間違った受け止め方をされています。イギリス賭事産業には、これまで規制機関が置かれたことは事実上一度もありません。つまり、これまでは政府自身が法規を定めるだけでした。私たちは、賭事委員会が広範囲の権限を慎重にかつ手際よく行使することを望みます」。
賭事改革は、2001年7月にアラン・バッド卿(Sir Alan Budd)によって発表された賭博再検討報告書(Gambling Review Report)から始まった。同報告書は、インターネットのような新たなテクノロジーの出現に即応して法律を変更する必要性にかんがみ、政府の依頼によって作成されたものである。バッド報告書に応えて、政府は2002年3月に白書『成功のための安全な賭け(A safe bet for success)』を発表した。
この白書に基づき、2003年に賭事法案が公表された。同法案は、2004年に賭事法案として議会に提出される前に、超党派の下院・上院議員合同委員会(Joint Committee of MPs and Lords)によって事前審議された。
新賭事法は、2005年4月に女王の同意を得て成立し、その6ヵ月後に、新たな賭事規制機関である賭事委員会が設置された。約65件の関連法案が議会に提出された。
新賭事法の中心をなすのは、3つの主な免許付与目的であり、それは (1) 賭事から犯罪を排除すること (2) 賭事が公正かつオープンに行われるよう確保すること (3) 子供と賭事依存症者をギャンブルによる損害または搾取から保護することである。
これらの目的を達成するため、新賭事法は厳しい免許制度を定めている。免許目的に反した賭事運営業者は制裁を受け、免許を取り消されることがある。
ケリー氏によると、賭事委員会はその運営に1,400万〜1,500万ポンド(約33億6,000万〜36億円)の費用を要し、賭事産業に費用を負担させることになっている。ピーター・ディーン(Peter Dean)委員長は、年間約1,000億ポンド(約24兆円)を売上げる賭事産業を管理するために、信頼できる機関を持つことが重要であるとしている。
同委員長は、次のように述べている。「イギリスはギャンブラーの国です。たとえたまにしか賭事を行わない者がこの言葉を嫌がるとしても、この事実は変わりません。議会は、どのようなギャンブルが許可されるかに関する基本的ルールを定めました。賭事委員会の任務は、ギャンブルが法的枠組みのもとで、犯罪と無縁に、公正かつ安全に行われるよう確保することです。これをどの国にも劣らない近代的なギャンブル規制システムに基づく規制手段によって実現できることに非常に満足しています」。
賭事委員会は、賭事と越境ゲーミングのほか、カジノ、ビンゴホールおよび娯楽施設等に対する規制権限を有している。賭事委員会は、新賭事法を遵守しない賭事運営業者およびその職員を調査し、訴追し、罰金を科し、また、それらの免許を取り消すことができる。
新賭事法はまた、“不正を働く”ことに関するルールを強化し、賭事における不正行為に対する処罰として最高2年間の懲役刑を導入したが、ケリー氏は「これまで詐欺犯罪が絶えませんでした」と指摘している。
賭事委員会は、“不正な”賭事を停止させかつ無効にする権限を有する。ただし、不正な賭事に対する実際の取締方法については、今後を待たなければならない。ブックメーカーは各スポーツ統括機関と情報を共有することが要求される。
このことは、疑義を生じさせており、ケリー氏はどのスポーツ統括機関が情報(たとえば投票者の賭け記録)を利用するかについては規定されていないと指摘し、「ですが、ブックメーカーはスポーツ統括機関と協力して、スポーツの公正確保を原則的に確約しています」と付言している。
初めて法律によってギャンブル負債が回収可能となるが、これは両刃の剣である。ケリー氏は「ブックメーカーを訴える賭客はあまりいないと思います」と述べている。
ブックメーカー営業所は営業時間を一年中午前7時から午後10時までとすることができる(これまでは夏季のみ)。なお、営業時間の延長に関する規定は、旧賭事法に存在していた。
賭客にとって最も直接的な変化は、新たな固定オッズ投票端末(Fixed Odds Betting Terminals: FOBT)である。
FOBTで行うポーカーやブラックジャクのようなカジノゲームが初めて許可されることになった。
ケリー氏は、「すでに廃止されているABBの倫理規定のもとで、カジノタイプ・ゲームとしてはルーレットのみが唯一認められていました。新賭事法はこの種の賭事の範囲をわずかに拡大しています」と述べている。
どれくらい多くのブックメーカーがFOBTによるゲームを直ちに導入するかは、今後を待たなければならない。
波紋を引き起こすことが確実と思われるもう1つの変更は、各賭事分野において不統一であった賭事広告に関するルールを統一したことである。
ブックメーカーは従来、新聞に広告を出すことを許可されていたが、カジノは許可されていなかった。一部の賭事運営業者にとって、新たな広告の機会が生まれることになるが、賭事広告は厳しく規制される。
広告基準協議会(Advertising Standards Authority)、賭事委員会および英国情報通信庁(Office of Communications)は、相互に協力して、厳格な広告規範により広告を監視することになる。具体的には子供の利益を考慮するほか、無責任なギャンブルまたは過度なギャンブルを奨励する広告、子供、若者その他の社会的弱者を害しまたは食い物にしようとする広告、18歳未満を対象とする広告を禁止し、さらに25歳未満に見える者を広告に使うことを禁止する。
賭事業界は、社会的責任に関する独自の倫理規定を作成した。この倫理規定は、広告に賭事産業のEメールアドレスであるgambleaware.co.ukを表示すること、子供のスポーツグッズに賭事広告の掲載を禁止することおよびスポーツ競技の放送時間を除き、午後9時以前に賭事広告の放送を禁止することを含んでいる。
欧州経済地域(European Economic Area)外にある規制が不十分な国からの賭事広告も禁止される。
9月1日から新しく適用される事項
►► | ブックメーカーは、スポーツ賭事に関する営業時間を延長することができる。 |
►► | ポーカーとブラックジャックを含め、FOBTによって賭金500ポンド(約12万円)のジャックポット(6重勝式)賭けをブックメーカー営業所で行うことができる。 |
►► | ブックメーカーは、一定の制限に従ってテレビで賭事広告を行うことができる。 |
►► | 新たに“不正行為”を犯罪とし、最高刑を懲役2年とする。 |
►► | 賭事委員会は、“不正な”賭けを禁止しかつ無効にすることができる。 |
►► | ブックメーカーは、新たにスポーツ統括機関と情報を共有することが必要となった。 |
►► | ギャンブル負債は、法律によって回収可能となった。 |
►► | 競馬場は、既存の馬券発売地域のほかに新たな馬券発売地域を設置することができる。 |
►► | 場内ブックメーカーは、単勝式・複勝式複合馬券の払戻し条件に関して、たとえば出走馬16頭以上の場合に5着まで払戻し対象とするなどの変更を行うことができる。 |
新賭事法の3つの目的
►► | ギャンブルから犯罪を排除すること。 |
►► | ギャンブルが公平でかつオープンであるよう確保すること。 |
►► | 子供および賭事依存症者を損害または搾取から保護すること。 |
By Paul Eacott
(1ポンド=約240円)
[Racing Post 2007年8月31日「The gambling act what will it mean for you?」]