海外競馬ニュース 軽種馬登録ニュース 海外競馬情報 統計データベース 海外競馬場・日程 世界の競馬および生産統計 海外競走登録 申請書類
血統書サービス 引退名馬
twitter FB
TOPページ > 海外競馬情報 > 馬に対する脂肪酸の効果・後半(アメリカ)【獣医・診療】
海外競馬情報
2007年01月26日  - No.2 - 2

馬に対する脂肪酸の効果・後半(アメリカ)【獣医・診療】


サラブレッドにとっての利点

 オーストラリアの獣医師兼栄養コンサルタントで、必須脂肪酸に関して広範囲の研究を行ったジェニファー・スチュアート(Jennifer Stewart)博士は、オメガ3脂肪酸は競走用サラブレッドにとりわけ有益であると述べている。

 「オメガ3脂肪酸は、赤血球に柔軟性を与え、赤血球壁の構造と生成に重要な役割を果たしていることが証明されました。赤血球のこの柔軟性は、馬の運動に有利となります。すなわち、赤血球が柔軟であればあるほど、赤血球は肺や筋肉の毛細血管を容易かつ効率的に通過し、酸素の取り込みと運搬および老廃物の除 去がいっそう効率的なります」。

 食餌中のオメガ3とオメガ6の比率は重要なので、オメガ3を補給する時には、まず食餌中のオメガ6を軽減できないかを検討すべきである、とスチュアート博士は述べている。追加的脂肪源として食餌にコーン油や大豆油をすでに加えている場合、切替えは簡単にできる。コーン油や大豆油などのオメガ6が豊富な油脂を追加する代わりに、カノーラ油または亜麻仁油の使用を奨めている。

 同博士は、「使用する油脂を変えることは簡単で、特に変更期間を置く必要もありません」と述べている。しかし不飽和脂肪酸が多い油脂の場合は、変質しないよう保存に一層の注意を払う必要があると忠告している。

 「未精製油脂は、より安定しています。天然の酸化防止成分が除去されたり、高温になった場合には、カノーラ油または亜麻仁油に含まれるリノレン酸はオメガ3結合とオメガ6結合の部分で酸化がおこります。精製油は、低温で保存されなければならず、また保存容器は内部に大量の空気が入らないように密閉されなければなりません」。同博士は、油脂を日常的に使用する小さな容器に分けるか、そうでなければ必要量を取り出せる蛇口がついた容器に保存することを提案している。

 オメガ3の補給および食餌中のオメガ6を減らす努力の一つの重要なメリットは、鼻出血として知られる運動誘発性肺出血 (exercise-induced pulmonary hemorrhage: EIPH)の治療効果である。

 EIPHは、大部分の馬の場合、能力を最大限に出しているときに起きる。EIPHの原因については有力説が二つある。ある研究者は、EIPHが起きるのは馬の心臓が最大の力で働いて血圧が上がり、肺の小さな血管がそれに耐えられずに破裂するレベルに達するときであると唱える。また他の研究者は、強度の運動を繰り返すことにより肺の機能的弱化が引き起こされると唱える。それは逆方向に何度も折り曲げられて折れるペーパークリップのようなもので、最大運動時の体組織がついに破れてEIPHが引き起こされる。二つの説には共通点が一つある。すなわち、伸びることのできない体組織が破れるということである。

 スチュアート博士は、「運動生理学者の多くは、EIPHの根本的病理は、弾性の喪失にあると認識しています。彼らは栄養学者を雑学者として軽視しているため、明白な解決策が見えていないようです」と述べている。

 同博士は、明白な解決策はオメガ3であると確信している。

 サラブレッドに関する別の研究において、同博士はオーストラリアで発症する夏癬(クイーンズランドイッチ:Queensland itch)のような皮膚疾患や弱質蹄(shelly hoof)は、オメガ3の欠乏の結果であり、食餌にオメガ3を加えることにより治癒することを発見した。

 カリフォルニア州ロスオリボスにあるアラモ・ピンタド馬診療所(Alamo Pintado Equine Medical Center)の創始者で所長のダグラス・ハーセル(Douglas Herthel)博士は、軟部組織の外傷から回復途上にある馬の食餌に、オメガ3を加えることを勧めている。外傷により、細胞中のアラキドン酸(オメガ6)がプロスチノイド(prostinoid)と呼ばれる炎症促進因子に変化する。オメガ3が抗炎症作用のある代謝産物を生成するため、オメガ3が豊富に含まれる食餌は、炎症の早期消散をもたらすことを発見した。同氏はまた、オメガ3が豊富に含まれる食餌は、関節内の軟骨を保護するのに役立つことを証明した。

 同氏は、腱と靭帯の負傷を回復させるための幹細胞移植療法の先駆者の1人である。処置後はリハビリテーションと適切な栄養摂取が重要になる。

 ハーセル博士は、「処置をしたあと、リハビリテーションは確実に重要になりますし、サプリメントも与えます。オメガ3による治療は、幹細胞に適切な栄養を行き渡らせるために特に重要です」と述べている。

繁殖にとっての利点

 スチュアート博士は、繁殖牝馬と種牡馬の両方にオメガ3を補給することに利点があることを証明した。

 同博士は、「6週間オメガ3サプリメントを与えた繁殖牝馬の乳は、感染症に対する免疫と抵抗力が高まっていました。すべての動物種の精子には、オメガ3脂肪酸、とりわけDHAと呼ばれるオメガ3が多く含まれています。オメガ6に対するDHAの比率が高くなると受胎率の向上をもたらしますが、逆の場合は低 下します」と2005年に報告している。

 馬の体内でできるオメガ3の最終生成物がDHAであるならば、馬がコーン油、米糠油またはその他の穀物製品を通じて大量のオメガ6を摂取している場合は特に、単にDHAを補給する方が理にかなっているといえる。

 スチュアート博士は、「純粋のDHAは、実験室にあるだけです。良質の魚油にはDHAが約22%含まれていますが、とてもまずいものです。馬に純粋魚油を与えようとするならば、仔馬の時から慣らさなければなりません」と述べている。

 テキサスA&M大学の研究者は、DHAが精子の運動性に与える影響を研究するため、種牡馬にDHAを豊富に含むサプリメントを与えた。人工授精に使用される冷凍または冷蔵精液の精子の運動性に重点を置いた研究により、DHAの補給は精子の運動性に効果があることが証明された。しかし、DHAの補給が自然交配のサラブレッドに効果があるかどうかという疑問は残る。

 コロラド州立大学(Colorado State University)の馬科学教授兼繁殖専門家のエド・スクイアーズ(Ed Squires)博士は、以下のように述べている。

 種牡馬、とりわけ高額な種牡馬を供用している牧場は通常、種牡馬の食餌を処方するために獣医師と栄養コンサルタントに相談する。したがって、DHAの補給で解決できるような栄養不足が起こる可能性は非常に低いと想定されるが、栄養不足でなくともDHAの補給は精液が足りない種牡馬に有効かもしれない。また同博士は、「精子膜は脂肪酸から形成されているため、受胎率が劣る種牡馬のために脂肪酸を取り入れるべきです。受胎率のよい種牡馬の場合でも、脂肪酸は、とりわけ種付け頭数が多い種牡馬に効果があります。実際に、豚とイノシシについては種付意欲を高めたと指摘されています」と述べている。

 昨年、種牡馬にDHAサプリメントを使用した人々に対して行われた非公式の調査で、スクイアーズ博士は、「DHAサプリメントは、種牡馬の種付意欲に影響を与えたか」という質問をした。同博士は、「多くの人々は、DHAサプリメントは種牡馬の種付意欲にプラスの影響を与えたと考えています。もし馬を管理していれば、私は問題のある種牡馬にDHAサプリメントを確実に使用すると思います。また、種付け頭数の多い種牡馬や種付に時間がかかる種牡馬にも使用してみるでしょう」と述べている。

製品の成分を理解する必要性

 飼料に含まれる脂肪酸の種類を理解するため、使用する飼料の脂肪源を確認すべきである。オメガ3含有量が少ない場合は、オメガ3脂肪酸を補給すべきである。今後の研究によって、オメガ3脂肪酸の必要量とオメガ6脂肪酸との比率が明らかになってくると思われ、より健康な馬を生産するための脂肪酸使用法を生 産者に提供できるようになるだろう。

By Kenneth L. Marcella, D.V.M. and Denise Steffanus

※脂肪酸とそのオメガナンバー

 オメガ3脂肪酸は効果がある。しかし、オメガ6脂肪酸は効果がない。それでは、オメガ9脂肪酸はどうであろうか。

 このような様々な種類の成分について知ることは重要である。これは、馬の管理者がこのような数字遊びによって混乱に陥り、また飼料会社とサプリメント会社のマーケティング情報によって動揺させられるからである。

 オメガ9脂肪酸は、自然界に存在する最も一般的な脂肪である。この脂肪酸は、ほとんど全ての動物が体内で合成できるので、食餌に含める必要はない。実際、オメガ9脂肪酸は、自然界にきわめて普通に存在するため、油脂ベースの食餌計画からオメガ9脂肪酸を排除することは、ほぼ不可能である。

 ステアリン酸とオレイン酸は、オメガ9型の2つの主要な脂肪酸である。ステアリン酸は、動物脂肪中に発見される最も豊富な脂肪酸であり、優れたエネルギー源である。ステアリン酸は、オレイン酸に転換できる。オレイン酸は、自然界に一般的に存在し、汗腺によって生成される主要な油脂でもある。馬はこれらの特定の脂肪酸を容易に摂取でき、または合成できるため、これらの脂肪酸を与えることは必須ではない。一部の会社の宣伝とは逆に、オメガ9脂肪酸は馬の食餌に添加される必要はないのである。

訳注:脂肪酸は炭素と水素の長鎖からなり、メチル基(CH3)ではじまる一端をオメガエンド、反対側のカルボキシル基(COOH)でおわる一端をデジタルエンドとよぶ。全ての炭素に水素が結合している脂肪酸を飽和脂肪酸といい、一部が水素で飽和されずに炭素同士の二重結合になっているものを不飽和脂肪酸という。オメガ側の三番炭素と四番炭素が二重結合で結ばれているものをオメガ3脂肪酸(オメガ6、オメガ9も同じ)という。

By Kenneth L. Marcella, D.V.M

〔Thoroughbred Times 2006年10月14日「The skinny on fatty acids」〕


上に戻る