仔馬の成長に関連した諸問題(イギリス)【生産】
馬のライフサイクルにおける最大の成長は誕生から離乳までにみられ、大抵の健康な当歳馬の場合、出生時には成体の体重の10%であったものが離乳時には50%まで育つ。6ヵ月時の離乳までには1日1キログラムを超えた体重増加が一般的であり、これは驚くべき成長率である。
成体時に500キログラムになると見込まれる当歳馬はその体重が出生時にはおよそ50キログラムはあるはずであり、6ヵ月時には250キログラム位に増える。なんと200キログラムの増加である。
だからこうした急成長率に関連した問題が多く発生するのは驚くようなことではないだろう。しかし、この厄介な問題の発生を減らすための管理手段はある。
セリ売りのために育成される仔馬は、発育期整形外科的疾患(Developmental Orthopaedic Disease: DOD)が見つかれば値段が下がってしまうので、生産者たちにはより大きな心配の種となる。もっともその前に、その1歳馬がセリに上場されるところまでたどり着いた場合の話であるが。
発育期整形外科的疾患(DOD)
DODは馬の骨格組織に関するあらゆる一般的な成長障害を総称する専門用語である。それは軟骨形成不全症(dyschondroplasia: DCP)、骨軟骨症(osteochondrosis: OC)、離断性骨軟骨症(osteochondritis dissecans: OCD)を含む。さらに、骨端炎(physistis)[いわゆる骨端症(epiphysitis)や骨端軟骨の形成不全(physeal dysplasia)]、あるいは肢軸異常(angular limb deformities)[いわゆる屈曲変形(flexural deformities)や 腱拘縮(contracted tendons)の併発あるいは単発]も含む。ウォブラー(Wobbler)症候群もDODに含まれるもう1つの異常である。
軟骨形成不全症(DCP)は、若馬において軟骨から化骨化への成熟過程を阻害する要因につけられた一般的名称である。明らかなことだが、馬の成長には、骨格も他の組織同様、成長しなければならない。骨格には軟骨で構成される骨端線(growth plate)という部位があり、これは最終的に骨に成熟する前に成長しなければならない。
初期に目に付く一般的な徴候には、とりわけ球節と膝の“コブ状に腫脹した”関節("lumpy”joints)がある。コブは関節の上部および/あるいは下部に現れ始め、その両側かあるいは片側だけに影響を与える。冬の間は若馬は冬毛で馬体が覆われているので、それらを見つけるのが難しい場合がある。時々これらの“コブ状に腫脹した”関節は発熱したり跛行を併発する。症状が重い場合は関節全体がテニスボールのように丸く見えることもある。
肢軸異常と腱拘縮もまた目に付く疾病の徴候だが、骨軟骨症(OC)と離断性骨軟骨症(OCD)は、しばしばかなり進行してから跛行や腫れのような臨床症状が現れるまで目立たないことがある。
これらの疾病に気付き、考え得る原因究明の手段を早急にとればとるほど治る可能性は高い。
DODの原因とは?
DODは多くの原因があって発症する。単独の原因による場合と複数の原因が組み合わさって発症する場合がある。原因が解明されているものも若干あるが、現在まだ不明のものもあり、骨格構造(conformation)、遺伝子配列、運動不足あるいは硬い馬場での運動、栄養などが関係していると考えられてきた。
栄養は、コントロールできる管理要因であり、集中的な調査が行われてきた分野の1つである。
近年の研究は穀類澱粉の多量摂取をDODの1つの原因とみなしている。これは、インスリンホルモンと関連があると考えられており、インスリンは比較的多量の穀類(デンプン)の摂取後に高濃度で分泌され、さらに成長ホルモンとして知られる重要ホルモンに影響を与える。
1日に多量の濃縮飼料を与えることはインスリン分泌を増やし、疝痛あるいは蹄葉炎の発症にもつながりかねない。そのため、澱粉を豊富に含む穀類の濃縮飼料は、1日の間に少量ずつ与えるのが望ましいが、仔馬用の餌つけ柵がなければ手間がかかりすぎる。餌つけ柵で仔馬が摂取し過ぎる場合は引き離し、1日3度に分けて少量ずつ給餌することが望ましい。飼料に油脂を加えることで血糖反応を減らすと考えられるので、適量の大豆やアマニ油を配合飼料に加えることは有効となるだろう。
今のところは世間一般に信じられている説とは異なり、高タンパクの飼料で仔馬が軟骨形成不全症(DCP)にかかりやすくなるかどうかは実証されてはいない。臨床試験で生後130日の当歳馬にアメリカ合衆国研究協議会(National Research Council: NRC)推薦の蛋白質量の126%が与えられたが、重大な悪影響は生じなかった。一方でNRCの推薦するカロリー量の129%ある食事を与えた当歳馬に は、広範囲に及ぶ軟骨形成不全症(DCP)が発症した。
発育が特に早い当歳馬や1歳馬にDODがより多く見られることは疑いない。DODが肥満した仔馬に、より多く認められることもある程度の証拠がある。しかしこれは過度のカロリー摂取および(あるいは)バランスの悪い飼料が原因かもしれない。
銅は軟骨の正常な成長に不可欠な酵素を作るために必要である。研究によれば、1キログラム当たり10ミリグラム以下の銅含有量しかない妊娠牝馬および当歳馬用飼料はDOD発症の原因になる。
大型か肥満の当歳馬は出生時からDODに罹患しないよう注意深く見守る必要がある。そのために栄養摂取量を馬の成長度合いに合わせることが必要だ。ある当歳馬の成長が他の馬に比べて速い場合には、特に良質のアミノ酸とミネラルなどの栄養素がこの成長率を支えるために必要である。成長は規則正しく体重測定をして監視し、その後濃縮飼料の調合をすべきである。また、ミネラルと良質たんぱく質の摂取量を維持させなければならない。一方で発育が特に早い当歳馬については、成長中の骨格への負担を軽減するためにカロリー量を減らすこともできる。出生後の2〜3週間、ミネラル摂取量が特に低いなどの難題がある場合は、経口投与による特製のビタミンとミネラルサプリメントを短期間与えても良い。
もし仔馬がDODと診断されれば、ただ空腹にさせるのではなく、前述の通りカロリー摂取量を減らし、良質のアミノ酸、ミネラル、ビタミンの摂取量は維持するようにすれば、仔馬の成長を支えながらその体重を少しずつ減量させるのに有効なはずである。
空腹の仔馬には苦痛がともなうだろうが、ただ良質の微量栄養素を高濃度に含有する低カロリー飼料を与える方が良い。運動再開の時期については獣医師の指示が不可欠であり、発熱や跛行のような目に見える徴候が消えるまでは曳き運動が良いだろう。
さらに、良質飼料を与えることの重要性はいくら強調してもし過ぎることはないが、バランスがとれているかどうかを分析し確定することも重要である。
骨格組織の成長・強化を促進するために、健康な仔馬を十分に運動させるのは不可欠だが、硬い馬場の運動が原因でDODになることも時折ある。
牧草や飼料の摂取をサンプリングして給餌バランスを良くし、それがアンバランスである場合、これを補うために特にミネラルなどを含む濃縮飼料を調合することも大切である。
飼料は特にカルシウム、リン、銅、亜鉛についてよく調べた方が良い。カルシウムとリンとの割合も当然正しい範囲内にあるべきである。
実際的な管理方法
- インスリン分泌を増大させる多量の澱粉主体の濃縮飼料を与えずに、代わりに総合飼料に十分な良質の蛋白質が含まれるように確保する。
- 血糖反応を減らすために、少量の油脂を飼料に加える。
- 成長に必要なあらゆるミネラルとビタミンを含有するバランスの良い飼料を与える。可能であれば、特に夏の放牧時は適切に配合された低カロリーの、スタッドバランサー(stud balancer栄養バランスを摂るための牧場用飼料)を与える。
- バランサーまたは仔馬用飼料の推薦給餌量を与える場合は、ミネラルのバランスが損なわれるおそれがあるので、ミネラルの入った容器は他の場所で管理しておくべきである。
- 飼料全体が栄養的にバランスが取れるように牧草と飼料を分析する。
- 出生から成長していく割合を監視してそれに従って常用飼料を調整する。
- 仔馬に調教を付け過ぎないようにする。仔馬が肥満気味であるようなら、成長の割合からするとエネルギー過多になりつつある。これは牧草が エネルギー(カロリー)価を増す春によく起こり、濃厚飼料部分としては考慮されていない。カロリーが減っている場合には、スタッドバランサー(stud balancer)を与えて良質の蛋白質、ビタミン、ミネラルの補給を続けるように維持するようにする。
- 骨密度を増やすのに有効なので仔馬を十分に運動させるようにする。しかし馬場が硬い時は気をつける。
- DODの罹患が明らかになったら、カロリー摂取量を減らし、蛋白質、ビタミン、ミネラルの投与を続ける。DODの臨床的徴候が明白な場合は発熱や跛行が消えるまでは運動は曳き運動だけに制限する。
By Zoe Davies MSc.Eq.S.,R.Nutr.
[Pacemaker 2007年3月号「Common growth-related problems in youngstock」]