WTOが競馬に関する例外規定に異議(アメリカ)【開催・運営】
世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)は、最近成立した米国のインターネット賭事禁止法で競馬を適用除外したことに異議を唱えている。
WTOの小委員会は3月30日、海外の賭事サイトへの支払を禁止した米国のインターネット賭事禁止法が、2005年4月のWTOの決定に従っていないと裁定した。WTOは、米国があるケース(すなわち競馬)において、例外的に国内の顧客にインターネット賭事の道を開いておきながら、海外の賭事業者が米市民の投票を受け付けるのを一切禁止していることは、サービスの貿易の自由化を阻害しているとした。
小委員会は、2006年秋に上下両院で可決された違法インターネット賭博禁止法(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act: UIGEA)での勝馬投票適用除外などを重点的に扱っている。アンティグア・バブーダのジョン・アッシュ(John Ashe)WTO大使は、UIGEAに定める例外は2005年4月のWTOの判決に反するものであると述べている。
同大使は、「私たちは、当初から米国のインターネット賭事の禁止措置は、遠隔賭事に伴う何らかの真の“悪”に基づくというよりもむしろ、サービスが国境を越えるという点に基づいたものであると主張してきました」と述べている。
米国通商代表部(Office of the United States Trade Representative)のグレチェン・ハメル(Gretchen Hamel)氏は、「WTOの履行確認小委員会の結論は、米国が2005年4月のWTO判決を遵守するために必要な措置を講じていないとのことだが、米国 は決定をほぼ遵守していると確信している。競馬が適用除外とされていることが問題となっている」と述べている。
同氏は「特に、米国は競馬の遠隔賭事に関する米国の賭事関連法の側面について理由を明らかにする必要がありますが、この点について小委員会の納得は得られておりません」と述べている。
米国は今後の方針を検討している。小委員会の報告に対する上訴期限は5月30日までとなっている。米国は、UIGEAは海外のインターネットカジノとポーカーサイトに引き続き適用されるが、競馬には適用されないとしている。
ハメル氏は、「2005年4月のWTO決定と今回の3月30日の小委員会報告において、制限が差別的でない限り、WTO加盟国はインターネット賭事に対する制限を継続できることを明らかにしています」と述べている。
カリブ海に浮かぶ人口8万人の国で、これまでにWTOに不服申立をした国の中で最小の国であるアンティグア・バブーダは、パーティー・ゲーミング社(Party Gaming)を含む30を超えるインターネットカジノの本場である。パーティー・ゲーミング社は、米国がUIGEAを可決して、米国の顧客からの馬券購入の申し込みを受け付けるのを止めさせるまで、インターネット・ポーカーのリーダーであった。UIGEAは米国の顧客から海外の賭事業者への支払を金融機関が取り扱うことを禁止している。
米司法省(Justice Department)は、もう1つの賭事関連法である1961年電信法(Wire Act of 1961)がすでにインターネット賭事を禁止していると主張している。同省は、米国が自国の領土内でインターネット賭事を禁止していることと、海外の賭事業者に自国の市場を開放する必要のないことの根拠として同法を引用している。
しかし、WTO小委員会は、司法省が米国内で競馬業界を訴追していないことを、司法省が米国における競馬へのインターネット賭事を合法と認めている証拠として挙げている。小委員会は報告書の中で、「米国の賭事業者が実際に電信法に違反しているか否かは明確でないが、これらの賭事業者の中で訴追されている業者がいないのは明らかである」と述べている。小委員会は、「UIGEAはある種のインターネット賭事を明らかに例外としている」と付言している。
全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association: NTRA)の上席副理事長キース・シャンブリン(Keith Chamblin)氏は、「WTO履行確認小委員会の裁定は出たが、これが直ちに競馬業界に影響を及ぼすことはなく、上訴手続後のWTO決定に至るまで、法律上の紆余曲折がさらにあるであろう」と述べた。
シャンブリン氏は、「WTO履行確認小委員会の裁定は、驚くにあたりません。私たちは、米国はこの裁定に対し上訴できると理解しており、おそらく上訴することになると思います。したがって、WTOがインターネット賭事に関する米国の法律にどのように影響するかについてあれこれ推論するよりも、上訴手続がどのような結果になるかを見極めることが重要です」と述べている。
WTO小委員会は、WTOの2005年4月の判決を遵守しなくてすむようにするため、米国はあいまいな法律を意図的に可決したと述べた。そして米国は一方で、電信法はすべてのインターネット賭事を包括的に禁止していると指摘しながら、他方では例外を正当化するためにUIGEAを利用していると述べている。
参考(概略)
2003.03 | アンティグア・バブーダは、米国が越境インターネット賭事を制限しているのはサービス貿易の自由化を阻害しているとしてWTOに提訴 |
2004.11 | WTO小委員会はアンティグア・バブーダの主張を支持。米国は上訴 |
2005.04 | WTO上級委員会(最終審)は公序良俗のために越境インターネット賭事を制限できることを追認。しかし、『州間競馬法(米連邦法)』はサービス貿易の自由化を阻害しているとして是正を勧告 |
2005.08 | アンティグア・バブーダは、米国が『2005.04の決定』を遵守していないとしてWTOに提訴 |
2006.10 | 『米国はインターネット賭博禁止法』を施行。ただし競馬は適用除外 |
2007.03 | WTO履行確認小委員会が裁定 |
By Frank Angst
〔Thoroughbred Times 2007年4月7日「World Trade Organization frowns on horse racing exemption」〕