競走馬生産者は生産過剰を見直すべき時(アメリカ)【生産】
ジョッキークラブは繁殖報告書(Reports of Mares Bred)で、2009年の生産頭数の予測を3万5400頭と公表した。これは、2008年の生産頭数の予測は3万6600頭であり、2009年は前年比3.3%減少となる。
多くの人が生産頭数をもっと減らすべきだと確信している。
2009年の生産頭数の予測について、ピンフッカー(1歳馬セリで購入した馬を馴致・調教し2歳馬トレーニングセールで売却する専門業者)のエディ・ウッズ(Eddie Woods)氏は、厳しい見方をしている。
同氏は、8月18〜21日に開催されたオカラ・ブリーダーズ・セールズ社(Ocala Breeders' Sales Co.: OBS)の1歳馬セリで売上げが大幅に減少したのを見て、「基本的に、凡庸な馬が過剰生産された結果だと思います。繁殖牝馬が多すぎます」と述べた。
サラブレッドの生産頭数は馬価格の高騰とともに、1980年代に劇的に拡大し、セリ市場も活況を呈した。生産頭数の推移を見ると、1980年に3万5679頭だったのが、1985年には5万433頭になり、ピークの1986年には5万1296頭となり、1987年は5万917頭となった。ほんの数年 のうちに生産頭数の規模は44%近く急拡大した。
その後は冷徹な市場原理が働いた。供給過多により馬価格は下がったばかりでなく、資金に余裕のない人々の多くはセリ市場から去った。1994年には生産頭数は3万5341頭と、概ね1980年の水準に戻り、それ以降はその前後で推移している。
1980〜1989年の10年間の生産頭数は46万3827頭だったが、1990〜1999年の10年間は37万5302頭で19%減少した。2000〜2009年の10年間の生産頭数は37万1633頭と見込まれ、前の10年間より約1%減少することになる。
過剰生産が続いているのは、セリにより予想外の高値で売れる可能性のあることや北米中で売られる1歳馬の安定した平均価格である。2007年に公開のセリで売れた1歳馬1万159頭の平均価格は5万5306ドル(約608万3660円)だった。なお、世界最大のセリ開催であるキーンランド9月セールの平均価格は、過去3年いずれも10万ドル(約1100万円)を上回った。
2008年9月8〜21日に開催されるキーンランド9月セールのカタログによれば、5555頭という記録的な数の若馬が上場される。これは全米の生産頭数の約14%に相当する。
1年前のキーンランド9月セールでは15日間で、上場された1歳馬4901頭のうち3799頭が売却された。しかし、ブラッドホース誌の見積もりによると、種付料を基にすると、利益が出たのは1235頭で上場馬の25%に過ぎない。
これは多くの生産者が利益を出していないと言うことではない。もし10頭をセリに出し、2〜3頭が残りの馬の分を賄えるほどの価格で売却されれば、最終的な収益は好ましい結果になる。
しかし現在は、生産者はより高い種付料を支払わなければならないばかりか、原油価格と飼料の高騰による生産費の上昇がある一方で、ピンフッカーは購買馬に対して今後より大きい投資を行う必要(経費の高騰)があるため、1歳馬をより安く購買しようとするであろう。その上に経済不況も加わり、生産者の心配の種は尽きない。
多くの生産者とコンサイナーは、キーンランド・セールの1週目は血統と馬格が良い馬の大半がカタログに載っているので良好な売上げを維持するが、後半のセリは顕著な低迷に見舞われるだろうという考えを示した。2008年のOBSの1歳馬セリでは、購買頭数が20.5%減少し、総売上げは4.6%減少、平均価格は17.7%落ち込んだ。
現在妊娠している繁殖牝馬は、2000〜2009年の期間の最後の年(2009年)に出産する。生産者は自らの経営戦略を決定するために、産駒全体の価値を評価し生産頭数を見直さなければならない。2000〜2009年の生産頭数は、前10年間と比べて約1%しか減少しないだろう。近年、種牡馬が減少している一方で1頭当たりの種付数が増加している。種牡馬の減少は、悪いことではないのだが、1頭当たり種付数の増加によってセリに上場される半兄弟の頭数が記録的水準に増えている。キーンランド・セールの新種牡馬リストと各種牡馬の種付頭数を見さえすれば、この状況が分るだろう。
1998年米国には現役種牡馬は4513頭いたが、商業的見地からみて価値のある種牡馬はそのうちの僅かであった。2006年には種牡馬数は3682頭まで減少した。種牡馬は減っても繁殖牝馬は減っていない。ウッズ氏が簡潔に表現したように、凡庸馬の過剰生産は誰にとっても良いことではない。
By Dan Liebman
(1ドル=約110円)
[The Blood-Horse 2008年8月30日「What's Going On Here―Paint by numbers」]