ファロン騎手裁判、無罪判決、関係者の反応(イギリス)【その他】
2007年12月7日、競馬界で最も注目を集める八百長疑惑の裁判が決着し、キーレン・ファロン(Kieren Fallon)騎手と5人の共同被告は晴れて自由の身となったが、納税者は1,300万ポンド(31億2,000万円)の裁判費用などを負担し、警察と競 馬統括機関は質問攻めにあうはめになった。
注目を浴びている当事者は、ロンドン警視庁、検察局(Crown Prosecution Service: CPS)、および英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)である。BHAの保安部門は、ポール・スコットニー(Paul Scotney)氏が率いている。この事件で、ロンドン警視庁は捜査に300万ポンド(約7億2,000万円)を費やした。ファロン騎手の弁護団は双方の 裁判費用を1,000万ポンド(約24億円)を下らないと見ている。
2ヵ月に及ぶ検察側の起訴理由説明のあと、フォーブス(Forbes)裁判官は以下のことから証拠不十分だと述べた。
無罪判決は、鑑定証人であるオーストラリア競馬界の上席裁決委員レイ・ムリヒー(Ray Murrihy)氏がした証言が決定打となった。裁判官は鑑定証人の証言の信憑性には“重大な問題点と欠落している部分”があったと述べた。
ムリヒー氏は嫌疑がかけられている27レース中13レースに問題ありと判定した。しかし、法廷においてムリヒー氏は、「私がイギリスやその他の国の競馬規則を熟知する義務はありません」と述べた。
フォーブス裁判官は、「イギリスの競馬ルールに従いイギリスで施行された27レースについて証言するとされているのに、ムリヒー氏の発言は驚くべきもの でした。彼の発言は自分(ムリヒー氏)には嫌疑が掛けられたレースについて証言をする資格がないと言うに等しいです」と語った。
ファロン騎手、ファーガル・リンチ(Fergal Lynch)騎手、ダレン・ウィリアムズ(Darren Williams)騎手、大口馬券購入者のマイルス・ロジャーズ(Miles Rogers)氏、フィリップ・シャーワル(Philip Sherkle)氏およびリンチ騎手の兄弟であるショーン・リンチ(Shaun Lynch)氏は、詐欺共謀で告訴されていたが、フォーブス裁判官の法廷で陪審団から無罪を宣告された。
ファロン騎手の雇い主のクールモア牧場(Coolmore)は、この判決を歓迎する一方で、同騎手に対して課せられた騎乗停止処分について“はなはだ遺 憾であった”と述べている。エイダン・オブライエン(Aidan O'Brien)調教師は、自身の厩舎の騎手が嫌疑を晴らした“安堵と喜び”をレーシングポスト紙に語った。
ファロン騎手は法廷から出て来た際、支持者と、記者、カメラクルー集団からの歓呼に応じた。短い会見で、「私はもちろん安堵し喜んでいますが、憤りも感じています。まったくの冤罪です」と述べた。
同騎手の広報担当であるブライアン・マックローリン(Brian MacLaurin)氏は、「この裁判は莫大な税金の無駄づかいです。捜査のいたるところにキーレン・ファロンの無罪を証明する多くの証拠がありました」と付言した。
ファロン騎手はその後、「BHAが取った行動は私にいろいろな意味で苦痛をもたらしました」と付言している。
チャンピオンジョッキーに6回なったことのあるキーレン・ファロン騎手は、17ヵ月間イギリスで騎乗停止処分を受けていたが、現在自由に復帰することができ、2008年にチャンピオンジョッキーとして7回目のタイトルを獲得することに17倍のオッズがついている。
ウィリアムズ騎手とリンチ騎手は現在、騎乗免許を再申請することができる。しかしBHAは優先事項として、懲戒処分に値する重度の競馬規則の違反があったかどうかを検討するために裁判証拠を見直す予定である。
ファロン騎手の弁護団は、警察の捜査を非難し、直ちに警察の供述書に対する調査を要求した。特にBHAを担当し現在引退しているマーク・マニング (Mark Manning)元警部の供述についてである。また同弁護団は、CPSのこの事案を告訴する経緯についての調査も要求した。
BHAの広報担当ポール・ストラサーズ(Paul Struthers)氏は、いずれにせよそれは“競馬界にとって悲しいエピソード”であると述べた。同氏は、裁判中に同騎手を騎乗停止する決定の経緯につ いて、「この決定は最高裁判所の元裁判官が議長を務める上訴委員会により支持されました。この様な問題は私たちがこれからも議論を続けるべき問題です」と 付言した。
この事案はベッドフェア社(Betfair)がベッティング・エクスチェンジ賭けに不正の嫌疑が掛けられたレースの投票記録の詳細をジョッキークラブ(Jockey Club)に報告したことで始まったが、同社は12月7日、裁判の結果についてコメントを控えた。
2004年にこの事案を取り上げたロンドン警視庁は、この事案を“今まで着手したこの種の事案のなかで最も大きな捜査である”とし、捜査に反省すべき点はないと主張した。
指揮をとったパトリック・ライス(Patrick Rice)氏は、「この種の捜査にはリスクがつきものです。私たちは入手した情報に従い、証拠に基づき行動します。私たちは捜査申立があれば職責をまっとうします」と述べた。
CPSのアスカー・フセイン(Asker Husain)弁護士は、CPSがこの事案を起訴したことは正しかったと述べた。
2006年7月 | 警察に告発。イギリスで騎乗停止。 |
2006年11月 | フランスで6ヵ月の騎乗停止。(国際的騎乗停止) |
2007年6月 | フランスの騎乗停止期間終了。(イギリスでは停止期間は続く) |
2007年12月 | 無罪。イギリスで騎乗可能。 |
2008年 | コカインによる長期にわたる国際的騎乗停止か? |
By Bill Barber
[Racing Post 2007年12月8日「Fallon’s anger and relief as judge halts fraud case」]