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2008年10月17日  - No.20 - 1

オブライエン調教師、チーム戦術で過怠金5000ポンド(イギリス)【その他】


 9月25日英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)の懲罰委員会において、8月のインターナショナルSでデュークオブマーマレード(Duke of Marmalade)が優勝した際に、チーム戦術が使われたかどうかについて審理が行われた。同委員会はエイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師に競馬施行規程違反があったと裁定した。

 3時間にわたる聴聞のあとBHAの懲罰委員会は、多数のG1を制しているオブライエン調教師には5000ポンド(約120万円)の過怠金、ジョニー・ムルタ(Johnny Murtagh)騎手とコルム・オドノヒュー(Colm O’Donoghue)騎手には7日間の騎乗停止処分の裁定を下した。この裁定に対する不服申し立てをするか否かは、裁定後7日以内に決めなければならない。騎乗停止期間はこの7日間が過ぎてから開始する。BHAは、10月5日の凱旋門賞には、その日にイギリス国内で平地競走が施行されないため、2人の騎手は自由に騎乗できると述べた。

 BHAはインターナショナルS(ニューマーケット競馬場)におけるオドノヒュー騎手の騎乗ぶりを検討し、同騎手がゴール前の直線で後ろを振り返り、レッドロックキャニオン(Red Rock Canyon)を内柵から離して外へ出し、ムルタ騎手のデュークオブマーマレードを通過させる進路を開け、5回目のG1勝利に導いたのではないかとの嫌疑により、懲罰委員会に対して審理を求めた。

 この審理において、オブライエン調教師は施行規程違反を否認した。しかし懲罰委員会は、オドノヒュー騎手が自身の規程違反行為を認めたこと受けて、オブライエン調教師が同騎手に、“ペースメーカーはもう1頭の馬に有利になるように騎乗してはいけない”という明白な指示を与えていなかったと判定した。懲罰委員会のティム・チャールトン(Tim Charlton)委員長は、「これは打算よりもむしろ無知から発生したのであり、故意ではありません」と述べた。

 懲罰委員会は、ムルタ騎手の行為をオドノヒュー騎手と“手筈を整えて行われたものである”と裁定し、同騎手には英国競馬の適正な実施に反する行為があったと判定した。3名は一言もコメントせずに、BHA本部を後にした。

 ムルタ騎手は、「君は残り4ハロンのところで、柵からはなれて内側を開け道を譲ってくれ」とオドノヒュー騎手に話したとの報道があるにもかかわらず、“チーム戦術”の規定にはこれに触れる条項がなく、制裁の対象とならないとされていた。

 ところがBHAは9月23日になって、ムルタ騎手についても、同じオブライエン厩舎に所属するオドノヒュー騎手に、当日の騎乗の仕方を実際に指示・誘導し、施行規程220条(i)[規程違反の幇助・扇動]、220条(iii)[英国競馬の公正確保・適切な実施・名声の侵害]違反したかどうかについて、懲罰委員会に対し審理を求めると発表し、25日に審理が行われた。

 9月25日の審理に先駆けて、オドノヒュー騎手はすでに自身が規定違反を行ったことを文書で認めた。一方ムルタ騎手は、自身の発言が報道のとおりであると認め、自身とオドノヒュー騎手との間に了解があったと付言した。両騎手は、施行規程違反しているという意識はなかったと述べた。

 オブライエン調教師は、両騎手間の取り決めがあったかどうかは知らないと述べ、2006年クイーンエリザベス2世Sの一件からずっと自身がペースメーカーの問題について過敏になっていることを認めた。その一件とは、同競走でジョージワシントン(George Washington)の優勝後、フランキー・デットーリ(Frankie Dettori)騎手がバリードイル勢(クールモア牧場+オブライエン厩舎)のチーム戦術を非難した件である。しかし、そのあと不正行為の嫌疑は否定された。

 BHA側のグレーム・マックファーソン(Graeme McPherson)弁護士との激しいやり取りにおいて、オブライエン調教師は「不公正だと見られるような方法で勝つことは絶対したくありません。不公正だと見られるぐらいなら負けるほうがましです」と繰り返した。

 オブライエン調教師は、2007年3月に発効したチーム戦術の規定改正について、それを知ったのは、2008年9月中旬のセントレジャー開催でドンカスター競馬場の検量室で騎手に規定文が配布された時であったと述べた。

 同調教師は、オドノヒュー騎手がムルタ騎手のために進路を開けた行為に絶対に加担していないと述べた。

 同調教師は、「私はこのことについてこだわりすぎといえるほどで、他人に対する妨害あるいはトラブルがあってはならないと、おそらく100回は繰り返し騎手に言ったでしょう」と語った。

 同調教師は、インターナショナルSの日にオドノヒュー騎手にどのような指示をしたか覚えていないと述べたが、次のように付言した。「あなたが事実をねじまげて私を尋問しても私の答えは同じです。私はそのようなこと(チーム戦術)を考えたことはありません。問題のレースを見た時に、2人の騎手がこんなことを考え出していたとは思ってもいませんでした」。

 オブライエン調教師は、ムルタ騎手のチーム戦術に関するメディアへのコメントについて、同騎手は“はしゃぎ過ぎていて”しかも“アドレナリンに満ちていたため”言い過ぎたのだと説明した。

 同調教師は、「ムルタ騎手がこれ以上このことについて話さないでしょうから、なんとも仕様がないでしょう。メディアの中には彼を非難する人もあるようですが、まったくナンセンスです」と語った。

 ムルタ騎手は、オドノヒュー騎手に、「君が疲れた時には、僕の邪魔だけはしないでくれ。もしレースに勝つ見込がなくなったときは、君はいつでも仲間の騎手たちに少しスペースを開けることはできるだろう」と話したと述べたが、他方オドノヒュー騎手は、自分はチーム戦術規定の改正を知らなかったし、誰かに有利になるレース運びをするという意思もなかったと述べた。

 ムルタ騎手は、施行規程153条[チーム戦術等に関する規程]の文言を知らなかったことについて「私は自分を責めています。もっとしっかり認識しておくべきでした」と述べた。

 BHA側のマックファーソン弁護士は、「要するに、ムルタ騎手はただ単に便乗しただけであるとは言えず、それ以上のことをしたのだ」と主張し、「あらかじめ打ち合わされており、許容される行為ではない」と述べた。

 ジョン・ケルシー=フライ(John Kelsey-Fry)弁護士はバリードイル勢の3人を代表して、「いずれの騎手も自らの行為が規程違反に該当するという認識はありませんでしたし、オブライエン調教師も公正確保は競馬にとって不可欠の重要性を持つと考えています」と述べた。

 ケルシー=フライ氏はオブライエン調教師の処分に関して、今回のBHAの行動は競馬にとって最も利益になるよう考えた上のものであったかどうか疑問があると述べた。

オブライエン調教師、不服申し立てせず

 オブライエン調教師は9月26日、8月のインターナショナルSでのチーム戦術に関する懲罰委員会の9月25日の裁定で制裁を課されたことについて失望を表明した。

 しかしオブライエン調教師は、自身も2人の騎手もこの罰則に関して不服申し立てしないと付言した。

 一方BHAは9月25日、今回の懲罰委員会の裁定結果を受けて、現時点ではチーム戦術に関する規定を見直す計画はないと述べた。

 BHAの広報担当ポール・ストラサーズ(Paul Struthers)氏は、「施行規程の見直しが行われるかどうかを述べるのは時期尚早です。シーズン中に発生したすべての重要な事象は、施行規程の変更の可否を含めて検討され、本件についても当然この冬に検討されることになるでしょう」と述べた。

 BHAは、デュークオブマーマレードをめぐるチーム戦術疑惑が惹き起こした混乱はあったが、裁決委員にチーム戦術についての具体的な指示を与える予定はない。

レーシングポスト紙の見解

 英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)は、近いうちにただの“英国競馬(BH)”に改名しても差し支えないだろう。現在、同団体に著しく欠如しているものは権威(Authority)である。

 オブライエン調教師、ムルタ騎手およびオドノヒュー騎手が出頭したチーム戦術に関する懲罰委員会の審理は、以下のとおり開始時の出頭要求の遅れから残念な結末に至るまで大混乱であった。

 第1に、インターナショナルSを担当したBHAの裁決委員は、施行規程違反があったこと、あるいは少なくとも審議すべき問題があったことを見逃していた。

 第2に、BHAはオブライエン調教師とオドノヒュー騎手は規程違反の疑いで懲罰委員会の審理を受けると発表したが、ムルタ騎手については制裁を与える根拠となる条項がないと説明していた。

 第3に、BHAは考えを変えて、根拠となる条項があると判断し、ムルタ騎手を審理対象とした。

 第4に、BHAは3人の出席者すべてに規程違反があったと判定し、この違反は規程に対する無知のために惹き起こされたと発表した。有給役職員や有給裁決委員の情けない仕事ぶりをみずから皮肉ったと思わなかったのだろうか。

 第5に、騎手たちが手筈を整えていたことをオブライエン調教師が認識していたという証拠はないにもかかわらず、同調教師を規程違反と判定したが、その推論の恐ろしさに法律専門家は思わず後ずさりしたほどである。

 結局、今回の審理結果は、すべての公正を司る体制にとって必須の前提条件である“権威に対する敬意”を得るのにほとんど役に立たたず、BHAの創立初期における残念なひとこまとなった。

 これが例外的な出来事であれば、残念なことで済むだろうが、実際はそうではない。BHAは、さまざまな問題において大局観を欠き不器用であることを証明している。

 ファロン裁判の際に証言台に立ったBHA保安担当理事のポール・スコットニー(Paul Scotney)氏の惨憺たる仕事ぶり、またその後には内部情報の悪用をめぐる調教師たちとの不必要に“些細なことで労力を使う(木の実を割るのに大型のハンマーを使う)”紛糾が続いた。内部情報に関する問題ついては、BHAは再三考えを変え、現行のガイドラインをあらゆる角度から検討するために作業部会 を再招集せざるを得なかった。

 さらに広い領域では、BHAは来年の4つの日曜日において競馬を開催しないことを決定した。このことは、心から休日を必要としている一部の競馬従事者には歓迎された。しかし休日は、いくつかの開催への参加を見送ることでいつでも自由に取ることができるのだから、これは忌まわしい決定である。

 競馬は市場占有率と世間の注目を集める競争に負けており、ブックメーカーの競馬賭事利益からの賦課金を競馬界が強く求めているなかでの、4回におよぶ日曜開催の中止は、BHAの経営とリーダーシップの衝撃的な失敗を意味している。

 英国競馬は信頼できる統括機関を必要としている。競馬は、四六時中パイが縮小しているのだから、パイの分け前をめぐって党派的な言い争いを見世物にしている場合ではない。リーダーシップが切に求められている。

 BHAは、その核心的権限である“統治と取締り”への信頼を回復する義務がある。

 今のところ、お粗末な失態が多いようだがBHAは名実ともに競馬統括機関を目指すべきである。

(1ポンド=約240円)

[Racing Post 2008年9月26日「O’Brien hit with £5,000 fine over team tactics」By Jon Lees]
[Racing Post 2008年9月27日「’Disappointed’ O’Brien won’t appeal」By John Sexton and Tony O’Hehir]


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