出走回数減少傾向の原因分析(アメリカ)【開催・運営】
ラリー・ブラムラーゲ(Larry Bramlage, D.V.M.)獣医学博士の洞察力は、常に因循な考えを打破し、今日の競馬ビジネスの動向を鋭く分析してきた。
同博士はいかなる会議においても独自の見解を発表して関心を集めることで定評があるが、先月、競馬関係の問題を討議するジョッキークラブ・ラウンド・ テーブル(the Jockey Club Round Table on Matters Pertaining to Racing)においてもいくつかの興味深い所見を披露した。
ジョッキークラブのメンバーであり、サラブレッド安全委員会(Thoroughbred Safety Committee)の委員でもある著名なブラムラーゲ獣医学博士は、馬の1年間または現役中における平均出走回数の減少をめぐる誤解について講演した。
近年の平均出走回数の減少は統計的に明らかである。北米の競馬における出走馬1頭あたりの平均出走回数は、2007年に過去最低の6.3回に落ち込んだ。1988年は8回であった。
ブラムラーゲ博士は、平均出走回数の減少の説明はあいまいな情報に基づく推測によって歪められていると断言し、8月17日に行った講演で推測のいくつかを批判した。まず、ブラムラーゲ博士は、2歳時の競走によって競走馬の健全性が低下することがその現役生活を短くしているとの推測を批判し否定した。同博士は、ジョッキークラブ情報システム(Jockey Club Information Systems)から、1975年から2000年を5年ごとの期間に分けて各期間に初出走した馬を2歳で初出走した馬群と3歳以上で初出走した馬群に分類 しその平均生涯出走回数を比較したところ、
どの5年間においても2歳で初出走した馬群の方が生涯出走回数が多いことを示していると述べた(図1)。
同氏は、2歳で初出走した馬群における2歳時の出走回数(プラスα)だけがこの差異に繋がっているものではないと語った。加えて、2歳で初出走した馬群は、平均生涯賞金獲得額と1出走あたりの平均賞金獲得額が高く(図2、3)、ステークス勝馬率も3倍近くを占めていることを補足した(図4)。
2つ目の推測からくる伝説に、1980年代以降の競走馬生産の商業化とともに、せり名簿に登載する馬の健全性が低下していたというものがある。ブラムラーゲ博士はそれを否定し、25年以上におよぶデータをサンプリングしたところ、血統登録した当歳馬総数の70%、そして1歳セリに出された馬の約80%は出走しており、2歳トレーニングセールに出された馬の80%以上が競馬場でデビューを飾ったことを明らかにした。
もう1つの推測は、出走機会を待っている古馬が減少しているというものである。ブラムラーゲ博士は、5歳以上の現役馬の数は産駒数の30%以上の数値で安定していることをデータが示していると述べた。
この著名な獣医学博士は、過去10年間における年間出走回数の減少の大きな要因は、レース編成数の減少と、これと相関しない1レースあたりの平均出走頭数の減少、および競走馬資源の増加であると指摘した。
2007年収得賞金別主要調教師 |
|||||||
調教師 | 出走馬 |
出走 回数 |
平均 出走回数 |
勝馬 |
勝馬 /出走馬 |
収得賞金 |
収得賞金 /1出走 |
T・プレッチャー (Todd Pletcher) |
337 | 1,227 | 3.6 | 179 | 53.1% |
2811万5697ドル (約30億9273万円) |
2万2914ドル (約252万円) |
S・アスムッセン (Steve Asmussen) |
538 | 2,273 | 4.2 | 295 | 54.8% |
2389万9544ドル (約26億2895万円) |
1万515ドル (約116万円) |
B・フランケル (Bobby Frankel) |
160 | 566 | 3.5 | 75 | 46.9% |
1216万8627ドル (約13億3855万円) |
2万1499ドル (約236万円) |
D・オニール (Doug O’Neill) |
306 | 1,046 | 3.4 | 110 | 35.9% |
1015万6219ドル (約11億1718万円) |
9710ドル (約107万円) |
W・モット (William Mott) |
207 | 773 | 3.7 | 96 | 46.4% |
994万8867ドル (約10億9438万円) |
1万2870ドル (約142万円) |
S・レーク (Scott Lake) |
500 | 2,345 | 4.7 | 278 | 55.6% |
972万4556ドル (約10億6970万円) |
4147ドル (約46万円) |
R・デュトロー (Richard Dutrow Jr.) |
199 | 659 | 3.3 | 104 | 52.3% |
960万4524ドル (約10億5650万円) |
1万4574ドル (約160万円) |
K・マクラフリン (Kiaran McLaughlin) |
151 | 524 | 3.5 | 75 | 49.7% |
927万7203ドル (約10億2049万円) |
1万7705ドル (約195万円) |
G・コンテッサ (Gary Contessa) |
296 | 1,230 | 4.2 | 126 | 42.6% |
759万7713ドル (約8億3575万円) |
6177ドル (約68万円) |
J・ホレンドルファー (Jerry Hollendorfer) |
267 | 1,012 | 3.8 | 146 | 54.7% |
730万9698ドル (約8億407万円) |
7223ドル (約79万円) |
B・バファート (Bob Baffert) |
116 | 430 | 3.7 | 51 | 44.0% |
715万72ドル (約7億8651万円) |
1万6628ドル (約183万円) |
H.G・モーション (H. Graham Motion ) |
163 | 646 | 4.0 | 91 | 55.8% |
656万2654ドル (約7億2189万円) |
1万159ドル (約112万円) |
A・デュトロー (Anthony Dutrow) |
196 | 659 | 3.4 | 119 | 60.7% |
655万5533ドル (約7億2111万円) |
9948ドル (約109万円) |
M・カース (Mark Casse) |
128 | 413 | 3.2 | 62 | 48.4% |
631万7290ドル (約6億9490万円) |
1万5296ドル (約168万円) |
L・ジョーンズ (Larry Jones) |
80 | 398 | 5.0 | 44 | 55.0% |
593万1956ドル (約6億5252万円) |
1万4904ドル (約164万円) |
J・サドラー (John Sadler) |
178 | 638 | 3.6 | 73 | 41.0% |
540万8950ドル (約5億9498万円) |
8478ドル (約93万円) |
C・クレメント (Christophe Clement) |
115 | 355 | 3.1 | 55 | 47.8% |
531万8976ドル (約5億8509万円) |
1万4983ドル (約165万円) |
B・タグ (Barclay Tagg) |
88 | 344 | 3.9 | 38 | 43.2% |
517万4308ドル (約5億6917万円) |
1万5042ドル (約165万円) |
N・ジトー (Nick Zito) |
121 | 435 | 3.6 | 48 | 39.7% |
514万394ドル (約5億6544万円) |
1万1817ドル (約130万円) |
B・レバイン (Bruce Levine) |
183 | 573 | 3.1 | 93 | 50.8% |
475万6338ドル (約5億2320万円) |
8301ドル (約91万円) |
上位20人 | 4,329 | 16,546 | 3.8 | 2,158 | 49.8% |
1億8611万9119ドル (約20億47310万円) |
1万1249ドル (約124万円) |
全調教師 | 72,691 | 459,272 | 6.3 | 33,831 | 46.5% |
12億5257万9551ドル (約1376億7375万円) |
2725ドル (約30万円) |
上位20人の比率 | 6.0% | 3.6% | 6.4% | 14.9% |
大きな疑問は、ではなぜ平均出走頭数が減少しつつあるのだろうかということである。特に生産頭数と競走馬資源が近年少しずつ増加しているので、レース数が減少すれば1レースあたりの出走頭数は増加するはずである。この点についてブラムラーゲ博士は、1レースあたりの出走頭数は基本的に馬主・調教師による出走可否の判断を反映しており、1990年代半ばに始まった1レースあたりの出走頭数の減少は“大厩舎”の出現と調教師成績に関するデータが重視されるようになってきたことと軌を一にすると主張した。
ブラムラーゲ博士はここでデータから離れ、情報に基づく推測へと踏み込んだ。しかし、これらの数は何を意味しているのだろうか?
2007年のリーディングトレーナーについて、出走馬1頭あたりの平均出走回数を見てみよう。2007年の出走馬1頭あたりの平均出走回数は昨年6.3だったが、収得賞金額上位20人の調教師のうち誰も平均値に近い者はいなかった。最も近いのがラリー・ジョーンズ(Larry Jones)調教師で、彼の出走馬80頭の平均出走回数は5回である。
確かに、リーディングトレーナー達は最良の馬を管理するので、彼らと馬主にはそのような優秀馬を頻繁に出走させるモチベーションはない。目標は最高の競走で賞金を稼ぐことである。
彼らが如何に成功しているか見るのは興味深いことだ。上位20人の調教師の出走馬は出走馬全体の6%を占めるが、その管理馬の出走回数は全体の3.6%しか占めておらず、しかも1着回数は全体の6.4%と高く、出走馬の半分近くが勝馬となった(49.8%)。このことは大厩舎で成績を上げられなかった馬 は直ちに小厩舎に移籍させられることを意味する。
しかし、これらリーディングトレーナー達の最も重要な指標は、その収益力である。これら上位20の大厩舎の昨年の獲得賞金額の合計は北米の賞金全体の約7分の1(14.9%)を占めた。大厩舎の出走方針の変化が年間出走数減少の要因のひとつである思われ、それが競馬の統計に変化をもたらしたのは確かである。
By Don Clippinger
(1ドル=約110円)
[Thoroughbred Times 2008年9月6日「Looking for the cause of fewer starts」]