キーンランド11月セール、予想を上回る低迷(アメリカ)【生産】
大災害。残忍。流血の惨事。これらの言葉はこの原稿を執筆中の現時点からまだあと1週間開催が続くキーンランド11月繁殖馬セールを表現するのに、繁殖牝馬所有者が使っている言葉のほんのいくつかである。
誰もが世界的な景気後退からみてこの種のものでは世界最大であるこのセリの売上げが減少するだろうと予想していた。しかし、10〜20%の売上げ減少ならばともかく、開催15日間の7日目において総売上げで46%、売却平均値で37%および中央値(有限個のデータを小さい順に並べたとき中央に位置する 値)で31%も下落するとは予想していなかった。
一般的に、春の2歳馬調教セールの相場が夏と初秋に開催される1歳馬セールの基調を定める。そしてそれらの1歳馬セールによって、秋および冬開催の混合セールで何が起こるかを読み取ることが出来る。
すべての変化の最大の兆候は、総売上げが5701万9500ドル(約62億7215万円)、14.8%減少したキーンランド9月1歳馬セールである。それでも、同セールでは3,605頭が3億2799万9100ドル(約360億7990万円)で売却され、セリ史上では4番目に高い総売上げであったものの、売却平均値が10.2%[9万984ドル(約1001万円)]下落し、中央値は11.9%[3万7000ドル(407万円)]下落していた。
これらの数値が明らかになる前に、大部分の人々は9月セールの不調を確信していた。同時に、ドル価値の低下、金融危機など、サラブレッド産業を取り巻く経済情勢を表現する無数のネガティブな見出しを予想していた。
9月セールが引き金となった11月セールの低迷は、避けられないものであった。サラブレッド市場には下げ止まりはなくなってしまった。
9月末セールと11月セールの間の数週間に多くのことが発生した。ダウ工業株30種平均が10月初めの7日間の取引で20%以上下落し、アメリカ連邦議会は金融市場の流動性を促進するために7000億ドル(約70兆円)の救済プログラムを承認した。そして、2008年は現時点で米国の19の銀行が破綻し、失業率は過去14年間で最悪となった。
米国の景気後退のあおりを受けて、競馬賭事の売上げは第3四半期にさらに減少した。競馬場経営陣とホースマン(馬主と調教師)の電話投票賭事(advance deposit wagering)をめぐる紛争は、賞金額を削減させることとなり、ホースマンを幻滅させた。そして現在、サラブレッドの価格は下落している。
2002年キーンランドの6月最後の1歳馬セールの時と同様に、2008年11月セールで繁殖牝馬所有者は市況が軟調であるとみるとすぐに自身の馬をセールから取り下げた。これは馬をそのままセリにかけて主取りとするよりも良いと考えている。実際の購買者は1年後に同じ馬が再び上場されるのを目撃するだろう。
そのような場合、これらの繁殖牝馬所有者たちは馬を売却する必要のないといううらやましい地位にいることになる。つまり、彼らは2009年に世界経済が回復し始めることを期待して、もう1年待って繁殖牝馬を上場するだけの余裕がある。あるいは彼らは1年待って、離乳馬としてよりもむしろ1歳馬として上場しようと考えるのだ。
しかし、取引によって多少でも運転資金を得る必要のある人々は、他の多くの職業の実業家や専門家と同様に苦境に陥っており、販売価格が期待はずれの少ない金額となる困難な時代に直面している。
キーンランド11月セールにおいてある繁殖牝馬所有者は、予想よりもセールが低迷した理由の1つは、金融機関の馬取引資金貸付部門が貸し渋りをしているためであると述べた。
現在の市況は、多くの牧場所有者と繁殖牝馬所有者の双方に影響を与えている。サラブレッドの価格が下落(少なくとも現在は劇的に下落)している一方で、経営費用は上がり続ける。
セールにおける価格下落を見て、繁殖牝馬所有者たちは大半の種付料が値下げされることを期待している。実際、据え置かれている種付料の多くはもっと速やかに下げられるべきだし、値下げされた種付料の中にはもっと安く設定されるべきものもある。それでも、2009年においては大部分の種牡馬の種付料は前年よりもずっと手ごろなものになるだろうし、種付料の交渉は、繁殖牝馬所有者の優位に展開することだろう。
繁殖牝馬所有者は立ち直りの早い人々である。11月セールの結果は悪い側面ばかりではない。
By Dan Liebman
[bloodhorse.com 2008年11月11日「What’s Going On Here―Tough Times」]